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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一六章 ずれた世界の異聞録

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急いでいるのに回り道をするのは、直進する覚悟のない奴だけだ

 強くなるために必要なものは何か? そう問われて俺が真っ先に思いつくもの……それは「努力」だ。


 決して「才能」ではない。才能は一の努力を一〇の結果に飛躍させるようなものではあるが、どれだけ才能があろうとも〇を一にするために動き出さなければ意味がないのだから、絶対必須の力といえば間違いなく努力となるのだ。


 故に、俺は強くなるために努力する。するのだが……ここで問題なのが、そもそも俺は今までも普通に努力を積み重ねてきたということだ。


 当たり前だろう。雑傭兵だろうが冒険者だろうが、好き好んで魔獣のはびこる町の外に出て命がけの仕事をしているのだから、強くなるための努力、鍛錬を怠っているはずがない。


 それに生活のために仕事を続けていれば、体や技術が鈍るほど休むなんてこともない。己の力を過信して強敵に挑んで死ぬとか、ちょっとした油断や慢心から死ぬことはあっても、体が鈍っていて死にましたなんてことはあり得ないのだ。


 詰まるところ、今の俺は「凡人が普通に努力した結果辿り着く、ごく一般的な強さ」である。アレクシス達についていくにはここを抜け出す必要があるわけだが……正直俺一人では難しい。ならばこそ俺は躊躇うこと無くその人物に助力を頼んだ。


「よし、では鍛錬を始めるぞ!」


「はい! よろしくお願いします、ゴンゾさん」


 実に楽しそうに笑みを浮かべるゴンゾに、俺は元気よくそう返す。「できるだけ早く、せめてアレクシス達の足手まといにならない程度には強くなりたい」という俺の相談を、ゴンゾは笑顔で引き受けてくれた。ならばこそ俺は、依頼達成後の休息日にこうしてゴンゾと二人、町の外に出ている。


「それで、具体的にはどんな鍛錬をするんでしょうか?」


「ははは、そう急くな。それに期待しているところ悪いが、鍛錬そのものはごく普通のことしかせんぞ? 走り込み拳を……お主なら剣を振るい、重い物を持ち上げる。そんな当たり前の事を繰り返すだけだ」


「ああ、やっぱりそうなんですね」


「ほぅ?」


 ほんのわずかにガッカリしつつもあっさり納得した俺に、ゴンゾの眉がピクリと動く。


「ワシの筋肉を知る者は、ワシが何か特別な鍛え方をしていると考える者ばかりであった。だがお主はそうではないと?」


「確かに何か凄い鍛え方があればいいなーとは思いましたけど、俺みたいな凡人からすると、世の中ってそういうもんじゃないでしょ?」


 アレクシスのような選ばれた存在や、ルージュのような天才ならばきっと違うのだろう。だが俺はただの凡人だ。何の特別も持たないなら、当たり前を積み重ねるしかない。


「ふむ。だがそれがわかっているなら、何故ワシに助力を求めたのだ?」


「いやー、だってほら、こういう訓練って自分だけでやるとどうしても甘えが出ちゃうじゃないですか。その点ゴンゾさんならいい具合に追い込んでくれるかなーと」


 命のかかる状況でもなければ、自分で自分を限界まで追い込むのは難しい。自分が自覚する限界というのは、本当の限界の三歩くらい手前なのだ。


 かといって不用意に追い込み過ぎて怪我でもしてしまえば全てが台無しだ。ならばこそ正確な限界点を見極めるのが重要なのだが、疑う余地無く体を鍛えまくっているゴンゾならその辺はバッチリだろうし、万が一の場合でも回復魔術があるという安心感もある。まさに鍛錬を頼むにはうってつけの人材だろう。


