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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一六章 ずれた世界の異聞録

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どれほど遠い目標でも、踏み出した分だけ近づいていく

 そこからきっちり三日、俺はベッドの上で体を休めることに集中した。怪我の方は目覚めた時点ですっかり治っていたので、健康体のままそれでも安静にし続けるというのは退屈に押しつぶされそうで逆に辛かったが、頭の中なんて自分では何もわからないので従わないという選択肢はない。


 そうして四日後。ようやく起きることを許された俺に合わせるようにアレクシスの話し合いとやらは終わり、俺達は再び旅の途についていた。


「ハァ、まったく今回はとんだ災難だったよ。この僕がこれほどの失態を晒すとはね」


 この三日、一度も俺の前に姿を現さなかったアレクシスが、疲れたようにそんな呟きを漏らす。久しぶりのその声に真っ先に反応したのは、アレクシスの隣を歩くゴンゾだ。


「なんだ、町長に嫌みでも言われたのか?」


「まさか。そうじゃなくて、これは僕自身の問題さ。ロックワームを取り逃がしてしまった僕の、ね」


「何よ取り逃がしたって! アンタ、仕留めたっていうアタシの言葉を疑うの!?」


 アレクシスの言葉に、ルージュがキッとその顔を睨む。だがアレクシスはそれを気にした様子もなく首を横に振る。


「違うよ。君は僕が選んだ優秀な人材だ。君の手腕を僕は疑わない。君が仕留めたというのなら、確かにロックワームは死んだんだろう」


「なら、どういう意味?」


「言葉通り、取り逃した……死体を回収できなかったって意味さ。ロックワームの死体……正確にはその腹の中身だけど、なかなか価値があるのでね。当初の予定ではそれを回収してこの町の復興資金に充てるつもりだったんだが、その目論見が外れてしまった。


 勇者として不完全な仕事をしてしまったのは、言い訳しようのない失態さ」


「それは……悪かったわよ」


 途端にルージュの語気が弱くなる。だがそんなルージュに対し、アレクシスは珍しく優しげな声をかける。


「気にしないでくれ。君は十分に仕事をしてくれた。失敗したのは……」


「…………も、申し訳ありませんでした」


 チラリとアレクシスに視線を向けられ、俺は絞り出すようにそう答える。そう、あの時あの場で唯一自分の仕事をできなかったのは俺だ。


 精一杯努力をしましたなんて言葉に、何の意味もない。そこに結果が伴わなければ、努力は単なる自己満足で終わってしまう。


(ああ、ここまでか……くそっ)


 強く歯噛みをしながら、俺は心の中でそう呟く。きっとこの後、俺は役立たずとしてアレクシスに勇者パーティから追放されるんだろう。それは当初の目的であり、家に帰るという目的に一歩近づく喜ぶべきことのはずなのに……俺の中にはひたすらに悔しさがこみ上げてくる。


 だがそんな俺に、アレクシスは意外な言葉を投げてきた。


「すまなかったね、エド」


「…………え?」


 まったく予期していなかった、アレクシスの謝罪。何故アレクシスが自分に謝るのか? その理由が分からず、俺は間抜け面で思わず聞き返してしまう。


「あの、それはどういう……?」


「どうって、君はただの荷物持ちだろう? 荷物持ちなら戦えなくて当然だし、むしろ荷物持ちに戦えと指示を出す方がどうかしている。これは完全に僕の不備だよ。だから謝ったんだ」


「あ、う…………」


 その言葉に、俺は自分の胸が抉られるような衝撃を受けた。確かに俺はあくまでも「荷物持ち」として勇者パーティに同行している。そして荷物持ちに求められる戦闘力なんて、自衛できれば十分程度だ。間違ってもロックワームなんて強大な魔獣に対抗できる力じゃない。


 アレクシスの言うことは正しい。正しいのに……何だこの気持ちは?


