表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一六章 ずれた世界の異聞録

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

275/552

日々の小さな積み重ねが、大きな変化のきっかけなのだ

「…………んあ?」


 暖かい微睡みのなか、俺は静かに目を開ける。ぼーっと眺める先には味のある……もしくは古びた天井が広がっており、軽く首を傾ければ据え付けの棚やらテーブルやらも目に入った。どうやらここは俺が探して掃除した宿の一室らしい。


「帰ってきた、のか……?」


 意識がハッキリしてきたことで、自分に何が起こったのかも思い出せてくる。確かルージュを庇って頭に一撃もらったはずなので、そのまま気絶していたのだろう。とりあえず上半身を起こしてみると……


「あー…………」


「ぐぅ…………」


 俺の太ももに頭を乗せて、椅子に座ったルージュが気持ちよさそうに爆睡している。その口からはよだれが垂れており、何というかこう……見てはいけないものを見てしまった感じだ。


「おーい、ルージュ?」


「すぴー……ふにゃふにゃ……」


「起きろって。なあ、ルージュさん?」


「うるさいわねぇ……あと五時間……」


「なげーよ! ほら、起きろって!」


 声をかけるだけでは駄目そうだったので、俺はルージュの肩をユサユサと揺らした。するとゆっくりその目が開いていき、数秒ぼんやりと俺の顔を見て……そしてすぐに俺の頬をひっぱたいてきた。


「ぐはっ!? 何すんだよいきなり!?」


「アンタこそどういうつもりよ! 淑女(レディ)の寝顔を覗くなんて、さては変態ね!」


「人に寄りかかって寝といて無茶苦茶言うな……そもそもよだれを垂らす淑女(レディ)とか……痛い痛い痛い!」


「むーっ!」


 バシバシと炸裂し続けるルージュの平手に、俺は必死に防御を固める。だがルージュの怒りはなかなか収まらない。


「死ね! 死ね! 死んじゃいなさいこの変態! 女の敵!」


「わかったわかった! 俺が悪かったから!」


「許すわけないでしょ! 何で……何であんなことしたの?」


 最後にペチンと力の籠もらない手が俺の頬に辺り、ルージュの声が沈む。俺が恐る恐る防御を解いてその顔を見ると、そこには何とも不安げな表情が浮かんでいる。


「アタシ、アンタに助けられるようなことはしてないでしょ? なのに何でアンタはアタシのことを助けたりしたのよ?」


「何でって言われてもなぁ……咄嗟に動いちまったとしか言えねーや」


 ルージュの問いに、俺はポリポリと頬を掻きながら答える。実際深い考えがあって動いたわけじゃなく、本当に「気づいたら体が動いていた」というやつなのだ。


「……そう。つまりアンタにもようやく下僕意識が芽生えたってことね?」


「下僕意識って……」


 相変わらずの言葉選びに、俺は思わず苦笑する。それがそっぽを向くルージュの照れ隠しだというのがわかったからだ。


(……ああ、そうか)


 そして自分の行動に納得がいく。もしも出会った当時なら、その言葉をそのまま受け取って俺は内心で憤っていたはずだ。そしてその関係性のままなら、きっと俺はルージュを助けていない。


 だって、その方が都合がいいのだ。意図的に見捨てるのは良心の呵責があっても、他者を助けるために自分の命を犠牲にしなかった、などという理由で責められる謂れは無い。そのうえで「仲間を死なせた」ということでアレクシスからパーティを追放されれば、実に綺麗にこの世界から離脱できていたことだろう。


 だが、そうしなかった。長く過酷な勇者パーティの旅は、俺達の間に少しばかりの信頼を結んでいた。


 だから助けた。助ける手段があるのに、何もしないで仲間が死ぬのを見たくなかった。ただそれだけのことなのだ。


「まったく、余計なことなのよ! もし立場が逆だったら、アタシならあんな岩くらい一瞬で燃やしてやるのに!」


「おお、そりゃ頼りになるな。その時は頼むぜ」


「フンッ! 考えておいてあげるわ。アンタがまた頭を打って、これ以上馬鹿になったらたまらないもの!」


「へいへい、どうせ俺は馬鹿ですよ」


 頭の上で岩を燃やしたりしたら、溶岩になって降り注いで大惨事になるんじゃないかとふと思ったが、それを突っ込むのは無粋だろう。


「ま、とにかくお互い助かってよかった。なあルージュ……じゃない、ルージュ様」


「……ルージュでいいわ」


 呼び方を訂正した俺に、しかしルージュが訂正の言葉を重ねる。その顔はルージュが使う炎よりも赤くなっており、唇を尖らせてそっぽを向いてはいるが、目だけはチラチラと俺の顔を見てくる。