 そんな俺の考えが伝わったのか、ゴンゾが楽しそうに口元を歪める。


「フッフッフ、そうかそうか……そういう地に足の着いた考え方をしているのであれば、ひょっとしたらお主ならいけるかも知れんな」


「……えっと、何か?」


 その笑顔の裏に薄ら寒いものを感じ、俺は恐る恐る問う。するとゴンゾは真剣な表情になって俺の肩にポンと手を置いた。


「なあ小僧。ワシは確かに特別な鍛錬はないと言った。だが何も特別な鍛え方がないとは言っておらぬ。あるのだ、短期間で爆発的に強くなる方法がな」


「えっ!? それは――」


「ただし!」


 俺の肩を掴むゴンゾの手に、ギュッと力が入る。


「辛いぞ、とてつもなくな。今からその方法を教えよう」


「……いいんですか?」


「いいとも。話を聞いたあと、それをやるもやらぬも小僧の勝手だ。その鍛錬法とは……激しく運動をした後に、雑な回復魔術を使うことだ」


「ざ、雑!? それに回復魔術って……?」


「その反応なら知っているようだな。回復魔術とは、体を元の状態(・・・・)に戻すものだ。筋肉は運動後の痛みに耐えることで増える……それは成長という名の変化だ。故に回復魔術を使ってしまうと筋肉は育たない。これはいいか?」


「はい」


 ゴンゾの語ったそれは、体を鍛えようと考えたことのある者なら誰でも知ってる常識だ。なので頷く俺に、ゴンゾは話を続けていく。


「そこで必要なのが雑な回復魔術というわけだ。この雑というのが重要でな、たとえばこんな感じだな……『ヒーリングオーラ』」


 ゴンゾが俺の肩に癒やしの力を発揮する。無論怪我をしているわけじゃないので何の効果も感じないが、確かに微妙に光が弱い気がする。


「今のは詠唱を破棄した回復魔術だ。ワシの場合それでも八割から九割は治ってしまうが、残りの一割はそのまま……つまり回復魔術を使っても、使わないときの一割くらいは筋肉が成長するということだ。


 無論、それだけならば回復する意味がない。というか、回復するだけ損というものだ。だがこうして回復することによって、すぐにもう一度鍛錬できるようになる」


「すぐに? え、それってまさか……!?」


「そうだ。本来一日おき程度にしかできぬ鍛錬を、日に何度でも行える! やる者の心が折れぬ限り、何十回でも何百回でもな」


「……………………」


 その答えに、俺は思わず絶句する。いや、わかる。言ってることはわかるけど、それは……


「フフ、そういう顔になるだろうな。当然だ。この鍛錬において、鍛えている最中の苦痛は一切軽減されない。それでいて効果は通常の一〇分の一だ。最低でも通常の一〇倍鍛錬をせねば意味が無く、二〇倍もの鍛錬をしてやっと二倍の効果を得られるだけだ。まともな者ならばまずやらんだろう」


「……でも、ゴンゾさんはやったんですよね?」


 半ば確信めいたものを込めて問う俺に、ゴンゾはニヤリと笑みを浮かべる。


「そうだ。言ったであろう? 信仰と筋肉、折れぬ心こそが強さの秘訣だと」


「…………やります」


 逡巡は一瞬。生まれかけた迷いをねじ伏せ、俺は決意を言葉にする。


 凡人が天才に追いつくには、努力を重ねるしかない。だが時の流れが誰にも等しいならば、凡人が天才に追いつくことは永遠にない。


 ならばどうすればいいか? ああ、その答えがここにあった。二日を一日に、二年を一年に、才能ではなく努力を以て時を圧縮する術が、今目の前に提示されたのだ。


 ならば飛びつかない理由が無い。まっすぐにゴンゾを見つめる俺に、ゴンゾもまた俺の目を見つめ返してくる。


「辛く、苦しく、長い道だ。二〇倍をひと月ふた月やって諦める程度なら、正直やる意味はほとんどない。それでもやるのか?」


「やります。俺には……どうしてもみんなに置いて行かれるわけにはいかない理由がありますから」


 家に帰る……その想いが俺を強く突き動かす。懐かしいあの世界に、別れも言えず去ってしまった友のところに。そして何より……いつか何処かで交わしたはずの、「またな」という約束のために。


「その意気や良し! ならばワシが全身全霊を賭けてお主を鍛え上げてやる! 泣いて謝っても許してやらんから、そのつもりでいるのだぞ?」


「おう! 望むところだ!」


 楽な道など何処にも無い。だが苦労した先に未来があるなら、俺は何処までだって頑張れる。いつの間に自分がこんな熱血野郎になったんだろうと内心苦笑しつつも、俺は凡人脱却に向けて動き出した。

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