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駆け引き

 これは戦国時代のとある場所、とある時の、あったかもしれないしなかったかもしれない話である。


「のぅ、金柑」


 それとなく呼んでくる主君に対して光秀は、何かと質問を待った。


「お前は儂のことが好きなのか?」


 げほっと光秀はせき込んだ。

 突然、何という質問をするのだろう。

 何か裏があるのではと疑ってしまう。


「な、何を突然言い出すのです」


 顔を真っ赤にしながら光秀はちらりと信長の表情を確認する。何を考えているか読めない。

 この男の考えていることがわかる者など滅多にいないであろう。


「いや、何……お前のような良い男が儂の為に尽くしてくれて、ちょっとは儂のことが好きなのかなって思って」


 今や天下に最も近い男から良い男と呼ばれ悪い気分にはならないだろう。だが、本意がわからず光秀は素直に受け取れなかった。

 何故光秀が信長に尽くそうとするのか。


「それは信長さまこそ、天下泰平を達成させられると思い」


 少し前まで将軍・足利義昭に仕えていたが、今は改めて信長に仕えることとなった。それから光秀は信長の元で着々と地盤を固めていっている。

 これ以上にない程の躍進の機会を与えてくれている信長の期待に応えようと無理をした部分もあるが、こうして評価されると嬉しいものである。

 今では彼こそ天下を平らげることができると信じている。


「儂が欲しいのはそういうのじゃない」


 ばしっと信長は光秀の言葉を途中で切った。

 では何を求めているのかとわからなくなってしまう。

 信長は光秀の言いたいことが顔に出ていると言わんばかりに口の端を釣り上げた。


「お前が儂を好きか嫌いか、それを知りたいだけだ」


 本当にそんな単純な質問なのだろうか。


 何でそんなことを知りたがるのだろうか。

 私を試しているのだろうか。


 主君が家臣の忠義ではなく好悪の感情をここまでしつこく聞いていることは経験にない。


 ようやく光秀の脳裏に一人の人物が思い浮かんで来た。

 そういえば、信長は御母堂との関係が微妙である。

 御母堂は信長の弟・信勝を溺愛し、織田家当主にしたがっていたという噂は美濃にいた頃から聞いたことがある。

 幼い頃より母と葛藤していた者は人並以上に他者の感情に敏感になりやすい。


 もしかして声に出して言わないと不安とか。

 本当にただ好きという言葉が聞きたいのではないか。


 自分の過去を振り返る。

 父親代わりに面倒をみてくれていたかつての主君(斎藤道三)に好意を向けられて素直に嬉しいと感じた。

 別に言ってしまってもいいだろう。

 何もやましいことを考えているわけではないのですから。


「好きです」


 光秀はようやく今まで躊躇していた言葉を口にした。


「私、明智光秀は信長さまのことが好きです。お慕いし」


 にゃーとまたしても光秀の言葉が遮られる。

 改めて信長の方をみると信長は愛猫のからまるを愛でてすっかり光秀を放置していた。


 聞いて!


 ようやく口にした人の告白を。


(終わり)

信長「だって、金柑、反応が遅いんだもん」



そんな感じのBLぐだぐだ小説をマイペースに綴っていきます。話の都合上、史実と異なる部分が多いです。時系列も死んでいます。今回はだいたい1574年あたりをイメージしていますが・・・

それでもよろしければお付き合いしていただければ幸いです。

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