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 いつの間にか手の中にあった和綴じの本が二冊。何だろう、と小首を傾げた瞬間、ぶわりと焔を噴き上じた。

 熱さはないが、二つの炎は瞬く間に渦を巻き、絡み合いながら高く高く昇っていく。本自体は燃え尽きるこくなく、右と左で、異なる二つの画面をこちらに見せつける。


 出会っても。

 出会わなくとも。


 結局。闇衛は滅亡するのだと。大事な人々は喪われるのだと。


 出会いことすら(すべて)、無意味なのだと言わんばかりに。

 ひたり、と胸を侵した絶望の波を、吹きつけてきた清冽な風が吹き散らした。あ、と目を瞠った()()()()()()空里が飛び込んできた。

「見つけた、早桜」

 風斗は穏やかに微笑んだ。

 引き寄せられて、強く抱きしめられた。幻ではなく、実体(ほんもの)だ。

「空里、」

 いつの間にか本は消えていたが、動かした視線で、気が付いたのだろう。分かっている(同じものを見た)、と頷いた視線は揺るがない。

「私たち、何のために・・・っ」

 言いかけた唇に、人差し指が置かれて、言葉を封じた。

「行こう、風織姫。」

 風斗の言葉はとても明快だった。

「俺たちが()()()あるときは、始まったばかりだ。何も定まってはいない。」

「----風斗、」

 何が正しくて、どうすればいいのかなど分からない。誰かを傷つけて、夢のままに、すべてが喪われるのかも知れない----けれど。

「----あなたと、」

 手を伸ばして頬に触れる。殆ど零に近い距離での囁き。二つの炎の螺旋は絡み合い、二人を飲み込むように、一つの新しい炎となった。まるで紅蓮の竜のように天へと吹き上がり、明けの薄光を帯び始めた東へ、ひたかみの空に向かって駆け始めた。

 瑞兆なのか。終焉への嚆矢か。

 目を瞠って夜空を見つめる人々の、様々な想いをも乗せて、風が奔る。風は渡る。

 

 ひたかみのさきへ。


 出会った理由を見つけるときが、始まる。

 

  ※

  ※

  ※


「今国解の文を抄し、衆口の話を拾いて、一巻に記せり。小生ただ千里の外なるをもて、定めて紕繆多からむ。実を知れる者正さむのみ。」『陸奥話記』


現代語訳

 私は、公文書の記録や人々の話を聞いて、陸奥の争乱の記録をまとめた。しかし、千里も先の遠き場所で起きたことであり、京では(どう努めても)知る(調べられる)ことに限りがあって、恐らくは間違いや伝わっていないことも多いに違いない。どうか、真実を知る者があれば、正してほしいと思っている。

お読みいただきありがとうございました。『醒めない夢が覚めた涯て』については、これで完結です。


景季と風斗の決着は!? とか、経清の預名方問題とか、ここでは解決できない当然あるのですが、「風斗と風織姫」の物語としては、ひとまず(希望を預けて)の終着点です。



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