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第四百九十話 瀬織津姫の役割

「・・よく耐えるな。」


劣勢を強いられていた兼定。だが、泰国と共に挑んだ過去の戦いより

遥かに善戦していた。


「耐えるさ。そこに勝機がある。」


その理由は単純。あの時使用しなかった瀬織津姫の存在。

日ノ本神話にその名が刻まれていない封印された神である秘神の正体は、

日ノ本における主神である天照大御神の対となる水の神。


「しかしだ、瀬織津姫よ。一つ尋ねたいことがある。何故、そ奴らに加勢する?

そなたの存在を冒涜し続ける奴らなどに従う意味を問いたい。」


遡る事大和政権時代。日ノ本神話の中でも絶大な信仰を受けていた瀬織津姫だったが、

主神である天照大御神への信仰が薄れると危険視した当時の皇が、

その存在を隠したことから名が消されたと、業内部で伝承され続けた。


「・・愚問であるな。」


兼定の隣に立つ瀬織津姫は、考えることなく答えを返す。


「・・・・・何?」


「我らは神。神とは、人の信仰無ければ存在できず。ただそれだけの事よ。」


信仰とは繋がり。存在に隔たりのある神と人間を繋ぐ願い。

支え、そして支える。たったそれだけの理由だと呟いた。


「理解できん。では、なぜ我らがいる?天に広がる晴天の遥か先に存在する

宇宙の神は人の信仰など受けていない。だが、間違いなく存在している。

人という下等な存在に依存しなくとも我らは生きていけるのだ。

それを・・・何故理解せんのだ?」


「下等か・・・。それは貴様の言う宇宙の神だからこそ視点なのだろうな。

だが我らは違う。民と共に生き、民と共に歩む。それが我ら日ノ本の神。」


ハスターなどの宇宙の神はクトゥルフが起こした結界の影響を受けていない。

次元と隔たりという強力な結界の影響を受けずとも人間に接触できる神々は、

当然信仰という繋がり依存せずとも存在することが可能。


「そこだ。わしが気に食わんのは民と共に歩むというふざけた理屈。

八百万の神々が信仰に依存するのは理解できる。日ノ本という地経上のいずれの大陸や

国と比較しても特殊な環境において、信仰は強大な力に変わる。

その力は神をも生み出し、まさに八百万と呼ぶにふさわしい神がこの島国には存在していた。

だが・・・・・それは過去の話し。今、日ノ本にはどれだけの数の神が存在している?

どれだけの神々が姿を消したのか理解しているのか?」


建国から約二千七百年と、長きに渡る歴史を紡いで来た日ノ本だからこそ八百万という

膨大な神が生まれた。そんな歴史の中で、失われた神の存在について忠行は語り出す。


「神とは人間と共に歩む。だが、時代が進むにつれ不必要なった神がいる。

大海の外からやってきた異国の民がもたらした文化。

それらによって名さえ呼ばれなくなった神は人間から忘れられ、

信仰が途絶えた神も多くいる。」


日ノ本における陰陽の祖である賀茂忠行は、多くの神に触れてきた。

神に触れ、神と共に生き、神という存在に敬意を払ってきた。

だがとある日。教え子たちにぞんざいに扱われる神の存在を目にした時の事。

神を愛する忠行の琴線に触れ、腰に差している得物で命を奪い神を救い上げたが、

遠く忘れ去られようとしていた神はひどく弱っていたが、当時の未熟な忠行では救えなかった。


「瀬織津姫よ。今なら遅くはない。わしと共に歩まないか?

