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第二七話 冒険者組合

間が空いてしまってごめんなさい!


 情報交換を終えた俺らは、一先ずリーディニの街を散策することに。

 異世界召喚されてからの初めての街だ。正直ワクワクしている。


「ここは青空市場みたいな感じだよ。新鮮なお野菜とか売ってて、あたしもよく利用してるんだぁ~。安いし、美味しいしね。せっちゃんとよく来るんだよ」


 メインストリートの両脇に軒を連ねる露店の数々。昼時とあって活気に満ち溢れている。


「見た事のないお野菜ばかりですね。あ、これは知ってます。確か……トメイトでしたか」


 初めての大きな町とあって、ソフィも楽しそうだ。ずっと寒村で暮らしていたソフィにとっては、どれもこれも新鮮なのだろう。


「ふふふ、フィーちゃん。それ、すっごく美味しいんだよ。おばちゃん、トメイト下さい」

「はいよ。三つで銅貨一枚だよ」

「はぁ~い。これで」


 陽だがポケットから銅貨を取り出し、店員のおばちゃんへと渡した。ふむ、銅貨一枚で大体百円くらいの価値かな。


《日本円で換算すると、銅貨一枚で約百円のようです。因みに、銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨百枚で金貨一枚。金貨千枚で白金貨一枚となるようです》


 単純に十進法って訳じゃないんだな。


「フィーちゃん、どうぞ。食べてみて」


 陽がトメイトと呼ばれる赤い果実をソフィに手渡しながら、カブッと一口。


「ん~おいしい。ジューシーで、日本のトマトよりも美味しいんだよね」

「はむっ……あ、ホントだ。美味しいです」

「でしょ、でしょ?」


 微笑み合う陽とソフィ。少しずつ打ち解けてきたようで、ホッと一安心。


「せっちゃんもどうぞ。りゅうちゃんは、あたしの食べ掛けだけど我慢してね」


 手渡されたトメイトを一口。うん、確かに瑞々しくて、美味しいな。


「ジー……」

「……」


 ジト目で俺を見るソフィとせつな。な、何かな?


「うふふ、んじゃあ次に行ってみよう!」

「う、うん……そうだな。次に行こう、うん」


 二人の冷たい視線に居た堪れなくなり、陽の後を追う。背中がチリつくようだ……。


 青空市場を抜けると、様々な雑貨店が並んでいた。武器や防具を売っている露店や、日用品を取り揃えている店など、雑多な雰囲気を醸し出している。


「りゅうちゃん、りゅうちゃん、こっち、こっち」


 陽に呼ばれて向かうは一軒の雑貨屋。食料の干し肉やナイフ、アクセサリーに派手派手な衣服と、混沌とした露店である。


「この後、冒険組合に行くでしょ? ならさ、りゅうちゃんの正体がバレるのはダメだからさ、仮面とか付けていた方がいいと思うんだけど」


 この後、リーディニにある冒険組合に向かい、ソフィの冒険者登録を行う予定になっている。迷宮都市に着いてからでもいいのだが、どうせ登録するなら早い方がいいと、リーディニで登録することになった。


「いや、でも……俺は登録できないよ?」


 冒険者登録するのはソフィだけだ。俺は今や魔物――中鬼族(ホブゴブリン)だ。流石に登録することは出来ないだろうし、正体がバレるような事は出来ない。本当は冒険者になりたかったんだけど……。


「うん、それは判っているよ。それでも、変装していた方がよくない? これからも人目の付く所に出る機会は多いだろうし」


 確かに陽の言う通りかもしれない。基本的に行動を共にするし、変装くらいはしていた方がいいかも。


 という事で、俺の変装用マスクを選ぶことに。何故だか、陽、ソフィ、せつなの三人が選び、俺が優勝者を決めるというゲームとなってしまった。


「これなんかどう? やっぱりマスクと言ったらこれでしょ!」


 陽が選んだのは……何だコレ? ゴレ〇ジャーのレッドの仮面って……何故、こんなものがこの異世界で売っている!?


