第三百八十六話 駆けつける白達
「・・・・・・・・・・・・。」
純恋の説明を聞いたが・・・返す言葉が出てこない。
「まあ、最悪の未来の一つを見てきた訳やな。」
俺は・・・命を落とした。この病室で純恋達を拒んだ末がまさかこんな末路を辿るなんて・・・。
「・・あんま気にせんでええ。もう、あんなことは起きないんやからな。」
純恋が所々で呟いていた意味を、ここでやっと理解する。
未来から帰ってきた純恋がどうにかして俺を説得するために必死になっていた事。
そして・・・結末を変える事が出来て安堵していたんだ。
「純恋には悪いが・・・かなり馬鹿げた話だとは思う。
影定さんや八海にいる兼子さん、それか兼定に聞けば裏は取れる。
だが、今はそんなことをしている場合じゃない。龍穂には申し訳ないが、受け入れて欲しい。」
受け入れるも何も・・・あそこまで必死になってくれた純恋の姿を見れば信じる他ない。
「でも、時戻しなんて可能にするにはかなりの力が必要になる。
想像もできないけど・・・一体どんな力を使ったんだ?」
目には見えない時の流れを動かし時を戻すほどの力など、想像がつかない。
一人の力じゃ到底賄えない力だ。一体どうやってその力を賄ったのか、単純に気になってしまう。
「それは・・・。」
俺の問いを聞いた純恋は、辺りを見渡して明らかな動揺を見せる。
「・・・・・この戦い終わったら言うわ。」
純恋の発言に、みんなが注目していた所を見るとどうやら誰にも話していない。
だが、それなりの何かを犠牲にして来たことだけは確かな事実だ。
これ以上深堀をしても何も出てこない。それに、純恋が今は言いたくないと言っているのならば
個々は大人しく引くべきだろうと、分かったと頷くと
病室の扉が再びノックされる。
「・・・・・待たせたな。」
やってきたのは兼兄と毛利先生。どうやら話し合いは良い方向へ向かった様だ。
「色々と話したいが・・・時間は待ってくれない。ここからの動きを指示する。」
二人は既に臨戦態勢。それもそうだ。敵は既に仕掛けてきている。
「純恋ちゃんの話しは春から聞いている。よく、決断してくれた。
その情報に俺達が向かわなければならないのは・・・大きな電波塔だ。」
現在東京には象徴的な電波塔が二つ立っている。
兼兄が示しているのは一体どちらなのか分からないが・・・そこに行けば何かがあるのだろう。
「純恋ちゃん。いるんだな?」
「ええ。伊達さんと・・・武田さんがいるはずです。」
「武田さん・・・?」
「加奈子のじいちゃん。武道省の理事や。あの人がこの状況を打開するために動いてくれとる。」
武田さん。確か真田さんとの会話で名前が出てきた事だけは覚えている。
仙蔵さんと同じ三道省の理事。たったそれだけでかなり追い込まれている事が分かる。
「ひとまず移動しよう。細かい説明は後にさせてくれ。」
この場に留まることがマズいのではなく、早く動かなければならないのだろう。
理事とはいえ、今の東京は敵の手が広がっている。もし襲われればただで済むか分からない。
「龍穂。いけるな?」
傷はまだ完治していない。だが、千夏さんのおかげでかなり動けるようになった。
「・・・ああ。」
ここで動かなければ大切な人達を護れない。兼兄の指示に従い急いで着替えて病室を出て
暗い廊下を挟んだ陽の光が漏れる扉の中に入っていく。
「・・あら、ずいぶんとお早い決断だったようですねぇ。」
光の中、屋上で待ち受けていたのは・・・無名先生。
国學館の教師であるこの人は俺達の仲間であると思っていたが、周りの反応は真反対。
明らかな警戒、そして得物まで取り出している。
「待て。」
だが、先頭に立つ兼兄が手を前に出して静止の指示を送る。
一体、無名先生は純恋達に何をしたというのだろうか?
「これで・・・混沌が訪れる。楽しみですねぇ・・・。」
「・・ニャル。」
うっとりする様な表情を浮かべながら空を見上げる先生に向かって
兼兄が聞き馴染のない名で呼びかける。
「ニャル・・・?」
「あいつは、ニャルラトホテプや。」
ニャルラトホテプ。ナイアートラップとも呼ばれる混沌の王にしてドリームランドの支配者。
仙蔵さんのお家のどの資料にも名前が載っているほどに有名で力のある宇宙の神。
そんな奴が・・・俺達の前に立っている所か、今まで近くにいた事実に衝撃を受けながらも
マズい状況を理解して六華を取り出す。
「どっち側につく・・・なんてことはもう分かっているか。
お前の事だ。片方を支援するなんてことはしないよな?」
「ご安心を。そのような興を削ぐような事を私がするはずがありません。
私はこの戦いの結末を見たい。混沌に包まれたあなた方がどうの様な結末を迎えるかを。」
宇宙の神を前にして、兼兄は親し気に語り合っている。
この二人は、一体どういう関係なんだ?
