現状を確認すると、進む方向が見えてくる
勇者パーティから離脱して俺が向かったのは、魔境の手前にある平原。そこにある何の変哲も無い……だが俺にとっては運命すら感じさせる岩の側にいくと、俺はその上に腰掛けて軽く息を吐いた。
「ふぅ……まずは成功だな」
過去に戻って運命をねじ曲げ、魔王を倒した。そこまでは危なっかしい箇所はあったとはいえ既定路線。もっとも懸念していたのは、俺がこの世界に留まれるかと言うことだ。俺が手にする切り札は、神の示した普通の方法で帰還すると、おそらく失われてしまうから。
そしてその賭けに、俺は勝った。俺の方から別れを告げて出てきたことで、未だに俺の中に天の声は響いてこない。実際魔王城からここまで「追い風の足」で何時間もかけて移動してきたが……ちなみに徒歩だと一ヶ月くらいかかる……こうして平然としていられるのだから、アレクシス達が国に帰ってパーティの解散宣言をするまでは平気だろう。
いや、これだけ距離が離れてれば平気なのか? その辺の細かい仕様は未だによくわかんねーんだが、まあそれはいいとして。
「よーし、よしよしよし。まずは現状だ。今の状況をしっかり整理し直そう」
あえて口に出してそう呟くと、俺はパーティ全滅という憂き目を見た日からの事を改めて考えていく。
まず最初に、どうして俺は死ななかったのか? 決してあの魔王が下手を打ったわけじゃない。普通ならば全ての力を奪い取られた俺は、あの場で消滅していたことだろう。
ちなみに、その場合はおそらくあの魔王が新たな器……というか基点となって、この世界そのものがループするようになったんじゃないかと推測される。あいつが力を付けて外の世界に出ようとすると、その時点で全部が無かったことにされて最初に戻るって感じだろうな。ま、あくまで予想だけど。
では何故そうならなかったのか? その答えは……この場所にある。
「懐かしい……ってのも違うか」
一周目……実際には違うが、わかりやすいからそうしておく……の最後。俺はこの場所でティアの最期を看取った。そしてその直後、俺は「たった一度の請求権」を使うことで記憶と力の全てを引き継ぎもう一度やり直すことを選ぶ。
この時起きたのが、魂の交わりだ。死んだ直後のティアは勿論、俺自身もまたあの瞬間魂となり、この世界を一緒に抜け出している。そして魂には魂のみが干渉できる。ほぼ同時に同じ場所で死んだことで、俺とティアの魂はほんのわずかだが触れ合い、混じり合った。
もっとも、それ自体はそう珍しいことじゃない。同じ戦場で仲間と一緒に死ぬなんてのはごくありふれたことで、特に大規模な戦争でもあれば魂なんて混じり放題だ。ただ、通常はそれでも問題は起こらない。そもそも死んだ魂というのは遙かな高みにて一つになり、浄化されたうえで新たな命へと生まれ変わるからだ。
だが、俺は違う。俺だけは完全に独立した扱いになっているので、表面的な記憶は消されても魂の浄化なんてものはされない……というか神程度じゃできない。しかもあの時に限っては本来消されるはずのものすら全て引き継ぐ設定で新たな俺に宿った。
だから俺の中にはティアの魂がほんの少しだけ混じったままで……それは魔王の力ではないため、あの魔王には吸収できなかったのだ。
「今回もまた世話になっちまったなぁ。ったく、助けられてばっかりだぜ」
嬉しさと情けなさを入り交じらせた苦笑を浮かべ、俺は空を見上げる。ちなみにティアが俺の力をごく一部とはいえ使えたりするのは、俺がそうであるようにティアの魂にも俺の魂がほんのちょびっとだけ混じっているからだ。
まあそっちはあくまで今回だけのことなので、もし今のティアが死んで別のループに入る場合は、混じった俺の魂は受け継がれないだろうけどな。
では次に、ここに突き立っていた「銀翼の剣」についてだ。あれがここにあった理由は、当然ティアがあれを触媒にして俺のところに来た……更に言うなら「世界の壁を越えた」からに他ならない。
