1.
この時代、町は点在している。つなぐ道を作ろうにも余裕なんてなかったし、その必要もすぐになくなった。人数が少なければ自給自足は出来る。元々、そういった傾向がある個人の集まりである。誰も文句を言うこともなく、次の世代へ引き継がれた。
この頃になると、魔物が現れるようになった。彼らは外へ出るのはあきらめもっぱら町を豊かにするようつとめた。他の町の存在を知ってはいても、彼らは夢見はしなかった。どこも同じだと思っていた。そしてそれは事実だった。
三代目になる。
もはや青い空を知るものもいない。なぜ自分の世界がこんなに小さいのか、知る者も少ない。ただ、少し昔に何かがあっただろうことだけは確かだった。そしてそれに女性が関係していることも。
四代目ともなれば表れ方は顕著だった。
女性は町に数えるほどしか生まれない。5人も6人もいる兄弟の中で、女性が1人いればいいほうだ。そして1歩町から出れば、魔物に襲われやすいのも女性だった。女性は大切に守られ育てられた。
「‥‥馬鹿みたい」
マナファナは本から顔を上げ、小さく呟いた。その前では父親の弟が、困ったように笑った。
「‥‥大体さぁ。こんな、破滅からのたかだか100年ちょっと、歴史なんて名付けるほどのものでもないでしょーに。こーんな薄っぺらい時間の上に自分がいると思うとバカらしくもなるわ」
そして、本と呼べないほど薄い本を、机の上に置く。立ち上がる。
ふゎ、と、柔らかい猫っ毛が躍った。年頃の娘らしく薄く施された化粧も、こんな家の中では映えない。
「マナファナ、どこへ?」
父親の弟、ほとんど兄のような存在のテヘトが立ち上がりかけるのを見て、マナファナは呆れたように言った。
「ちょっと外。息抜きするだけよ、わざわざ来なくていいってば」
テヘトは家族のようなものだが、それでもずっと付きまとわれれば鬱陶しくもなる。苦笑して、それでもやはりテヘトは立ち上がる。
「そうもいかないよ」