9話
「へ?」
マスターのその一言につい間抜けな声を出してしまった。
心を落ち着かせようとするも僕の中での疑問が消えることは無い。
「あの、ここには2つお店があるんですか?」
カウンターの隅には外にあった看板と、同じ形のミニチュアが置かれていた。
そこには小さく丸っこい字で『恋愛喫茶古時計』と書かれている。
「いやいや違いますよ。僕があることをしたくてここをもうひとつの店としているのです。 ね、佐々木さん?」
「そうですね。にしてもマスター。この子がそうなんですか? 初めてこの店に来た感じですし、私にはそう見えませんけど」
「私の感です。 本人は気づいてないですがね」
今度はマスターとカウンターに座っていた佐々木さんという人との会話に置いていかれる。
「あの、どういうことですか? 僕は何も知らないんですけど……」
「大丈夫ですよ、まだ何も知らなくても。 ただ私にあることを聞かせてください」
「はぁ……」
大人の人との会話として生返事はいかがなものかと思われるのだが、何も分からないことを説明されても生返事しかできないのが現状だ。
「でも良かったじゃん。 ここの席に案内されたってことはあのセットが無料なんだよ」
2つほど離れた席に座っていた佐々木さんという人が僕にそんな情報をくれる。
「そうなんですか。 ちなみにあのセットというのはどんなものなんですか?」
「それは来てからのお楽しみ〜。 そもそもどんなものがくるか私にも分からないよ」
その一言で毒物が入った何かを飲ませられる想像をした僕は悪いだろうか仕方ないだろうか分からないが、少しは興味をそそられる話だった。
「それではお話でもしましょうか。 まずは君の恋愛についてだね」
「は?」
予想外な話の進み方に僕は再び言葉選びを間違ってしまった。