第四百九話 過去に倒した強敵たち
切りつけたはずの貴人から見えた光沢のある緑色。
六華を阻むあの硬度。そして光り輝くその色を俺は忘れない。
「・・これか。」
「何がだ?」
「賀茂忠行があいつをここに置いた意味がやっと分かったよ。」
賀茂忠行は貴人で俺を仕留める気だ。奴の体から発せられる緑色がそれを示している。
「・・ガタノゾーアか。」
「ああ。あそこで仕留めたと思っていたんだけどな。」
片野が使役していたガタノゾーア。その力を貴人は有している。
「ばれてしまったね。出来ればまだ隠しておきたかったんだけどさ。」
あまりに厄介な能力だ。下手をしなくてもここで全滅までありえる。
「龍穂の言う通りだったな。ここで明かしておかなければ、
純恋達が石にされていたかもしれん。」
見た者を緑の鉱石に返る石化の魔眼。非情に厄介な能力だが、
戦場が空であるのは数少ない前向きな状況だ。
「・・純恋達に連絡を入れておく。もしこちらに合流出来ても簡単に近づくなってな。」
背後に黒い風の壁を作り上げ、純恋に一方的に状況を伝える。
戦闘中の様で返事はなかったが、戦闘中に石化を与えられないだけでも一安心だろう。
「あら。勢いがなくなったねぇ。この力がそんなに恐ろしいかい?」
「何か勘違いをしているみたいだが、俺達はお前の中にいるカタノゾーアを一度倒している。
そいつの力への対処法も把握済みだ。恐れてなんていない。」
自分で言いながら思ったが、あまりに下手くそな強がりを見た貴人は
口元を手で隠しながら笑みを浮かべてこちらを見つめる。
「いいねぇ。忠行様から力を借りた甲斐があったってもんだよ。
アンタ達が恐れるほどの力。存分に発揮してあげるよ。」
これ以上貴人を調子づかせたくないが・・・奴の自信をへし折るのは難しくなってしまった。
高い陰の力を体に秘めている俺達は石化は無効化できる。
この状況を生かし、何とかするしかない。
「やらせねえよ。」
片野を倒した経験を活かし、奴へ効果のある魔術である黒牛を呼び出す。
「天の黒牡牛」
しかもあの時より強化された魔術だ。これを突っ込ませる事が出来れば効果はあるはず。
グガランナは前足で空気を掻き、いつでも突っ込める準備は出来ているが
あの時と大きく違うのは的が小さい事。
巨大なグガランナといえ、あの小さな体に自慢の角を突き立てられるかと言われると少し難しい。
「星屑。」
動きを予想しやすい様に辺りに風の弾を浮かせて一斉に打ち放つ。
そして動き出したグガランナの走るライン上に逃がすように誘導を試みた。
「俺も動こう。」
さらにイタカの吹雪が辺りに舞い、貴人の動きを鈍らせようと画策する。
これであればグガランナの角が命中し、あの硬い緑色の鉱石を破壊してその下の
柔肌を貫いてくれるだろう。
「良い連携だね。全て計算されているのが分かるよ。」
だが、肝心の貴人は避ける素振りさえ見せず、迫るグガランナをただただ見つめている。
まともに受ければ体の殻を破られることぐらい奴も分かっているはずだ。
(・・どういうつもりだ?)
「今、思ったね?避けない私を見て、どういうつもりなんだと。」
次なる一手に備えていた俺を見て、貴人は尋ねてくる。
だが、強がりもここまでだ。グガランナはすぐそこまで迫っている。
奴の自信をへし折る事は難しいと考えていたが、ああなれば全て手遅れ。
賀茂忠行の策も全てあの角がへし折ってくれる。そんな俺の願いに似た思惑を
貴人はいとも簡単に絶ち切って見せた。
「ここまで来たら見せないとね。出し惜しみは無しだよ。」
迫るグガランナの体が突然止まる。何かにぶつかったわけではない。
何かを叱られた様子もないのに、もがく様子もなくピタリと止まった体は
まるで石化されたかのようだ。
だが、グガランナはあくまで風。空気の流れは石化の対象にならない。
出は一体何故固まったのか。魔力操作も聞かないこの状況は、俺の頭をひどく混乱させた。
「来たれ。”オトゥーム”。」
俺を惑わせる答えが、すぐさま目の前に現れる。
体を固められていたグガランナの体が浮かび上がると、光が当たる角度が変わり
姿を現した巨大な”剣”が巨大な体に突き刺さっており、
黒牛を突き刺した剣を手にする何がか貴人の背後に立っていることに気が付いた。
「あれは・・・。」
西洋風の剣を手にしているのは巨大な上半身を持った髑髏の騎士。
その姿を、俺はまた見たことがある。
「今までは二体だっただろう?私はもう一体持っているんだよ。
我が主を護る騎士、オトゥームをね!!」
平さんが使っていた相馬の古御所。そしてそのガシャドクロが
鎧を身に纏っていた姿にひどく似ている。
あれは宇宙の神の姿であり、平さんから奪い取った物だと理解する。
「馬鹿なもんさ。まさか手ぶらで帰ってきて無事で済むなんて思っていたんだからさ。」
手ぶらで帰った・・・?いや、あの人は投獄されていた。
その中で命を落としたのだと聞いていたが、まさか逃げ出していたなんてことがあるのか?
