10.
襲われて切り捨てて歩いてきて、次の町に踏み入れて、すぐさまきびすを返したくなった。
「‥‥やな感じ」
隣でぼそりとソノリアが呟いたから、やはりマナファナの勘違いではないようだ。
この時代、ひとは生きることに必死で、わざわざ荒野に乗り出すような酔狂な者は多くない。多くないだけで自棄になったように飛び出す輩はあるのだけれど、無事に旅を続ける者はさらに少ない。だから、人々が旅人に慣れていない、ということはある。
だからおざなりに設置された門をくぐる人間に、視線が集中するのは理解できる。そのまま張り付いて離れないもの分かる。
「‥‥食料だけ手に入れたらすぐに出る」
「そうだね」
ただ異分子に向けるだけでない視線を受けながら、うっかりソノリアに向かって呟いたマナファナは、やはり多少は堪えていたからだろうか。彼を同行者として認めてはいないはずなのに。これからの予定を逐一告げてしまうのは、それは弱さだとマナファナは思った。誰かに受け入れてもらいたいような、飛び出したのは自分なのに。罪を抱いているのは自分であるのに。
食い入るような視線は熱を持つ。
「‥‥売れない、と?」
露店では保存の効くような食料は扱っていないからと、仕方なく町の中ほどまで歩いてきて、その間も視線は一時たりと離れずに、辟易としていた。店を構えるからにはそれなりの供給量があるのだろうのに、求めに返ってきたのはすげない返事だった。
熱のある視線と冷めた視線が交差する。ソノリアはマナファナの背後で、一層冷たい表情をしていた。何となく、読めた。
「あぁ売れないね。生鮮食ならいくらでも譲ってやれるがね」
「‥‥金の問題ではないのだろうな」
「マナファナ、無駄でしょ」
奪っちゃったほうが早いよ、と、ソノリアは言う。
「‥‥なら、いい。とりあえず果物をもらおうか」
「それなら無料で構わないんだぜ」
「‥‥金は、払う」
無料より高い物はない、という言葉は真実だと思う。
結局、どの店も同じだった。
そうだろうなと思っていたので今更がっかりはしないが、困るのは確かだ。
「奪っちゃおうよ」
ソノリアはどんどんと表情をなくしていて、口元だけ笑みの形に歪めて軽く言うがそれは間違いなく本気だ。おそらく、彼はマナファナ以上にそれらの視線の意味を嫌悪している。正直マナファナにしてみたら、物心ついたころから大なり小なり似たような視線にさらされているわけで、どいつもこいつも同じだという感想しか持てない。
「‥‥それしかないか」
どいつもこいつも同じだとは思うが、だからと言って自分が盗人に堕するのはどうかと思うが、気分の良い物でないのは確かだ。それにこの町の連中には、切羽詰まったような空気すら漂っていて、下手をしたら危ういのは命でさえあるかもしれない。
決意すれば、マナファナは迷わない。そういう生き方をすると決めている。