「これが良いと思います! リュウヤさん、これにしましょう!」


 ソフィが選んだのは……うん……コレ、マスクっていうより剥製じゃないかな? 立派な狼の頭です……。


「一番……これが……地味でした……」


 最後はせつな。彼女が選んだのは、本当に地味な白と黒の仮面だ。


「うん、東条さんの選んだヤツで」

「ちょっと、りゅうちゃん!? それじゃあ面白味に欠けるじゃんか!」

「そうですっ! やっぱりリュウヤさんにはこの狼が一番ですっ」

「あの……せつなでいいです……」


 プリプリ怒る陽とソフィ。せつなはポッと頬を赤らめている。


「いやいや、二人が選んだヤツとかダメでしょ。折角の変装用なのに、目立ってどうするんだ。とにかく、東条――せつなが選んだヤツにする!」


 ブツブツ文句を言う二人を差し置いて、セツナが選んだ仮面を購入。ただ、俺には額に角があるので、このままでは着用は出来そうにない。

 露店から脇に逸れて、人目の付かない場所へ。魔法鞄からナイフを取り出し、仮面の額部分に穴を空ける。


「りゅうちゃんって、昔からそういう細々した作業って得意だよね」

「そうなんですか?」

「うん、美術とか工作とか得意だったよ」

「へぇ~。リュウヤさんってどんな子どもだったんですか?」

「りゅうちゃんはねぇ――」


 幼少期の俺の事で盛り上がる陽とソフィ。あ~うるさくて集中できないぞ。

 と、視線を感じて顔を上げれば、せつながジッと俺を見詰めていた。


「何か……手伝えること……ありませんか……?」

「ん~特には。ありがとう」

「いえ……」


 せつなの視線を感じながら作業する事、数分。良い感じに穴を空けることが出来、早速着用してみる。


「うん、いい感じじゃん。あたし的にはもっと面白い方がいいんだけど」

「リュウヤさん、似合ってますよ」

「いいと思います……」


 三者三様の感想は上々。まぁ変装用だし、俺が中鬼族(ホブゴブリン)だと判らなければいいのだ。


 寄り道はここまで。早速、冒険組合に向かうことに。

 冒険組合は場末の酒場といった様相を呈していた。昼時とあって冒険者の数は少なく、閑散としている。


「やっほ~。お仕事お疲れ様ぁ~」


 陽が陽気に声を掛けつつ、受付へ。受付嬢は礼儀正しく、頭を下げる。


「こんにちは、ヒナタさん。依頼受注ですか?」

「ううん、違う。あ、そうだ。北の街道付近にグレイウルフの群れが居たんだよ。新人冒険者だと、あの群れはちょっと厳しいと思う。だから、組合でも注意を呼び掛けてほしいんだぁ」

「まぁ! それは大変ですね。直ぐに冒険者の方々に注意を呼び掛けることにします。貴重な情報ありがとうございます」

「いいの、いいの。あ、今日はね、新しく冒険者登録をお願いしたいんだ。フィーちゃん」


 陽に呼び掛けられたソフィが前へと進む。


「えっと、あの……登録をお願いします」


 ソフィは少し緊張気味だ。亜人族(デミヒューム)の彼女にとって、人族(ヒューム)の受付嬢と話すのは中々ハードルが高いのだろう。だが、受付嬢は特に気にした風も無く、ニコッと微笑む。


「はい、承りました。冒険組合のご利用は初めてですよね? 説明させて頂いてよろしいですか?」

「あ、はい。お願いします」

「では、説明させて頂きます。冒険組合とは――」


 受付嬢の説明は、俺が想像していた通りのものであった。


 冒険組合とは、依頼者の仕事――クエストと呼ばれる――を仲介・斡旋する組織のこと。

 クエストは大まかに二種類――通常クエストと特別クエストに分類される。通常クエストは、組合内にある掲示板に張り出され、難易度に応じてランクが設定されている。ランクは下からカッパー、シルバー、ゴールド、ミスリル、プラチナと五段階。一定以上のクエスト及び、組合の貢献度に応じて、ランクが上がるそうだ。