人間など不必要。神のための国をこの日ノ本に作り上げるのだ。下等な生物に頼らず

全ての神が存在できる国を作ろうではないか。」


民と共に歩むはずの神がぞんざいに扱われて良いはずがない。

使われるだけ使われ、必要がなくなれば捨てられるなどあってはならない。

神だけが存在する国を作り上げることはできないかと模索していたその時。

深海に潜むクトゥルフにそそのかされ、忠行は自らが神と成った。


「どうだ?悪い話しではないはずだ。わしと共にくれば隣に立つ下等な人間の

従う必要などない。人間など最低限いればいい。神が住む国であればそなたも———————————」


必死に説得を試みる忠行の会話を阻む笑い。その乾いた笑いは

忠行の思想を否定するに十分だった。


「・・何がおかしい?」


「いやさ、青臭いなと思うてな。」


通常の人間からは考えられないほどの長寿である賀茂忠行を青臭いと言い放った瀬織津姫。

確かに太古から存在する彼女からしてみれば子供の様な年齢だろう。


「貴様のような神に私は幾度と出会ってきた。昔の様に神だけの国を作り上げる。

人間を奴隷とし、何者にも縛られることなく過ごそうと持ち掛けられた。」


存在した年月に対してではなく、抱いた思想が若いと語り始める。


「・・・・・それでどうしたのだ?」


「どうもこうもない。聞き流すことにした。当時の私はまだ信仰を受けていたからな。

人間に対して不自由を感じることなどなかった。

そして、業になった後・・・・・封じさせてもらった。”長”としてな。」


そう。瀬織津姫は神にでありながら業に所属しており、”初代長”の立場を担っていた。

そして長としての任を終えた後も、業としての役目をはたしている。


「長・・・!?神が・・・神を封じているのか・・・?」


「そうだとも。貴様はそこまで知らなかった様だな。私が日ノ本神話から名を消したのは

業の長を務めるため。通説など全てでまかせだ。」


全ては業の役目を遂行するため。自らの存在を消し、限られた者にしか伝えられない

伝承さえも偽り真相を隠していた。


「・・何故だ?なぜ神が、神自身が神を否定する?」


真相を明かされた忠行の声には怒りが滲み始める。


「お前のような理想しか語らん者には分からないだろうな。自ら惹かれる光しか視界に入れず、闇の部分を受け入れない。まず、我らが人と共に歩むのは天照の進言があってこそ。

それを私が支えるために姿を隠した。あまりに・・・神が醜かったからな。」


視線を逸らし、天を仰ぎながら語る瀬織津姫に対し忠行は口を挟むことはしない。


「貴様が人間で見た景色。それは以前人と神が共にいる時代にも起きていた。

その時は・・・・・逆だったがな。」


「逆・・・?」


「奴隷だ。上位存在として人間を支配していた過去。その記憶が我らを驕らせた。

次元が隔てられ、人に依存しなければ存在意義を示すことが出来なくなっても、

神は人間を支配していると勘違いをした。」


「勘違いもないだろう。上位存在が奴隷を従えるのは当然の事だ。

勘違いをしているのは人間の方ではないか。」


「・・貴様のような神がいくつもいた。そんな奴らがどのような末路を追ったのか分かるか?」


信仰を失った神の辿る末路。人知れずとなった神の行く末など人間が知る由もない。

だが、忠行は知っていた。陰陽の道を究めた者がその末路を知らないはずがなかった。


「・・・・・神としての存在を維持できず、”妖”となる。」


「そうだ。天照はそれを恐れた。伊邪那美と伊邪那岐が産んだ神が神でなくなる。

当時の高天原は荒れに荒れた。つい先ほど神だった者が妖となって暴れ出したのだ。

下等だと思っていた者達への反逆だととらえた神の数知れず、

妖となって人間達に襲い掛かるのは時間の問題。そしてそれは日ノ本の神々への信仰に

大きな傷をつけることは間違いない。」


暴れる姿形を変えた神々の姿を見た天照は出雲にて神議り(かむはむり)を開き、

打ち出した策こそ求心力を持つ瀬織津姫を下界送り。

主神である天照の求心を高め、下界で暴れ出した神々を瀬織津姫が封じる。

苦肉中の苦肉の策と言えるが、まともに昨日を果たしていなかった高天原では

それ以外の策が生み出せなかった。


「我らが子孫である皇はその事態を聞きつけ、すぐさま部隊を編成した。

人との歩みを勘違いした愚か者。そして・・・・・時代が移るにつれ不必要となった

神々が妖となり暴れ出さない様、我と共に歩める秘匿の部隊。それが業。

本来神が背負わなければならない業を人の身である彼らはその小さな体で

必死に背負っている。これこそが我と彼らの歩み。我らは支え合わなければならんのだ。

互いを求め、互いを敬う。それが人と神の本来の姿。その歩みを貴様は絶とうとしている。

我らがそれを許すと思うか?愚かな者たちよ。」


上位存在と奴隷。そのような関係値であっても、互いを必要としていた。

クトゥルフと神々の戦いによって生み出された結界がきっかけとなり、

互いの存在が隔たられても、必要としあう関係は変わらない。


「・・・・・・・・・ふん。」


自らの行いを全て否定された忠行は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「神としての威厳を捨て去るとは、落ちぶれたな。」


「言い訳一つもせんとな。まあ、潔いと褒めてやろう。」


「語らい一つで歩みを止めるなど、これまでの自らを全て否定する事と同義。

雌雄を決し、わしは神の国を作り上げる。それこそが今まで朽ちてきた神々に対する

礼儀であり、その存在を冒涜的までに否定し続けてきた貴様に出来る唯一の侮辱。」


言葉での勝敗など無意味だと呟いた忠行は天を見上げる。

頂点を過ぎ、後は落ちていくだけの太陽を阻むように浮かぶ強大な神力。


「謀は全て成した。後は・・・貴様らを摘み取るだけ。」


破壊されたルルイエの中に封じられていた神力が忠行の元へ落ちていく。


「さあ・・・・・”くとぅるふ”よ。我らも共に歩もうとしよう。」


そして・・・・・地上に降り立った神力は忠行の体にまとわりつく。

遥か太古の時代。地球を我が物とするべく降り立った旧支配者が、

再びその姿を現そうとしていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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