「にしてはあまりに過保護に見えるがな。」
「あなた方があまりに情けないからそう見えるだけです。そう思うのなら
自分達の不甲斐なさを呪いなさい?」
「分かったよ・・・。で、何をしに来たんだ?」
「ただ様子を見に来ただけです。あなたのね。」
俺かと返す兼兄に近づき、肩を叩いて何かを呟く。
「フィナーレ、楽しみにさせてもらいますね?」
そして・・・兼兄の影の中に潜っていった。
とにかく無事かと毛利先生達が駆けよるが、何かされた様子は一切ない。
「・・大丈夫だ。それより・・・。」
兼兄が空を見上げると、何かが近づいてきている事が分かる。
鳥・・・。こちらに向かって急降下をしてきている。
「・・さすがだな。」
空高く飛んでいる鳥を見て、兼兄はどうしたのだろうと空を見上げていると
ぽつぽつとあった影がだんだん大きくなっていく。
「なんだ・・・あれ?」
しかも・・・その中のいくつかは大きな翼を鳥の形をしていない。
あれは一体何なんだと若干の警戒をしていると、近くにいたちーさん達が得物をしまえと
指示を送ってくる。
「久々に見たね・・・。」
「しまいな。味方だよ。」
徐々に近づいてくる姿に、何も知らない俺達は驚く事しか出来ない。
その体は鱗に覆われており、鳥にあるはずの嘴はない。
「・・竜次。昔の様にお前に隊を任せる。」
降りてきたのは・・・龍。いや、きっとこれはワイバーンと呼ばれる様な種族なのだろう。
鞍をつけられたワイバーンの背中には近代的な装備を整えた人が乗っている。
「お前、呼んだのか?」
「ああ。俺の策はとっくのとうに崩れていた。ここから巻き返すには
なりふり構っていられないからな。」
そして遅れてやってきた背中に翼を生やした人間。同じように近代的な装備を整えている。
装備はばらつきがあるものの、共通してつけているのは真っ白な長方形の刺繍。
まるで国旗の様な形をしているが、あのような物は見たことがない。
「すまないな。無茶を言って。」
降りてきたワイバーンの主に向かって謝罪をするが、帰ってきたのは言葉ではなく
頬に向けられた拳。どうやら怒っているようだが、兼兄は避ける事さえせずに
まともに頬を打ち抜かれる。
「・・分かっているよ。」
まともに言葉を交わさず、ワイバーンの背中に催促する。
白の一員なのだろうが、あまり良好な関係を築けていないのだろうか?
俺達もワイバーンの背中に乗せてもらう。かなり緊迫した状況ではあるが・・・
初めての体験に心が躍ってしまう。
龍と同じく神話上の生物。こんな体験ができるのは限られた人間だけだろう。
「こいつらを呼んだってことは、他の奴らにも声をかけているのか?」
「ああ。全員にかけた。来れるかは分からないがな。」
空に飛び立ち、灰色の海の上を駆けだす。操縦者から頭を下げる様に指示を送られると
流れる空気が俺達の体目掛けて飛び込もうとして来ており、
振り落とされないように急いで体を屈める。
「アル、ノエル。お前達にも隊を分ける。昔の分け方で良い。
連携を重視しながら指示を送ってやってくれ。」
「承知したわ。でも、兼定と春はどうするの?」
「春には日ノ本にいる部隊を任せる。俺は・・・各部隊から数人数借りて
行動させてもらう。」
俺達が見てきた白の部隊はたった一握り。世界中に散らばっていたとは聞いていたが、
かなりの人数を有した大部隊だった。
「・・なあ、なんで今まで動員しなかったんだ?」
素直というか、当たり前の質問を兼兄に投げかける。
それだけの部隊がいるのなら、これまでの戦いをもっと楽に進められたはずだ。
「・・・・・お前のためだ。」
兼兄から帰ってきたのは俺の名前。
「確かに俺達の部隊は強力。だが、それでは龍穂が実力をつけられなくなってしまう。
それに、仙蔵さんからも言われていたんだ。
切り札は何枚育てておいても悪いことは無いってな。」
・・ここまでの戦いが無かったら、俺は空気の操作なんて出来やしなかっただろう。
それにしても、かなり荒い修行方法だ。
「ひとまずだ。色々話しは目的地に着いてからにしよう。」
白の本気。決戦の雰囲気が強くなってくる。
ただならぬ緊張感に置いて行かれない様にしっかりと踏ん張らなければならない。
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