「と、特別よ! ほんっとーに特別に、アタシのことをルージュって呼ばせてあげるわ! だからこれからはアタシのことをルージュって呼びなさい! いいわね……エド!」


「……ハハッ。ああ、ルージュ」


 顔を背けたまま差し出された小さな手を、俺はそっと握る。ニヤリと笑う俺にルージュがフンッと鼻を鳴らし……俺は扉の向こうにいるであろう人物に声をかける。


「で、入ってこないんですか?」


「むぅ? ワシのことは気にせずともいいぞ? 今のワシは通りすがりの筋肉武僧であり、若者の邪魔などせんからな!


 ああだが、綺麗に治したとはいえもうしばらくは激しい運動をしてはならぬとは忠告しておこう。何かするのであれば気をつけるのだぞ?」


「いや、何もしないですから。それより色々話を聞きたいんで、普通に入ってきてもらえます?」


「そうよ。馬鹿なこと言ってないでさっさと来なさい」


「なんだ、つまらん反応だな」


 俺とルージュが平然と対応したせいか、しょっぱい表情のゴンゾが扉を開けて部屋に入ってくる。これはあくまでも俺がルージュに仲間として認められたというだけのことなので、オッサンの頭が光るような甘酸っぱい展開にはならないのだ。


「では説明してやろう。と言っても言うことなどほとんど無いぞ? ワシが助けに行ったなら、小僧が倒れていてルージュがそれを……あー、見守っていただけだ」


 何だろう、話の途中でルージュが一瞬もの凄い形相でゴンゾを睨んだんだが……いや、これは追求したら痛い目を見るやつだな。気づかなかったことにしよう。


「で、助け出したお主に回復魔術を使ってから寝かせた……それだけだな」


「そうですか、ありがとうございます……ちなみに俺ってどのくらい寝てました?」


「ふむ、正味一日といったところか。ただし頭を強く打っておるようだから、最低でもあと三日は安静にしていてもらうぞ?」


「わかりました。それで、何でルージュがここに……いや、何でも無いです」


 どうしてルージュがここで寝てたのかを聞きたかったんだが、今度は俺が猛烈に睨まれたので秒で取り下げる。が、そんなことはお構いなしにゴンゾが笑いながら教えてくれた。


「ははは、ルージュはお主と違って怪我をしていたわけではないからな。それでも半日ほどは寝ていたが、起きてすぐにお主を心配してここに……は来ていないな。うむ、お主が目覚める二秒前くらいに暇つぶしにここを訪ねてきたらしいぞ」


「そうよ! あくまで暇つぶし! 寝過ぎて体が鈍っちゃったから、運動がてらここに来ただけなんだから!」


「ア、ハイ。ソウデスネ」


 知りたがりは首を刎ねられる。雑傭兵の間では有名な言葉だ。興味本位で首を突っ込みそのままチョンパとされてしまうのは御免なので、俺は絶対にそれ以上を聞かない。ふふふ、俺は学習する男なのだ。


「アレクシスの方は、町の者と色々と話をしておるようだな。ルージュの話ではロックワームは仕留めたらしいが、やはり死体が確認できないと他人に証明するのが難しい。大量に逃がした幼体の問題もあるし、話し合いには随分と時間が……そうだな、最低でも三日(・・・・・・)ほどはかかるようだ」


「……それってひょっとして、気を遣ってもらってます?」


 俺が安静にしなければならないのが三日で、話し合いによりこの町で強制的に足止めされるのも三日。無論偶然の可能性もある……というか、あの時の俺の不甲斐なさとアレクシスの反応を見ればそっちの可能性の方も高そうだが、それでも聞いておかないわけにはいかない。


 そしてそんな俺の問いに、ゴンゾがニヤリと笑みを浮かべる。


「さあ、ワシには難しいことはわからんからな。ただ一つ言うべきことがあるとすれば……」


 そこで一旦言葉を切ると、ゴンゾの大きな手が俺の頭にそっと添えられる。


「よくぞ生き残った。頑張ったなエド」


「……ありがとうございます」


 その逞しく温かい感触に、俺は今日二度目の感謝の言葉を口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] わーい。何百もの章を経て、ようやくラブコメのシーンが出てきたのか!?それとも私の前の章の読解力が悪かったのか...。 Not your fault Mr. Taku...
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