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第六〇話 守らなくてはいけないもの


 満月の夜、迷宮(ダンジョン)が変遷を迎える日。俺たちは力を合わせ、乗り越えることが出来た。


 俺がソフィたちの元に戻ると、会って早々、陽には物凄く怒られてしまった。せつなは俺の無事を確認して、泣き出す始末。そんな二人をソフィが苦笑しながら見守っていた。


 まぁ仕方がない。確かに皆には心配も迷惑もかけてしまった。甘んじて説教を受けよう。それに、そんなありふれた日常が、心地よかった。


 ソフィ、陽、せつなという俺のパーティーメンバーは軽傷を負ったものの、元気な姿を見て、俺は一安心する。

 中には、大量の魔物との交戦により、もう二度と冒険者稼業をすることが出来なくなってしまった者も数多くいた。それに、命を落とした者も……。


 迷宮(ダンジョン)の変遷によってか、崩壊した通路はいつの間にか開通しており、またワープゲートも元通り修復されていた。


 無事、満月の夜を乗り越えた俺たちは、早々にワープゲートを使用し、地上に帰還する。そんな俺たちを待っていたのは、尋問――もとい、冒険者組合による事情聴取であった。


 これまで満月の夜を迷宮(ダンジョン)内で過ごし、生還した者は皆無。それにあの商人の昔話もあって、今までは全面立ち入り禁止となっていた満月の日の迷宮(ダンジョン)。不運な事に閉じ込められてしまった俺たちの証言は、貴重なデータが得られると、徹底的な事情聴取が行われたのである。


 組合職員による事情聴取は、かなり細かく、詳細に聞かれた。というか、その日の夕食の内容まで聞いてくるのは、正直、意味が判らないけど……。


 無残にも破壊されたワープゲート。そして、上層下層へと続く通路の謎の崩落。

 クリスタルの光から生れ落ちた大量の魔物たちとの掃討戦。伝説の迷宮(ダンジョン)の番人、ヘカトンの来襲。


 満月の夜に起こった数々の事柄を陽が思い起こしながら職員に答えていく。陽が曖昧な所は、ソフィが即座にフォローしていた。


 魔人の事については、バルバトスたちと話し合った結果、詳細は伏せる事にした。何でも、魔人が現れたという知らせだけで、国が動く非常事態になるんだとか。それほど、魔人という存在は脅威らしい。


 出現の報だけで、国を挙げての大騒ぎとなるのに、この上、魔人を討ったと知られれば、間違いなく俺は注目されることになる。隠さなければならない事が多い俺としては、それだけは勘弁してもらいたかった。

 すると、バルバトスが……。


『なぁに、人に注目されて悦に入る変わった者も居るが、坊主はそういうのは嫌なんだな。しゃ~ねぇ、俺が何とかしてやるよ』


 と、自信満々に請け負ってくれた。どうやら、魔人の事については、流石に報告しない訳にはいかないらしく、バルバトスが信頼できる組合職員の一部だけに知らせるとか。

 どう報告するのか気になって聞いてみると。


『そんなもん簡単さ。魔人がいきなり現れてしまったが、謎の炎の騎士さんが、ぶっ殺してくれたって言えばいいんだよ』


 おいおい、そんなのでいいのかよ。絶対に嘘だとバレるだろうが……なんて思っていたが、バルバトス曰く、『満月の夜の迷宮(ダンジョン)は何が起きてもおかしくねぇんだ。現にヘカトンなんていう化け物まで出やがったんだ。どうとでもなるさ』と。


 あまりにも自信満々で言うので、魔人の事についてはバルバトスに一任することにした。幸い、魔人を目撃した者は、ヘカトンと死闘を繰り広げたごく一部だけだし。まぁ何とかなるだろう。


 職員による事情聴取は長時間に渡ったが、何とか終わり、俺たちは解放された。辺りを見渡せば、慌ただしく走りまわる職員。なんだかすごく忙しそうで、誰もが汗を滴らせ、疲労困憊といった具合だ。あ、アレは確かチャーチルだったっけ? 恰幅の良い年配の男性に激しく叱責され、ぺこぺことしきり頭を下げていた。