 下級ランクの者が上級ランクのクエストを受けることは出来ない。しかし、同行者の半数が上位ランクに達している場合に限り、下位ランク者も上位クエストを受注することが出来る。


「通常クエストについては以上です。続いて、特別クエストについてですが……別名を個別指定クエストと言います。組合から指定された冒険者に直接発行される依頼であり、緊急性の高い依頼が多く、確実にクリア出来る冒険者にしか発行されません」


 組合指定型クエストってか。組合が選んだ力ある冒険者に依頼をすることで、より確実性を高めようとしているってわけね。


「そして、特別クエストに関しましては、申し訳ありませんが、冒険者に拒否権はありません。非常に緊急性の高いクエストになりますので、必ず遂行して頂きます」

「街に魔物の大群が襲ってきた時とか、そういった緊急時に特別クエストが発行されるんだよね。冒険者の義務ってやつだよ」


 陽が受付嬢の説明に捕捉した。


「はい、そうです。特別クエストを拒否した場合、いくつか罰則があります。罰金や、ランクの降格……最悪の場合は冒険者資格の剥奪等ございますので、十分にお気を付け下さい」


 他に注意点として、クエストに失敗した場合には違約金が発生する事や、討伐依頼は依頼書指定の地域以外での成果は認められない、冒険者同士の個人的な争いには組合は不介入、ただし、組合に不利益をもたらすと判断された場合は介入……と色々と説明された。


「以上で説明を終わらせて頂きます。何かご不明な点はございますか?」

「あ、いえ。特にはありません」

「ありがとうございます。では、引き続き、冒険者登録に移らさせて頂きますね。こちらに必要事項の記入をお願いします。代筆も承っておりますが……」

「あ、大丈夫です」


 羊皮紙に必要事項を記入していくソフィ。名前に、得意な武器、魔術と色々と記入欄がある。


 あれ? そう言えば、俺文字が読めるようになってる?


《言語パターンを解析し、投射しています》


 おぉ~、流石ラファ。やることに抜かりはない。


「なぁ、陽。お前らってこの世界の文字とか、読めるの?」


 気になって、小声で陽に訊く。


「うん、読めるよぉ~。何だかよく判らないけど」

「異世界言語のスキルが……あったからだと思います……」


 なるほど。正常に召喚された場合、この異世界で暮らす為に必要なスキルが備わっているのだろう。俺の場合はイレギュラーだったし、言語は理解出来ても、読み書きが出来ない不完全な物だったのだろう。