「この僕としたことが、いつの間にか君のことを単なる荷物持ち以上の存在として見てしまっていたようだ。


 だが安心してくれたまえ。もう二度と同じような勘違いをしたりはしない。君に荷物持ち以上のことを要求しないと約束しよう」


「……………………」


 その言葉に、俺は両の拳を握りしめる。爪の食い込む痛みを感じながら、俺はみんなの顔をゆっくりと見ていく。


 アレクシスの表情に、俺を見下すようなものはない。当たり前だ、これは悪意どころか俺のことを慮った提案なのだ。実力の無いものに実力以上の仕事を振って、皆の命を危険に晒した。その失態を認め繰り返さないようにするという、むしろ誰にとっても誠意ある提案なのだから。


 ゴンゾの表情は、何も変わらない。怒ることも笑うこともせず、ただまっすぐに俺を見つめている。きっと俺がどんな答えを出しても、それを肯定してくれるんだろう。


 そしてルージュは……


「何よ?」


「いや…………」


 俺の視線を受けたルージュが、つまらなそうに鼻を鳴らす。


「フンッ。何を悩んでるのか知らないけど、そんなのエド(・・)の好きにすればいいでしょ?」


「好きに、か……ははっ、そうだな」


 一見すれば突き放すような物言い。だが俺には「自分が望むようにすればいい」と背中を押されたように感じた。ああ、そうだな。せっかく名前を呼んでもらえるようになったんだ。ならここでへたれて諦めるのは、ちょっとだけ勿体ない。


「勇者様……確かに俺は荷物持ちとしてパーティに入れてもらいましたけど、これからは剣士としても認めてもらえませんか?」


「ふぅん? それは僕の裁定が気に入らないということかい?」


「そうです」


 いつもならば黙って従うアレクシスの言葉を、俺は明確に否定する。するとアレクシスがピクリと形のいい眉毛を釣り上げて俺を見てくるが……俺は構わず言葉を続けていく。


「確かに先日の俺は不甲斐なかったです。でもだからこそ、これからの俺はもっと強くなります。だから――」


「ハッ! 何を言い出すかと思えば。それは流石に思い上がりじゃないかい? 君如き凡人が、ちょっと努力ができる程度で僕達と同じになれると?」


「なります!」


 強く強く、意思を込めてそう断言する。口に出した言葉は消えない。ならば口に出して宣言すれば、その決意は世界に打ち込まれた楔となる。


「なれるとかなれないじゃなく、なります。いつかきっと……いえ、そう遠くないうちに必ず。魔王を倒す旅の間に、俺は絶対に……本当の仲間になってみせます!」


 俺の中で、何かがひび割れたような気がした。大事だったはずのものが、ボロボロと崩れ落ちていく。だが不思議と悪い気はしない。崩れた殻の向こう側で、そんな張りぼてとは違う本当に大事なモノが微笑んでくれているような気がしたから。


 今でも当然、家には帰りたい。だが帰るならやるべき事をやり遂げてからだ。逃げ出すのではなく、終わらせてから帰る。全てが終わり、本当の意味で「用済み」になって追放される。それが俺の選ぶ道。誰かに押しつけられたわけじゃない、俺の人生の在り方だ!


「ほほぅ、いい覚悟だ! ならば今までよりも一層厳しい鍛錬を世話してやろう!」


「このアタシに並ぶのは無理でしょうけど、アンタなら足下くらいなら辿り着けるかもね。凡人は凡人なりに精々頑張りなさい、エド」


 俺の覚悟にゴンゾは満面の笑みで筋肉を強調するポーズを取り、ルージュは皮肉っぽい笑みを浮かべながら応援してくれる。


「……フッ、そうかい。なら僕が言うことは一つだ。二度目は無い……僕の期待を裏切るなよ?」


「はいっ!」


 どことなく機嫌よさげに言うアレクシスに、俺は元気に返事をする。


 訳の分からない相手からもらった変な力じゃない、俺の力で認めてもらう。旅も半ばであろう今頃になって芽生えた新たな望みに、俺はふと空を仰ぐ。


 早朝の空は何処までも蒼く、太陽はこれでもかと輝いている。そんな光を一身に受けた緑の葉は、まるで翡翠のように美しかった。

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― 新着の感想 ―
まだ取り戻せていない物はあれど、エドはもう神の操り人形から脱したんだな。 この世界では大丈夫そうだ。 あとは、白い空間に戻されて筋力が元に戻ったりすることで挫折するか、前向きに進んでいけるのか、どこか…
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