 とにかく、事情聴取も終わった。俺たちは聖堂インクウェルを後にした。


 たった一日だったが――正確には二日だけれど――、晴れ渡った空が何とも懐かしい。まぁ長時間拘束されていたから、すっかり夕空となってしまっているが。


「ねぇねぇ、これから皆で帰還パーティーするんだけど、ユニウスさんとマルクさんも一緒にどう?」


 何やら帰還パーティーとやらをするようだ。まぁ俺も今陽の話を聞いて、知ったんだけれど。


「ええ、そうですね。こうして皆さんと無事に帰還できたことですし、ぜひとも参加させて下さい」


 そう爽やかな笑みを浮かべながら答えるユニウス。ユニウスが参加するならと、マルクも参加を表明する様に、無言で頷く。


「あ、でも、少し遅れてしまうかもしれません。職員さんに紹介された治療院へと行きたいので」


 ユニウスは三角布に吊るされた腕を少し掲げて見せた。その怪我は、俺を魔人から庇った際に受けたものであった。


「ユニウス、まだ痛むのか?」

「いえ、痛みはありませんよ。リュウヤくんに頂いた上薬水(ハイポーション)のおかげで。それに治療院に行くと言うのも、念の為ですよ。それに行かないと紹介して下さった職員さんに悪いですし」


 そう苦笑しながら言うユニウスを観察するが、強がりを言っている様子はなく、俺はホッと胸を撫で下ろす。


「それでは、僕たちはここで。また夜にお伺いさせて貰います」


 爽やかな笑みを浮かべながら、ユニウスが挨拶し、歩き出そうとした。そんな彼を俺は呼び止めると、勢いよく頭を下げた。


「ユニウス……その……ゴメン! 俺がしっかりしていたら、ユニウスが怪我を負うことなんて――」


 まるで俺の謝罪を遮るかのように、ユニウスがそっと俺の肩に触れた。


「リュウヤくん、顔を上げて。リュウヤくんが謝る事なんて何も無いんですよ」


 面を上げると、ユニウスがにこやかな微笑みを俺へ向ける。


「それに……少し嬉しかったんです」

「……嬉しかった?」

「ええ。本音を言うと、あの者と対峙するだけで、僕は身体が竦み、何も出来ませんでした。そんな僕が気付けば、リュウヤくんを庇っていたんです」


 魔人との闘いの最中、ユニウスを気にする余裕は俺には無かった。今思い返せば、ユニウスが魔人に挑むことは無かったように思う。


「全く勇気の出なかった僕が、友人の為に動けた事が何よりも嬉しいんですよ。だから、謝らないで下さい」


 全く邪気の無い爽やかな笑顔。男である俺でさえ、惚れてしまいそうになる清々しい微笑だった。


「そうだよっ、りゅうちゃん。言う言葉が間違っているよねっ?」


 陽がツンと肘で俺を突く。あぁ、そうだな。言う言葉が間違っていた。


「ありがとう、ユニウス」

「はい、リュウヤくん」


 お互いそう言うと、自然と笑みが零れた。


「あわわ……まさか……先輩って……び、BLの気が……」


 おい、せつな。何不穏な事を呟いているんだよッ!


 治療院へと向かうユニウスたちと別れ、俺たちは一先ず、懐かしの定宿チェリーパイへ戻ることにし、ゆっくりとインクウェルの街並みを歩いていく。


 まだ満月の夜の事件は知らされていないのだろう。行き交う人々は、普段と変わらない日常を送っている。

 活気のある客引きの声。値切る主婦と店主のやり取り。今から迷宮(ダンジョン)に向かうのであろう冒険者たち。

 変わらない日常の光景が、無事生きて帰って来られたという実感を強くする。


「それにしても、ホント、大変だったよねぇ~」


 陽がしみじみと言う。


「そうですね。本当に色々ありました」

「うん……ちょっと疲れたよ……しばらくは……行きたくないかな……」


 はぁとため息を吐くせつなに、陽が笑いながら「同感っ」と大きく頷く。


「まぁ暫くは休暇にしてもいいんじゃないかな? まぁ俺も少しは休みたい気分だしな。それに今回の事で冒険者組合も大忙しみたいで、買取も後日にして下さいって頼まれてちゃったし」

「それも仕方が無いですよ。今回の事は、冒険者組合にとっても寝耳に水でしょうし。今後、このような事件が二度と起こらないように、再発防止について会議しなくてはいけないでしょうし、しばらくは落ち着かない日々が続くのではないでしょうか」


