第四百十五話 ガタノゾーアとオトゥーム
片野との再戦。どれだけ強化されているか分からないが・・・石化という
強力な能力は健在だろう。
「・・黒壁。」
空中では奴の視線から逃れられるような場所は存在しない。
強力な敵相手に視界を狭めることは怖いが、仲間達を護るために辺りに黒い風の壁を作り上げる。
「おいおい。俺の眼がそんなに怖いかよ。ずいぶんと弱気だな。」
奴は煽ってくるが、そんなことは関係ない。仲間達を護るためには必要な事だ。
「俺も期待に応えたいが・・・残念ながら石化の力は使わない。
いや、使えないと言った方が正しいかな。」
一度敗北を叩きつけられているのに対し、未だに舐めてきている。
だが、俺達からしたら好都合。その隙を突かせてもらおうと全体に攻撃準備の指示を送るが、
動きを察知した片野は先ほど放った言葉とは裏腹に警戒を強める。
「舐めていると思ってんのか?そんなはずないだろ。
お前の仲間達ぐらいにしか聞かない石化の眼なんて使っていても力の無駄だ。」
そう言うと、片野は無詠唱で魔術を使い始める。
「俺の狙いは・・・お前だけ。端からお前しか興味が無い。」
すると下の方から何かが大きく揺らぐ様な音が聞こえだし、地上に生えている
コンクリートの群れ達が大きな音を立てながら崩れ始める。
地上にいる白の部隊達を狙った攻撃かと千夏さんに連絡を取ろうとするが、
崩れたコントクリートが盛り上がってきている事に気が付き、すぐさま警戒を高める。
「安心しろよ。下の奴らはもうここにはいないだろうからな。」
地震が起きたことを報告してきた千夏さんの声は、片野の言葉が真実だと言う事を示していた。
奴は俺が戦いに集中するために根回しをしていた様だ。
盛り上がってきたコンクリートから、何かが顔を出してくる。
それは巨大な岩の塊であり、かなり巨大な岩山が奴の足元向けて伸びてきていた。
「知っているか?オトゥームはな、過去に部下に指示を送り火山島を浮上させようと試みた。
その目的は謎とされていたが、自らの力を部下に継承するための実験だったんだよ。」
岩の塊の先端には大きな穴が開いており、その中から赤い光が漏れ出している。
泰兄達が残した文献の中にそのような内容が書かれていたが、全てはオトゥームの
部下である深海怪物の仕業とされていたのであまり気を掛けなかった。
海底火山の浮上。奴の足元から伸びている火山がオトゥームの力によって引き出されたのであれば
非情に厄介であり、至る所に出されれば被害はどこまでも広がるだろう。
(あれを・・・押さえつけるのは難しいな。)
出来る事なら火山が出来上がる前に破壊したい所だが、山から漏れる溶岩が
街に広がってしまえば下にいる白や千夏さん達が被害を受ける。
「・・・・・ケライノー。」
となるとやはり狙わなければならないのは片野本体。
呼び出していたケライノーを奴に差し向けるが、迫っている姿を見ても片野は余裕を崩さない。
「結局の所、比留間の野郎もオトゥームの全てを引き出す事は叶わなかったんだよ。
こいつ本来の力はな・・・。」
迫るケライノーの破壊の剣を身に着けている鎧が迎え撃つ。
西洋の鎧が赤く染まっていくと、ケライノーの剣を飲み込んでしまった。
「地中深くに眠る地球の血液。溶岩の力を操る神なんだよ。」
破壊の剣は灼熱の溶岩さえも破壊しようと回転し始める。
だが、沈んでいく剣の刀身は奴の体に届くことは無い。溶岩の灼熱を前に
回転など無意味であり、気付けば全て焼き尽くされてしまい残ったのは剣の鞘のみ。
唖然とするケライノーの隙を逃さなかった片野は溶岩を操り灼熱で包み込んでしまった。
「さて・・・どうする?賀茂龍穂。」
二つの神の力を完全に引き出した片野は強敵だ。以前の戦いより確実に強くなっている。
これが神と成った姿か・・・。宇宙の神は流石に強い。
「・・どうするも何もない。」
だが、奴の力の一端を見ただけで怯むわけにはいかない。俺も伊達に修羅場は超えてきて
いないのだから。
「黒き女神。」
純恋達を前に出すことはできない。奴の強大な力に少しでも触れれば命を落としてしまう。
戦略は変えずに俺だけが前に出て奴と戦う。
視界が悪い中で援護をさせるのは不安だが・・・やるしかない。
味方を増やすためアルテミスを作り出し、俺の隣に立たせる。
そして再度ケライノーを増やし、手数を増やす。
「おいおい。仲間達はどうした?石化はしないって言っただろ?」
「・・うるせぇよ。」
戦う前なのに奴を打ち倒すビジョンが浮かんでこない。
ケライノー、そしてアルテミス。手数を増やしても果たして隙を作れるのだろうか?