(・・・・・いや。)
それはない。もし、あの人が生きているのなら黒川と平田さんを放置しないはず。
自らの悲願を愛弟子達共に見届けるだろう。
そして・・・平さんの択が消えたことで俺の中に新たな選択肢が生まれる。
「・・比留間の事か?」
手ぶらで帰ってきたとなると・・・俺達と戦闘になった可能性が極めて高い。
今までの敵で逃した奴。思い当たるのは比留間しかいない。
「そうさ。あいつはまんまと帰って来やがった・・・。
私の悲願を叶えると言った手前でね。」
悲願・・・?となると、純恋達から聞いた国學館寮の襲撃の時か。
あの寮にある貴人の悲願・・・。まさか・・・。
『・・千夏さん。聞けますか?』
急いで千夏さんへ念話を送る。俺の頭の中に浮かぶ悲願であればマズいかもしれない。
『聞けます!!どうしましたか!?』
かなり緊迫した状況の様だが、それでも伝えなければならない。
『近くにちーさん達がいますよね?白の部隊に今すぐ月桂寮へ援軍を
送るように伝えてください。』
『それは・・・したいのは山々なのですが、地上で援護をしてもらっています!』
『そうですか・・・。では、沖田に頼んでください。
寮を死守して欲しいと近藤さんに伝えてください。』
用件だけを伝え、六華を強く握りしめる。
あそこには東京結界を強化する装置が置かれている。
恐らく、現在稼働しているはずだが・・・その動力源になっているのは”安倍晴明の遺体”。
貴人が何をしようとしているのか分からないが、あれを狙っているのだとしたら
俺達の想像を超える何かを企んでいる可能性は十分にある。
「おや。警戒を強めたね?」
俺の反応を楽しんでいる貴人。俺の頭の中を覗いているかのように。
もしかしたら俺の推察は深堀し過ぎなのかもしれない。出来ればそうであって欲しい。
だが・・・そう思って事が好転したことは数えるほどしかない。
やれることは全てやるべきだ。それがみんなのためでもある。
「何を思ったのか分からないけど、全て無駄に終わるよ。
何せ、アンタはここで私に殺されるんだからね!!」
混乱していると思った貴人はグガランナを貫いたオトゥームの剣を振り上げ
俺に向かって振り下ろしてくる。
「龍穂!!」
隣居るイタカは心配の声を上げるが、俺はただその光景を冷静に見つめてながら
握りしめた六華を天にかざす様に置く。
辺りに響く衝撃音。オトゥームが六華に衝突した証だが、刀身が俺の頭に届くことは無い。
「なっ・・・!?」
驚いた貴人の表情が良く見える。何せ巨大な剣が細い刀身の六華に受け止められたからだ。
「お前・・・。」
ハスターとの神融和。黄衣をまとい、ハスターの力を体に付与することで
魔力神力ともに強化される。魔力操作も段違いになるが、身体能力も大幅に増加される。
基本的に中距離戦に重きを置き、移動する時も空中を浮いている事が多い俺にとって
身体能力の強化の恩恵はあまりなかった。だがやろうと思えばオトゥームの一太刀を片手で
受け止め、貴人を驚かせることぐらいは出来てしまう。
「・・良い刀だな。」
そしてそれはこの刀。無銘六華があってこその所業だ。
あの一撃を刃こぼれせず受け止められるほどに鍛え上げられたこの刀の性能にほれぼれする。
式神を封じ込め、その力を打ち放つことがあまりに有用なため刀本来の使い方を
あまりしてこなかったが、こうして何百何千と折り返し、鍛えられてきた刀身の
力強さにほれぼれする。
「さて・・・まだまだ見たいな。」
刀を振り払い、オトゥームの剣を貴人の元へ返す。
小さな体に秘めた未知数なパワーに今度は奴が驚いていた。
「・・何をだ?」
「言っただろ?天井だよ。やっと切り札を切ってくれたんだ。あの力を
どれだけ使えるのか見ておかないとな。」
これが貴人の上限。これ以上の仕掛けはないと俺は思っている。
「いやに冷静だな。さっきまでの驚いた姿はどこに行ったんだ?」
「いや、確かに驚いたよ。倒したはずの神の力を二体も持っているなんてな。
でも・・・たったそれだけだ。後は倒すだけだよ。」
ずっと驚きを引きずる方が難しいだろとイタカに尋ねる。
貴人は今までの戦いでのトラウマを引き出せるとでも思っていたのかもしれないが、
結局は一度倒した相手だ。一度見たことがある能力なら対応できる。
「・・楽しめそうか?」
握りしめた六華を鞘に戻した俺に対してイタカは尋ねてくる。
「・・・・・ああ。」
なんというか・・・心に余裕が生まれて視野が広くなったのかもしれない。
既に備えていた力を再度確認し、その強さを確かめる。
今までの切羽詰まった戦いで出来なかった事だが、これ以上に楽しいことはない。
無邪気な心を携え、ゆっくりと貴人に向かっていく。
晴れた視界が捉えていた貴人の表情には、若干に恐怖が混じっているように見えた。
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