予想と違う展開でも、拒否できないなら受け入れるしかない
「頑張ってください勇者様! 応援しております!」
「おう! 超! 頑張ってくるぜっ!」
御前試合をつつがなく終え、俺達は無事勇者パーティとして認められた。となればもう用はないので、あとは面倒事に巻き込まれる前に城を出るだけ。門番からの言葉にバーンが笑顔で答えると、俺達はその場を離れようとし……そこで不意に呼び止められる。
「そ、それとその……エドさん!」
「……何?」
「あの、握手……握手してもらってもいいでしょうか?」
「あー、うん。いいけど……」
キラキラした目で見られ、俺は若干引きつった笑みを浮かべながら手を差し出す。すると門番の男はガッシリとその手を掴み、満面の笑みを浮かべながらブンブンと手を振った。少し前までアイドルをやっていた関係上握手なんて慣れたものだが、それでもエッダではない俺がこんな目で見られるのはやはりどこか落ち着かない。
「ありがとうございます! あのローベル将軍に勝つなんて、凄いです! 俺もいつかエドさんみたいに強くなってみせます!」
「はは、そうか。頑張れよ……って、俺の方が年下だよな? 頑張ってください」
「お気になさらず! ありがとうございます! では、旅の無事をお祈りしております!」
「ああ、ありがとう」
何故かバーンよりも熱烈な応援を受けつつ、俺達は今度こそ城を離れる。すると俺の隣からニヤニヤ顔のティアが話しかけてくる。
「フフッ、エドったら大人気ね?」
「みてーだなぁ。何でこんなことに……」
負けるわけにはいかず、然りとて勝つと色々面倒そうな相手が出てきたから、俺としてはいい感じに互角を演じて引き分けにしようと思っただけだ。なのに何故か相手が降参してしまったため、気づけば「王国最強の騎士を負かした男」になってしまった。
「あのオッサン、超! 強かったんだろ? それに勝つなんて、凄いじゃねーかエド! 流石は俺の仲間だぜっ!」
「はは、まあな」
一瞬あのオッサン……ローベルが手加減してくれたんだと言おうかとも思ったが、試合とはいえ剣を合わせて負かした相手にそんなことを言うのは侮辱だ。それにバーンの仲間として落ち着くために斥候を買って出ていたわけだが、こうして仲間に認められた以上、俺が強いことを黙っておく理由ももう無い。なら……ふむ?
「そうだ、バーンが望むなら俺が剣を、ティアが魔術を教えてやるぜ? バーンは本能で剣を振るタイプだけど、剣術を学ぶこと自体は悪くねーはずだし」
「そうね。私が使うのは精霊魔法だから理術系の魔術じゃ勝手が違うでしょうけど、基本的な魔力の使い方とかは教えてあげられるわよ?」
「そりゃいいな! 超! 頼むぜ! あ、でも俺は勉強とか苦手だから、できれば実戦形式で頼む!」
「ほほぅ? 実戦形式……いいぜ、たっぷりしごいてやる。なあティア?」
「いいわよ。頭から煙を噴くのが先か、それとも口から吹くのが先か……楽しみね?」
「あれ、何だこの空気……超! お手柔らかに頼むぜ?」
ニヤリと笑う俺とティアに、バーンが軽い後悔を顔に滲ませながら言う。ふふふ、剣を教えるのはエルエアース以来か? でもアースは双剣だったから、俺と同じ片手直剣を教えるのは……うわ、まさかミゲル以来か!? フッフッフ、これは腕が鳴るぜ。
「な、なあティア? エドが超! スゲー顔で笑ってるんだけど……?」
「うわぁ、これはもう駄目かも知れないわね。大丈夫、骨は拾ってあげるわ」
「そんな!?」
「……何でお前等、俺を恐怖の化身みたいな言い方してるんだよ。ったく。ほら、それより次行くぞ?」
「次? まだ何かすることあったっけ?」
「馬鹿野郎、教会に行けって言われたじゃねーか! 王様の話聞いてただろ!?」
すっとぼけているバーンに、俺は苦笑しながらそう答える。何故話を聞き流していた俺が覚えていて、しっかり聞いていたはずのバーンが覚えていないのか……まあバーンだからだな。
「いいか? 今の俺達に足りないのは、回復系の魔術が使える人材だ。で、そういう人を教会で紹介してもらうために行くわけだ。わかったか?」
「あー、そう言えばそんなこと言ってたな。わかった! なら超! 大急ぎで行くぜっ!」
「だから走るなって! あーもう!」
「本当にバーンは元気いっぱいね」
大通りを駆け抜けていくバーンを追いかけ、俺とティアも人混みを縫って移動していく。そうして辿り着いたのは、王都に相応しい立派な教会だ。途中でバーンに追いついた俺達が中にいた神官に声をかけると、奥にある応接室へと通された。
そこで出されたお茶を飲みながら待っていると、程なくしてゆったりとしたローブに身を包む老齢の神官が部屋に入ってくる。そしてその背後には……あれ?