「・・死の吸血蝙蝠。」
戦う前から気負けしてどうすると、カマソッソを作り出し片野に向けて撃ち放つ。
狙いは・・・あの火山。もし噴火などを許せば東京の街がボロボロになってしまう。
「まずはそこか・・・。まあ、そうだろうな。」
俺の動きを察していた片野だが、迫るカマソッソ達を悠然と見つめている。
翼の大きなカマソッソであれば、火口を覆う事が出来るだろう。
「御神火。」
だが片野がそんなことを簡単にさせる訳がなく、燃え滾る火口の中で揺らぐ溶岩を沸かせ、
近づくカマソッソに向けて噴出させる。
ただの高熱を持った火の塊ではなく、文字通り冷えると岩になる物質は
カマソッソの翼を焼き尽くそうと狙ってきた。
「安直だな。こんな奴に俺は—————————」
何処が口か分からない不気味で、見ただけでも不快感を与えるぶよぶよとした
肌を持つ奴の体に俺は近づいていた。
「その言葉。そっくりそのまま返してやるよ。」
強敵と分かっている相手に対し、真正面から挑むほど俺は安直じゃない。
奴が存在感の大きいカマソッソに意識を向けた瞬間、空渡りを使い空気に紛れて接近を
試みていた。
「フッ!!!」
奴は俺の接近に気付いており、一兎流の構えを取るほどの余裕はない。
握りしめた六華を醜い皮膚を覆った禍々しい鎧に向けて振り下ろす。
巨体を持つ奴に対し、心もとないほど短い刀身。俺の姿を見た奴は安堵のため息をつく事だろう。
だが、貴人との戦いでの試し切りで確認したこいつの切れ味は半端じゃない。
鎧を簡単に切り裂き、醜い皮膚を断ち切った。
「!!??」
見た目に反した予想外の一撃を喰らった片野は体から触手を素早く伸ばし、
俺を薙ぎ払おうとするが、勢いまま六華で切り払う。
「面・・・倒だな!!!」
貴人は自らの力を使いこなせていなかったが、片野の場合はその逆。
力を引き出してはいるが使い方がお粗末。
長く生きてきた貴人の方が様々な戦い方で俺を攻め立ててきたが、
片野は強い力を一辺倒に使おうとしているだけ。
(行け・・・!!!)
今度は俺に意識が向いている。カマソッソが目指す火口は無防備であり、
噴き出した溶岩を躱しつつ体を回転させて煮えたぎる火山の中に突っ込ませる。
「今度はそっ・・・!?」
意識を振られる片野は火山に視線を取られるが、断ち切られた鎧の隙間を狙った
アルテミスの矢が皮膚に突き刺さる。
過信している間に出来るだけのダメージを与え、気付かぬ間に急所を狙う。
「・・安直だ。その判断が手遅れにならないといいな。」
急所とは生物において傷ついた場合に命に関わるか所の事言うが、戦いでの意味合いは
少し違う。敵の本命、策の中でも一番の肝を潰すことで勝敗を決させる事。
自信家の片野がいの一番に出した火山はそれだけ強力で、戦いにおいて重要になるのだろう。
カマソッソで破壊できるかは分からないが、成した場合勝利にぐっと近づける。
「黒い恒星」
火口に突っ込み、内部に入り込んだカマソッソの形を変えてブラックホールを作り上げる。
全てを無にする破壊の回転。内部から破壊すれば周りへの被害が抑えられる。
短い時間で考えた策を成した俺は空渡りで空気に紛れ、奴の触手を躱しながら距離を取る。
(これで・・・火山が終わってくれれば・・・。)
全てうまくいったが、中身を見れば小競り合いで意識を削いだ後に確証の無い一撃を
奴の策の肝に打ち放っただけ。奴自体に与えたダメージは皮を割いて肉に小さな穴をあけたのみ。
これで火山に何もなければ、ただただ六華の切れ味を確かめただけになる。
「クソッ・・・!!」
ちょこまかとした俺の動きに苛立った片野は、距離を取ったことを確認した後に
火山内部に出来上がったブラックホールを何とかするために魔術を唱え始める。
破壊の風によって生まれた衝撃が火山や地面さえも震えさせ、コンクリートまで伝わり
地震となって灰色の街を襲っていた。
「——————————————————!!!」
片野が唱えていたのは人が扱う言語ではなく、聞いただけではその中には理解できない。
恐らく・・・宇宙の言語なのだろう。こいつが人でなくなったことを改めて実感する。
そして何かを言い終えると、火山が一瞬にして緑色の鉱石へと姿を変える。
硬度が増し、地震が収まった瞬間。ブラックホールの魔力も焼失した。
「・・フフッ。あっけ・・・ないな。」
こちらに仕掛けを対処した片野は安堵の笑いの後、俺に向けて呟く。
その姿を見た俺はこの戦いが激しく、そして長引くことを覚悟した。
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