 うん、そうだな。ソフィの見立て通り、今後数日は今の慌ただしさが続くだろう。


「あぁ、その会議、なんかバルバトスさんたちも参加するみたいだよっ。何でも、冒険者の報酬について協議するとか」

「いっぱい……魔物……倒しましたから……大変そうです……」


 確かに大変そうだ。今もなお、リビア近郊には多くの魔物の死骸が放置されている。まぁ順次運び出しているのだろうけれど。

 あんな混戦の中では、誰がどの魔物をどれだけ倒したのかなんて判る筈も無い。不平不満が起こらないの様に、これから会議で調整するのだろうけれど……気が遠くなる話だな。


「あっ。思い出したんだけど、ホントビックリしちゃったよっ、モモちゃんには」

「ふふふ、確かにわたしもビックリしちゃいました。まさかヘカトンを捕食してしまうなんて」


 その時の事を思い出したのか、ソフィは楽しそうに笑った。


「うんうんっ。あの時のりゅうちゃん、面白かったよねっ。めちゃくちゃ慌ててたもんっ」


 いや、そりゃあ慌てるだろう。皆が見ていない隙を突いて、モモがいきなり飛び出したかと思えば、ヘカトンを捕食し始めたんだから。

 ヘカトンの死骸は、今回の最大級の戦利品と言って過言ではない。それをモモが食べ始めたんだから、俺は必死に止めたよ。マジで本気で焦ったし。


「ホント、冷や冷やしたよ。何とかヘカトンの指先だけ済んだから、誰にも気づかれてはいないだろうけど」

「まぁそんな心配しなくても大丈夫だよっ。ヘカトンってすっごく大きいし、ちょっと指先が変に欠けてても誰も気づかないってばっ」


 楽観的に陽はそう言うが……本当にそうであって欲しいと切に願うよ。


「モモちゃん……新しいスキル……増えたんですよね……?」

「うん。ヘカトンを捕食して、特殊能力(エクストラスキル)「再生」を手に入れたみたい」


 指先のほんの少しだけしか捕食していないというのに、モモは新たに特殊能力(エクストラスキル)「再生」を取得した。勿論、存在値も上昇している。


「ほっほ~、スライムで「再生」って最強の組み合わせじゃんっ。そう遠くない未来、モモちゃん最強伝説が始まるかもねっ」


 陽は冗談で言っているのだろうが……俺も何となくそうなるのではないかと思っている。何せ、モモはこの数日で笑えないほど、成長しているしな。


「まぁ何はともあれ、無事生きて帰って来れて良かったよねっ」

「はいっ。一時はどうなるかと思いましたけど」

「うん……皆無事で……よかった……」


 俺の前を歩く三人は、互いに無事、生還できた喜びを分かち合っていた。三人とも飛び切りの笑顔だ。


 ふと、俺は自分の手を見た。今は汚れ一つない綺麗な手。

 だけれど、直ぐに思い出せる、あの感触……。


 俺はこの異世界で初めて人を殺した。魔人と言えども、人殺しは人殺しだ。罪深い事には変わりない。

 多分、これからも俺はこの手で多くの命を奪う事になるだろう。この異世界で生きていく為には、避けて通れない道なのは確かだ。


 でも、慣れてはいけない。今のこの気持ちを忘れてはいけない。


「りゅうちゃん、いくよっ」


 いつの間にか立ち止まってしまっていた俺に、陽が優しく声を掛ける。ソフィも、せつなも微笑を浮かべて、俺を待っている。


 俺はギュッと手を握り締めた。例え、この先、多くの命を奪う事になってしまっても、この目の前の笑顔だけは絶対に守らなくては……。


「おう! 今行くよ」


 誰にも知られることのない決意を胸に、俺を待つ人の元へ、新たな一歩を踏み出したのだった。



ここまで読んで下さり、有難うございます!

これにて第二章【迷宮都市編】完結です!

登場人物(二章)のまとめ、あと幕間を挟み、第三章へと移る予定です!

これからも「イグニス・ファトゥス~異世界召喚されたら、ゴブリンになっちゃった~」をよろしくお願いします!

感想・指摘等、お待ちしております!

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