49.閑話
「串を一つ、頼む」
男が一人、広場の出店に立ち寄った。男はフードをかぶり、顔が見えないようになっていた。顔が見えない男を誰も気にしなかった。異世界人が多くなった今では、自然に見えた。
「最近の仕入れはどうだ?」
「調達役が足りなくなったせいで、量が少なくなったな」
顔の見えない男の言葉に店主は串に刺さった肉を焼き始める。肉から滴り落ちる肉汁が炎で蒸発して匂いが立つ。男の口の中に涎が溜まる。
「肉も足りねぇが、資材も足りねぇ」
「なるほど。・・・・あぁ、そうだ。話が変わるが、ここの活気が少し戻って来たようだし、昔のように祭りを開催出来るかもしれんな?」
「あぁ、そうかい」
男の言葉に店主は生返事をする。男とのつまらない会話に店主は飽き飽きしていた。
「ほら、焼けたぞ。200ゴールドだ」
二本の串を男に渡し、男はその串を受け取りながら店主が言った言葉に驚く。
「ずいぶん吹っ掛けるじゃないか」
「・・・・だったら、お前の雇い主に直接来いと言いな」
男はため息をつき、白けた眼で店主を見た。
「それができたら旦那も来てるさ。だけど、やっかいなお人のお世話をしているのはあんたも知っているだろう。今じゃ、異世界人共の相手もしなきゃならねぇ。いまは手一杯なのさ。悪いが俺で我慢しな」
その言い立ちに店主は呆れるが、感情を表に出さずに金を要求した。
「・・・・わかった。なら、200ゴールドだ」
1ゴールドも変わらぬ金額に男は諦めた。
どうせ、何を言ったところで聞きやしない。それどころか、あまり首を突っ込むとただ事では済まさなくなる、そう思い男は引くしかなかった。
「あー、やってられん」
裂けた口を大きく開けて、上を向き渡された串を器用に、肉だけを二本同時に丸飲みした。ごくりと喉を肉が通り、チロリと長細い二又にわかれた舌で唇を舐める。
「救いはこの肉が上手いことだけだな」
独特な食べ方に店主は驚きもせずにまた肉を淡々と焼き始める。
男は食べ終えた串を投げ捨て、店を離れていく。店主はそのゴミを拾い上げて、火の魔法で燃やし、塵へと変えた。
その様子を物陰から見ていた女が、店主に駆け寄り声をかける。女の姿が見えると、荒んでいた心が凪いでいくのが分かった。
「父さん、やっぱり私も手伝おうか?」
「いや、お前には充分、手伝ってもらっているよ。だから、大丈夫さ」
先ほどの男への対応と全く違い、優しい声音で言いながら、頭を撫でる。
「ところで、彼は見つけたのかい?」
その問いに娘はコクリと頷いた。
「見つけたわ。姿、形は違えどあの人だった」
「そうか、良かったな」
店主がもう一度、撫でるとふわりと娘は笑った。素朴な顔つきの娘は美人と言いがたいけれど、店主にとってその表情が、誰よりもまさる愛らしいものだった。




