↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/29

人狼は否定される

 ヴァンパイアが眷属を作る方法を、俺は知らない。だから、できることは目を閉じて耐えることだけ。

 傷を付けられる?血を飲ませられる?何をされても動揺しない。

 そう固く決意をしたのに、何も起きない。

 視界を閉じても、まだかまだかと、鼻と耳が番場さんの動きをついつい追ってしまう。

 しかし、待てども番場さんは動かない。


「その気はない」


「……え?」


「武、お前のそれを覚悟とは呼ばん」


『何をしている番場。命令に従え!』


「大上武を眷属化する気はありません」


『……情が移ったか?小を捨て大を取る。死ねば素材。保護した時点でその話だった筈だ』


 インカムからは上層部の怒声が届いているが、俺も番場さんも取り合わない。互いの視線が交差する中、番場さんは声を発する。


「俺にお前を眷属化する意思はない。勿論、志臥を見逃すつもりもない」


 番場さんの宣告に志臥がニタニタと笑いながら立ち上がる。


「もう少しお利巧かと思ったが。面白味があるな」


「そう言うキサマは自由すぎるな。余裕の表れか?」


 拳銃へ弾倉を込め直した番場さんは銃口を志臥へ向けた。


「同じ手は通じないぜ?」


「俺だって馬鹿じゃないさ」


 余裕の表情を浮かべる志臥に対し、番場さんは冷めた表情でそう告げる。


「……え!?」


 パンッパンッと乾いた音が響くと同時、腹部に衝撃が走る。

 番場さんの構えた拳銃は俺に向けられており、硝煙がゆらゆらと立ち上っていた。


「呆けるな、武。反撃の時間だ」


 肉体にめり込んでいた特殊弾から、血が流れだし全身を包む。

 爪はより長く、鋭く。毛皮はより強靭に。


「これは、凄い」


 全身を覆う真紅の鎧に、戸惑いより先に興奮が込み上げた。


「ハッ。それで勝てるなら、苦労はしねぇぜ?」


 志臥が大きく息を吸い込む。先ほどの遠吠えを用いた遠距離攻撃。


「音の攻撃!」


 短く発する俺の言葉を察して、番場さんは血の鎧で耳を塞いでくれる。


「―――ッ!!!」


 ビリビリと全身を揺さぶる衝撃。多少視界は揺れるが問題ない。


「ガハッ」


 背後で番場さんが血を吐いたのが分かる。咄嗟の判断で俺を優先してくれたのだ。


「うおおおおっ!」


 肉薄し、致命傷ではなく、傷を負わせることを目的とした爪による横薙ぎ。

 傷口から血が入れば、あとは番場さんのほうで眷属にできるはず。


「遅い!」


 遠吠えのダメージによって、わずかに鈍った爪はは、志臥に届かない。


「いや、それでいい」


 後退し、紙一重で躱した志臥に爪から伸びた血が、肘と膝の関節へ深く突き刺さる。

 更に全身の鎧が無数の杭となり志臥へ突き刺さった。


「ぐおおおぉうう」


「関節を全て貫いた。もう動けん」


 三半規管がやられたのだろう。よろよろと歩きながら番場さんは近づいてくる。


「こちら番場。志臥の拘束に成功」


『……言いたいことは山ほどあるが、それは後だ。よくやった』


 早く眷属にしろ。上層部からの指示を聞いたはずなのに、番場さんは動かない。


「番場さん?」


 バシャリと水音が響くと、志臥を貫いていた血の杭が水溜まりを作る。


「番場さん!」


 片膝を付き、荒い呼吸を繰り返す番場さんの顔は、土気色をしていた。


「情けない。俺の方が保たんとはな」


「流石に俺も焦ったぜ」


 動く度にあちこちから血を吹き出しつつも、志臥が立ち上がる。


「お前、ただのヴァンパイアじゃねぇな」


「それは、お互い様だろう?人狼がヴァンパイアを食べるなんて聞いたことない」


「あ?人間より高カロリーなんだから、普通に食うぞ。俺達は」


 知らなかった。得体の知れない恐怖を与えた志臥の行動は、人狼としては当たり前だったなんて。


「でも、感染が」


「死んだヴァンパイアに、眷属化させる能力は無ぇ。死体は余すことなく食料だ」


「人間とは違い、人狼には耐性があるのか」


 番場さんもまさかの告白に目を見開く。俺は組織で人間がヴァンパイアに感染する方法を聞いていたから、人狼も同じだと思い込んでいた。


「俺を捕まえるために精鋭を寄越したんだろ?なら、俺の仕事は終いだ」


 変身を解き、タバコを吸い始める志臥。

 緊張感の霧散した影響か、俺も変身が解けてしまう。


「仕事って何の話だ?」


「さっきも言ったが、利害関係の一致だ。お前らの戦力を削ぐ。代わりにボウズへ手出しさせない」


 志臥が組織を襲ったのは、俺が原因?


「もう、我々を襲うつもりは無いと?」


「ああ。用心しろよ?雇い主が動き出すぜ」


 戦力が大幅に低下した状況で、ヴァンパイアが攻勢に出る。

 志臥の情報がどこまで正しいのかは不明だが、備えなければならない。


「にしても、自分から犬になろうとするのは意外だったぜ。覚悟は立派なもんだ」


 ニヤリと笑う志臥の視線が、俺を射抜く。

 結果を見れば、俺は眷属になっていないし志臥も無事で、もう暴れないという。

 ヴァンパイアの動きは気になる。

 納得できるわけじゃない。それでも、これ以上被害が増えないなら最悪の結末ではない。


「だが、こっちの世界を知らねぇのに決断するのは、いただけねぇ」


「は?」


「おい、ヴァンパイア。頑張って居場所を守ってやれよ?」


「どういうつもりだ?」


 番場さんの答えを待たず、志臥の姿がブレたかと思えば、奴は目の前に立っていた。


「コイツを暫く借りるぜ」


 鈍い衝撃と共に、俺の視界は暗転した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。