「お待たせ致しました、勇者様とそのご一行様。こちらが勇者様の旅に同行させていただく者となります。では、ご挨拶を」
「初めまして。私はエウラリアと申します。若輩者ではありますが、これからどうぞよろしくお願い致します」
そう言ってぺこりと頭を下げたのは、はしばみ色の瞳と腰まで届きそうな長い髪が印象的な、俺達と同じくらいの年頃の女性。ただしバーンとは正反対で、低く落ち着いた声はどことなく暗い印象を受ける。
「エウラリアか! 俺は勇者バーンだ! 超! よろしくな!」
「……はい、よろしくお願いします」
そんなエウラリアにバーンが元気に挨拶をして手を差し出すと、エウラリアがそれをそっと掴み返す。
「私はルナリーティアよ。よろしくね、エウラリア」
「……はい、よろしくお願いします」
次いでティアが挨拶をして手を出すと、エウラリアがその手をそっと掴み返す。
「俺はエドだ。よろしくな」
「……はい、よろしくお願いします」
最後に俺が挨拶をして手を出すと、エウラリアが答えてその手をそっと……おぉぅ?
「……………………」
「…………えっと?」
バーンとティアの時は普通に片手だったのに、何故か俺の手だけ両手で包み込むように握られる。流石に俺が声をあげると、ハッとしたような表情になったエウラリアが静かに俺の手を離した。
「な、何? 俺の手に何かあった?」
「……いえ、何も。では色々と準備もありますので、本日はこれで失礼致します」
「お、おぅ。じゃあまた」
来た時と同じくぺこりと一礼すると、エウラリアが部屋から出て行く。その後は老神官と今後の事を軽く打ち合わせし、夕食を済ませて宿に戻ると、俺は明かりの消えた部屋でベッドの上に寝転がった。
「ハァ……今日は色々あったな……」
単に挨拶をするだけだと思っていた城で、まさかの御前試合をやらされた。そしてその後の教会でも、一周目とは違うことが起きた。
「エウラリアって言ったか……何で変わったんだ?」
一周目では、ここで仲間になるのは男の神官だった。俺、バーン、フラメアにその神官の四人が本来の勇者パーティだったのだ。
そのうち、フラメアが仲間にならなかったのはわかる。普通に仲間になるために現れたけど、ティアの存在がそこに割り込み、上書きされた。理由も結果も明確なので、この流れに違和感はない。
が、エウラリアは違う。この世界に来て教会関係者と会うのは初めてだし、せめて一日あったならともかく、たかだか数時間で城の一件が波及して人が変わるってのは……
「いや、無くもない、のか?」
勇者の傍らに国の息のかかった人間を……できれば勇者と婚姻関係を結べるように、異性の人材を配したいという思惑があるのは最初からわかっていたことだ。ならフラメアが駄目になったから、急遽神官を男から女に変えた? そう考えれば一応筋が通らなくもない。
「なるほどそうか。バーンの奴も大変だなぁ」
女の方から寄ってくるなんて羨ましいと口にする輩は幾らでもいるが、王侯貴族の権謀術数を何度も見ている俺からすると、とてもそんな風には思えない。
とは言え、所詮は他人事だ。俺自身が巻き込まれているわけじゃないなら特に気にすることもない。もし何か相談を受けたならば、その時にはちゃんと応えてやればいいだけだ。
「…………寝るか」
久しぶりに割と本気で剣を振るったからか、右手の痺れが少しだけ強くなっている気がする。ならばこそ体調を万全とするためにも、俺はギュッと目を閉じて暗闇に意識を溶かしていった。