これもまた当然ではあるが、普通人は「世界の壁」を越えられない。そりゃそうだ。ほいほい世界間を移動できたりしたら、俺の力を分割封印するなんてのが成り立つはずがないからな。
だがティアはその偉業を為した。本来あり得ないそれは魔王の存在と同じく世界から拒絶され、だがこの世界で生まれた概念だけに完全に消し去ることもできず、結果世界から半分はみ出たような状態で漂うことになっていたのだ。
それは多分、この世界の存在でありながら同じように世界を飛び出し、世界からずれたティアにしか見えない剣。それを俺が見て手に取ることができたのは、俺が生き延びたのと同じ理由。自分の魂の九割以上が他人……というかティアだったのだから、そりゃ世界だって俺の事をティアだと認識することだろう。
結果俺は剣に触れることができた。そして剣を手にした瞬間、同じ魂が別の場所に同時に存在するという矛盾を解消するべく魂が繋がり合い、俺が空っぽだったせいでティアの中に宿る俺の魂が、元の持ち主である俺の方に一気に押し寄せてきた……というのが事の顛末となる。
「あー、あれはヤバかったな……」
世界が遠いせいか接続は一瞬で切れたが、そうじゃなければティアの魂すら俺の中に入ってきていたかも知れない。もしそうなったら……どうなるんだろうな? 自分の魂の半分以上が他人のものとか、想像もつかない。神は狂喜乱舞しそうだが、俺やティアにとってはいいことはなさそうなので本当によかった。もう力は取り戻したから平気だしな。
「ふぅ、とりあえずこんな感じか?」
我が身に降りかかったことながら、あまりにも現実感が乏しい。まあ考えたことのほとんどは確証なんて取りようのない推測、想像どころか妄想レベルだと言われたら反論できないわけだが、こういうのは自分が納得できればそれでいいので気にしない。
というか、気にしても仕方ない。考えてもわからないことを延々と考え続けるよりも、今は優先すべき事がある。気づけば大分考え込んでいたのか日が傾いてきていて……ふむ、暗くなる前に済ませるか。
「んじゃまあ、最後にして最大の問題だな」
俺は「彷徨い人の宝物庫」から、銀翼の剣を取りだして構える。見た目は俺が作って置いてきた剣そのままだが、その本質は全く違っており、「見様見真似の熟練工」を発動しても形を変えることはできない。
つまりこれは完全に「世界の壁を越える」ための概念というか、魔導具になったということだ。さっき使った時に刀身の背についている羽が一枚減ったので、使えるのはおそらくあと五回。
「五回……微妙なところだな」
過去に戻るのは簡単だった。元々この世界はループ仕様なので「過去の記録」がしっかり残されているし、そもそも同じ世界でほんの一ヶ月くらいの時間移動、しかも幾つもの因果が集まってるようなこの場所で使ったのだから、できて当然だ。てかここで使えなかったら他では絶対使えないだろうし。
だが、世界の壁を幾つも超えてティアのところに戻るとなると話が変わる。当時のティアが俺のところに跳べたのは、俺がこの世界から追放された直後でここと「白い世界」に神が繋げたルートの名残がまだ残っていたことや、俺という明確な転移目標があり、この剣という触媒やティアの寿命を消費した莫大な魔力なんていう条件がずらりと揃っていたからだ。
対して俺は魔術を使えないし、俺が戻ろうとしているのは前の周の第〇四四世界だ。世界の壁どころか周回の壁すら越えようというのだから、その難易度は推して知るべし。ではどうすればいいかと言えば……
「力がいるな。それも俺に使える力が」
魔術の使えない俺が、魔術の代わりに使いこなせる、魔術より強力な力。そんな都合のいいものがその辺に転がっているわけが……あるんだな、これが。
「羽ばたけ、銀翼の剣!」
五枚羽の剣を振るえば、その羽の一枚と引き換えに目の前の空間が裂ける。その先にあるのは、きっと俺が望む世界。
「さあ、魔王狩りの始まりだ!」
ティアへと続く暗闇に、俺は嬉々としてその体を踊らせた。




