傑出しすぎた才能は、持ってないより足を引く
「というわけで、この子がエドの妹さんで、エッダちゃんね!」
「ど、どうも。エッダです。初めまして、よろしくお願いします」
宿を出て、しばし。待ち合わせの場所でレインと合流した俺は、満面の笑みを浮かべるティアに紹介されて引きつった笑みを浮かべながら名乗る。
ティアと二人で話し合い決めた設定では、俺はエドの妹であり、兄であるエドが家を出たあとレインのようにアイドルに憧れてこの町にやってくるも、才能と現実の壁に阻まれてここで燻っていたところ、たまたま町にやってきた兄と再会して話を聞いた……という感じになった。
正直かなり強引だと思うが、細かいことは気にしても仕方がない。どのみち完璧な演技なんてのをする必要はなく、レインをアイドルにすることさえできれば、後は適当でもなんとかなるのだ。
ちなみに、どうにかしてレインをアイドルにするのは確定事項だ。それ以外だと俺達がレインと一緒にいる理由がなくなってしまい、場合によっては「勇者パーティ」と認識してもらえない可能性がでてくる。
それに勇者の職業というか立ち位置をそこまで大きく変えてしまうと、今後の世界にどんな影響がでるのかわからねーからな。そこは妥協せずに精一杯頑張りたいところだ。
「エッダさんですか。ふわぁ……何というか、大人の女性って感じです! でもエドさんの妹ってことは、ティアさんより年下なんですよね?」
「そ、そうだな。俺は一八歳? だから」
「そうなんですか。私も後四年もあれば、そのくらいボインボインになれるでしょうか?」
「それは……どうだろ? てか、レインはレインのままでいいんじゃねーか? 自然にでかくなる分にはいいだろうけど、好みなんて人それぞれなんだから、羨んだりするもんじゃねーよ」
「うわぁ、大人の発言です……でもそういうことを言うのは大抵『自分は持ってる側』だと自覚してる人なので、ちょっとだけイラっとします!」
「お、おぅ。それは何か……悪い」
いい笑顔で軽く毒を吐かれて、俺は思わず謝ってしまう。流石は勇者、相変わらず肝が据わってんなぁ。
そうそう、口調に関しては最初は女言葉を喋ろうかとも思ったが、すぐに断念した。無理して言葉遣いなんて変えても違和感しかねーし、何より今の俺は変装ではなく変身……つまり本物の女の体になっている。
つまり口調がどうだろうと俺が女であるという事実は動かないわけで、本当は男だとばれるも何も無い。なら最初から自由にやった方が気楽ってもんだろう。
「とりあえず、エッダさんが俺様イケイケ系のお姉さんだってことはわかりました! それじゃ、今日はお二人を案内する感じでいいのですか? エッダさんはここに住んでるみたいですけど?」
「ああ、それは気にしねーでくれ。せっかく知り合ったのも縁だし、俺も……まあ、ほら。ちょっと落ち込んで宿に引きこもったりしてたから、実はこの町のことはそれほど詳しくなかったりするし」
「ということだから、午前中はレインちゃんに町を案内してもらって、お昼を食べたら午後はレインちゃんの歌を聴かせてもらう……でいいのよね?」
「ああ、問題ない。練習場の方はもう押さえてある……兄貴が」
今泊まっている宿の系列に、練習場を提供している店がある。なので女将さんに声をかければ借りるのは簡単だった。勿論そこには前金で気前よく金を払ったというのも影響しているだろうが、金はあるんだから安い場所を巡って競争するよりずっといい。この辺は一周目の知識が生きてる感じだ。
「わかりました! お二人がそれでいいということでしたら、この私が昨日のパンケーキ分はしっかり町を案内してあげます! あと歌も歌っちゃいます!」
「ふふ、楽しみにしてるわね」
張り切るレインに、ティアが楽しげな笑みを浮かべる。そうして俺達は町を回り……実際には服飾品の店ばかりを何軒も回り、うんざりするほど着せ替えさせられただけで終わったが……昼は適当な屋台で買い食いをして、そして午後。
「うわぁー! すっごく広くて綺麗です!」
