11.
押し入った民家の中では、老人がぎらぎらとした目でマナファナを見た。ソノリアのことは無視だ、いくら彼が女と見紛うほど可愛らしくても、それは求めるものではないと後がない彼らには分かるのだろう。
食料ならいくらでもくれてやる、と老人は唾を飛ばした。だから、
「この町に居ついてくれ」
そう言って掴みかかろうとするのを止めたのは、ソノリアが抜いた双剣だった。見開いた目のすぐ前に切っ先を突き出して、最早口元すら笑っていない。
「やめてよね、やっと出会えたひとを奪うのは」
「独り占めするのかっ」
「そりゃするでしょ」
口調は軽いがその殺気は本物だった。それは老人にも痛いほど分かるのだろう、悲痛な面持ちで、けれど必死で、縋るように哀れな声を上げた。
「この町が滅ぶのだっ」
「あらそう。大変だね」
あんまりでかい声出すと殺すよと、口調だけは軽くソノリアは言った。マナファナ、と、そのときだけ柔らかい声で呼びかける。
「くれるっていうなら食料もらって、早く出ようよ、こんなところ」
「女はみんな死んでしまったっ」
必死の訴えを耳にして、あぁそれでか、とマナファナは深く納得した。
「‥‥それを言われても、私はこんなところで立ち止まるわけにはいかない」
それだけ告げて、あとは相手をする気力がもちそうになかったので目を逸らし、ソノリアに任せて食料を捜すことにした。要するに強盗に入った先だった。
「でもそんなに切羽詰まってるなら、みんなで襲いに来なかったのは何で?」
そしたらみんな返り討ちにしてあげたのに。と、悪魔のようにソノリアは嗤った。
「‥‥うちで一番強い連中が帰ってこなかったからだ‥‥」
「あぁ。あのひとたち?」
町に入る前に襲われたのは、ならず者ではなくて町の代表者だったらしい。世も末だなと、物色しながら聞こえてくるだけの会話を聞いて、マナファナは自嘲した。耳に入れる気もなかった台詞の中で、もしかしたら名乗っていたかもしれないが、そんなものは聞くに堪えない。
「それで求められる食料をやらなければ、出て行くに出て行けないから、とでも思ったのね?
馬鹿だねぇ、その気になれば殺しでも泥棒でも、何でもできるのに」
こんな風に、と笑ったソノリアが、何を指してこんな風にと言ったのかは、マナファナは考えないことにした。