「書けました」

「はい。では、登録してきますので、少しお待ちください」


 受付嬢が席を立つと、ソフィはふぅと息を吐き出す。


「どうしたの、フィーちゃん? 何だかすっごく緊張してたみたいだけど」

「あ、はい。あの……わたし亜人族(デミヒューム)ですから」


 ソフィの答えを聞いてもよく判らないのか、陽は頭上に疑問符を浮かべている。


「まぁ、それについては追々説明するよ。あ、戻って来たみたい」


 登録を済ませた受付嬢が戻って来ると、銅のプレートを差し出す。カッパークラスのプレートだ。


「はい、こちらが資格証明のプレートです。初回登録に限り無料ですが、再発行には銀貨一枚必要となりますので、紛失しないようお気をつけて下さい」

「はい、無くさないように気を付けます」


 プレートを受け取ったソフィは大事そうに胸に抱く。


「これでフィーちゃんも、あたしたちと同じ冒険者だね」


 陽とせつなは首から提げていたプレートをソフィに見せる。ソフィと同じくカッパークラスだ。


「はい。これからもよろしくお願いします」


 晴れて冒険者となった実感からか、ソフィは嬉しそうに微笑んだ。


「これで登録は以上となります。えっと……そちらの方は?」

「あ、俺は大丈夫です」


 ホントは俺も冒険者になりたい。だけど、冒険者になることによって余計なトラブルに巻き込まれるわけにはいかない。ここはグッと堪えて我慢、我慢。


「この子はまだ小さいので、大きくなってから冒険者登録するよ。今日はお姉ちゃんに付き添って来たんだよね」


 ポンポンと俺の頭を撫でる陽。カモフラージュだからって、小さな子扱いはちょっとムッと来る。


「そうでしたか。ボク、大きくなったらまた来てね」


 あ~はい……。もう何でもいいや。


「あ、そうそう、ヒナタさん。聞きましたか? 最近、新人冒険者を狙った盗賊のこと」

「うんにゃ? あたしは聞いて無いよ。何かあったの?」

「はい。最近新人冒険者を狙った犯行が横行しているそうです。怪我人も多く、中には死亡しているケースも多いそうで……気を付けて下さいね」

「はぁ~……何だか物騒だね。うん、ありがと。充分に気を付けます!」


 スタッと敬礼する陽。ホントに判っているのか……心配だな。


 さて、登録も済ませた事だし、もう冒険組合には用は無い。次は迷宮都市へ向かう乗合馬車の駅へ向かうかな……。


「ん? どうしたの? せっちゃん」

「クエスト……確認しませんか……?」

「え? でも、もうこの街から出るんだよ? クエスト受けても仕方がないじゃんか」


 陽の言う通り、俺たちは迷宮都市へと向かう予定だ。この街でクエストを受注する必要は無いのだが……。


「もしかしたら……護衛のクエストが……あるかも……」

「あ~なるへそ。迷宮都市へ向かう護衛依頼があれば、お金にもなるし、乗合馬車よりもいいよね。流石せっちゃん、良い所に気付くぅ~」


 どうせ迷宮都市に向かうなら、護衛クエストを受けておくのもいいかもしれない。それにどんなクエストがあるのか、見ておきたい。


 そのままクエストが張り出されている掲示板へと向かう。昼時とあって、クエストの数は少ない。こういうのはやはり朝一番が多いのかな。


「ヒポクテ草の採取に……ゴブリンの討伐か……あんまし報酬は良くなさそうだな」

「それは仕方が無いよ。今残っているのなんて、誰でも出来る不人気な物ばかりだもん」

「ふ~ん、やっぱり朝だと、報酬金が高いのが多いのか?」

「うん、報酬金が高い美味しいクエストは朝一番じゃないと中々受注出来ないよ。今は冒険者も少ないけど、朝だとバーゲンの時みたいにわちゃわちゃして、ホント大変なんだ」


 辟易しているのか、陽はハァとため息を吐く。


「陽さん……ありました……」

「お? あったんだ。ん~とどれどれ」


 真面目にクエストを探していたせつなが、条件に合致するクエストを見つけたらしい。皆で確認してみることに。


「迷宮都市までの護衛……報奨金銀貨十枚か……これってどうなんだ?」

「ん~正直、あんまり美味しくは無いかな~……あ、でも食事が支給されるみたい」

「え? 支給されない事もあるの?」

「はい……備考欄に書かれていない場合は……基本的には支給されないです……支給されない場合は……報奨金が多く設定されている事が……多いです……」


 なるほど。食事付きで報奨金が少ないか、食事無しで報奨金が多いか。色々とパターンがあるんだな。


「どうする? カッパーでも受けられるから、報奨金はあんまり美味しくは無いけど」

「ん~特にお金には困ってないからなぁ~。俺は受けてみてもいいと思う。どうせならどんな感じか判っておきたいし」


 お金に関しては現状困ってはいない。というのも、アドルフが遺した魔法鞄には多額の貨幣が残っているからだ。ちょっぴり罪悪感も否めないが、活用させて頂いている。


「うんっ。なら、受けてみよう! あたし、受注してくるね。フィーちゃん、行こっ」

「あ、はいっ」


 掲示板に貼られていた羊皮紙を剥がすと、陽はソフィを連れ添って受付へ。どうやらクエスト受注の流れをソフィに教えるようだ。相変わらず、面倒見の良い陽だな。



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