俺がレインを引き連れてやってきたのは、壁の一面が大きな鏡張りになっている、縦五メートル横一〇メートル、高さ三メートルほどのかなり大きな練習場だ。
「こんなに広くて綺麗な練習場なんて、選考会を受けた時以来です! あの、これひょっとしなくても、利用料が凄く高いのでは……?」
弾けるようなテンションから一転、おずおずとこっちを見てくるレインに、俺は苦笑しながら答える。
「ははは、そんなの気にしなくていいって。どうせ兄貴が払った金だし」
「えぇ……? エッダさん、いつかお兄さんに背中から刺されたりしませんか?」
「しねーよ! 人の兄貴を何だと思ってんだよ!?」
実際にはどっちも俺なのだから、刺そうと思っても刺せないしな。ちなみに利用料は一時間銀貨一枚で、今回は三時間借りている。安いところだと銅貨一〇枚くらいで借りられるので、大体一〇倍くらいの値段だが……ぶっちゃけ勇者パーティの活動資金としては本当にはした金だ。ちょっとした回復薬を買うだけでも銀貨なんて当たり前に跳ぶからな。
「とにかく、ここなら防音もバッチリだから、レインが思いっきり歌っても大丈夫だぜ。自慢の美声を是非とも聞かせてくれ」
「昨日からずっと楽しみにしてたのが、ようやく聞けるのね!」
「そ、そんな!? そんなに期待されるほどのものじゃ……へへへ」
俺とティアの言葉に、レインが照れ照れと顔を赤くする。だがすぐに気を取り直すと、鏡の壁に背を向け……つまり俺達に方に顔を向けると、スッと姿勢を正してまっすぐに立った。
「こんな立派な練習場でお聞かせするのが、私みたいな田舎娘の歌で恐縮ですけど……じゃあ、聞いてください」
胸の前で手を組み、レインが目を閉じる。祈るような姿勢のままで息を吸い込み、その口が開かれ――その瞬間、世界が変わる。
「眠れ、眠れ、黄金の子供。稲穂を垂れて、目も垂れる。
眠れ、眠れ、鏨の音に。こっくりこっくり、槌を打つ。
明日晴れて、刈り入れ時に 走るやや子を捕まえて。
明日雨で、部屋居る時に ぐずるやや子を胸に抱き。
眠れ、眠れ、愛しき玉よ 月の向こうにお日様昇る。
眠れ、眠れ、安らかに また明日」
それは何の変哲も無い、素朴な子守歌だった。だがその歌声の向こうに、俺は母を……実際には存在しないはずの母の笑顔と温もりを見た。そしてそれはティアも同じだったのだろう。チラリと横を見ると、その目から一筋の涙がこぼれ落ちている。
ああ、これだ。これこそが人気者にして偶像たる勇者レインの真価。聞く者の心を、魂を揺さぶる本物の奇跡。勿論昨日見たアイドルの子達が悪いというわけではないが……これはちょっと次元が違う。
「えへへ、どうでした……って、何で泣いてるんですか!? え、私の歌、そこまで酷かったですか!?」
「へ!? あ、違う違う! そうじゃなくて、あんまりにも素敵だったから、感動しちゃったの。レインちゃん、凄く上手なのね!」
「ああ、大したもんだ。これなら本気で世界が狙えるぜ?」
「えー? そんな、お世辞にしても言い過ぎですよぉ! うぅぅ……」
俺とティアの全力の拍手喝采に、レインがさっきよりも顔を赤くしてモジモジと体をよじる。うむ、やはり勇者レインの才能が無くなっているというわけではないようだ。となると……
「やっぱ難しいな」
「? 何がですかエッダさん?」
「そりゃ勿論、レインをアイドルにする方法さ」
「え? そう? これだけ歌が上手かったら、すぐにだってなれるでしょ?」
心底不思議そうな顔で俺を見るティアに、しかし俺は苦笑を返すしかない。
「あのなティア、わかってるか? アイドルは三人組じゃなきゃ駄目なんだぞ?」
「それは……あっ」
「えっと、どういうことですか?」
気づいたティアは思わず口を押さえ、、気づかないレインはキョトンとしている。まあ確かに、本人は気づかないだろう……そして気づいたとしてもどうしようも無い。
「要はレインの歌が上手すぎるってことさ」
ならばこそ、俺は苦笑しながらそう告げることしかできなかった。
今回の歌にも当然ながら曲が存在しております。いい感じに作曲できたので、いつかアニメ化とかしたら是非聞いて欲しいですね(笑)




