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27.公爵と二人でカフェ

 ルチアとフィデスは本屋を出てカフェに向かった。

 道すがら女性たちが振り向いたり立ち止まったりしてフィデスを見ていた。

 ルチアは自分の姿を想像して釣り合いが取れないと思い、恥ずかしくなってフィデスの三歩後をずっと俯いて歩いた。

 カフェが見えてくるとフィデスが振り返りルチアを待った。ルチアがそのまま立ち止まるとフィデスはルチアに手を伸ばした。

 ルチアは自分のような平民が公爵という立場の人の手を取ってもいいのだろうかと悩んだ。

 なかなか手を取ろうとしないルチアを見て公爵は謝った。


「すまない。いつもの貴族のマナーが出てしまった。普通は女性が簡単に男性の手を取るなんてできないものだな」


 フィデスは微笑んでルチアの隣に立って並んでカフェに入った。

 今日はあまり混んでいなかった。


「いらっしゃいませ!…やあ、ルチア、久しぶりだね。今日はニナと一緒じゃないんだね」


 ペルデルはルチアに微笑みかけるとチラリとフィデスを見た。


「ちょうど良かったよ。新しい試作品のスイーツ食べて感想聞かせて。奥の席空いてるからどうぞ」


 ペルデルはルチアの手を引いて奥の席に案内した。

 ルチアは少し戸惑いながら案内された席に座った。

 フィデスは簡単に手を取ったペルデルを少しの間呆然と見つめた。ふと我に返ったフィデスはテーブルを挟んだルチアの前の席に座った。


「ご注文は?」


 ペルデルはフィデスに営業の顔ですまして言った。


「アッサムティーで」


 フィデスが答えるとペルデルは繰り返して言って注文を控えた。注文を控えるとペルデルはルチアの方を向いて満面の笑みで言った。


「ルチアは?何飲む?試作品には東洋から仕入れた緑茶が合うんだけど飲んでみない?」


「あ、じゃあそれで」


 ルチアが答えるとペルデルは嬉しそうに頷いて、厨房に下がった。


「…オーナーと親しいのか?」


 フィデスが眉を寄せて言った。


「…ニナに連れられてちょこちょこ来ているので…ニナがお調子者なのは公爵様もご存じだと思うのですが、ここでも本領発揮して…それでオーナーとも親しくなったというか…よく話すようになりました」


 ルチアはフィデスと視線を合わさないように俯いて言った。


「そうか……ルチア、わたしは諦めないと言ったことを覚えているだろうか?」


 フィデスの声が弱々しく聞こえたルチアは顔を上げてフィデスを見た。

 フィデスは憂いを帯びた瞳でルチアを見つめていた。


「わたしはどうしたら君の気持ちを変えることができるだろうか?」


 フィデスは手を伸ばし、テーブルの上に置かれていたルチアの手を握ろうとした。


「はーい、お待たせしました!」


 ペルデルが品物を持って来てテーブルの上に置き、フィデスの手を遮った。


「アッサムティーです」


 そう言ってペルデルはフィデスの前に置いた。


「…油断も隙もない…」


 ペルデルはボソッと言って冷たい視線をフィデスに向けた。


「はい、ルチア。これが試作品のスイーツ。東洋でよく使われているあんこをシフォンケーキで挟んでハチミツたっぷりをかけたものだよ。これが緑茶。食べて、食べて」


 そう言うとペルデルはルチアの隣に座った。

 フィデスは怪訝そうな顔をした。


「後で感想を言うからペルデルは仕事に戻っていいわよ」


 ルチアはいつも以上にペルデルが絡んでくるので内心煩わしいなと思った。


「えー、すぐに聞きたいけど?今日は混んでないから大丈夫」


 ペルデルはルチアの束ねた髪を指で絡めた。

 フィデスが顔を歪めて何か言おうとしたが、口を一文字に締めて横を向いた。

 ペルデルはフィデスのその姿を面白がって言った。


「どこぞのお偉いお貴族様か知らないけど、いくら平民だからって簡単に手を出していい相手じゃないよ、ルチアは」


 ルチアは我慢の限界がきて立ち上がった。


「ペルデル!公爵様はそんな人ではないわ!あなたこそ何なのさっきから!わたしたちってそんなに親密な関係だった?」


「……ごめん、怒らないでルチア。ただちょっと…ルチアが男性と二人きりで来たものだから…本当にごめん。ゆっくりしていって」


 ペルデルはそう言って厨房に下がった。


「すみません、公爵様。ご気分を害されたでしょう。もう出ますか?」


「…いや、まだ食べてないだろう。全部食べてからで大丈夫だ」


 フィデスは苦笑いをして、お茶を飲んだ。ルチアはフィデスの顔がいつもの覇気がないことに気を揉んだ。


「公爵様……本当にごめんなさい」


 フィデスはルチアが辛そうな顔をしていることに気づき、慌てて言った。


「謝らなくていい。ルチアのせいじゃない。ただ君が…その、他の男に触られていてもわたしには何も言う資格がないことに落ち込んだだけだから」


 フィデスはまた苦笑いしながら、お茶を飲んだ。

 ルチアはフィデスが今言った言葉の意味をあれこれ考えたがよくわからなかった。

 それよりもペルデルが邪魔する前にフィデスが言った言葉だ。ルチアはもう一度言ったもらえないかと思った。今なら前向きに考えたいと返事ができるのに。


 結局リベルを引き取りたいという話は出てこないまま、ルチアとフィデスは別れた。

 ルチアは乗合馬車に揺られながら大きくため息をついた。

 しばらくすると馬車の馬とは違う蹄の音が辺りに響いた。一頭や二頭の話ではない。

 馬車は急停車した。

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