入学式パーティー6(アルフォンス視点)
ダンスの誘いを断ることなく受けていれば、吾の人気は自然と上がっていくだろう。
自国でないのが残念だが、この国での評価は我が国に帰った時に影響することとなる。
ベリランブルはもう会場から出て行ったようだし、この国の王子も何人か既に会場にはいないようだ。
気配を探ってみると、残っている王子はゼシュティア殿だけのようだ。
ふん、流石は第一王子と言う所か。
王位継承権も今の所、ゼシュティア殿が第一位で確定しているようなものだと聞くし、吾も国王の座を狙う者として、仲を深めておいて損はないだろう。
義務のようにダンスの申し込みを受けているゼシュティア殿だが、流石は第一王子、ダンスのスキルは素晴らしいものがある。
「アルフォンス様、どうかなさいましたか?」
「ああ、申し訳ない。少々考え事をしてしまったようだ。それにしても、君はダンスが上手だな」
「そうでしょうか? 褒めていただけて嬉しいです」
ちょっと褒めれば顔を赤くするのは、メレディスには期待できない反応だな。
……メレディスは吾に対して甘いのか厳しいのか、未だに判断が付かない。
毒を吐かれることも多いが、それだけメレディスが吾に対して気を許しているという証だと思えば可愛いものだ。
実際、メレディスとの距離感は心地いいものがある。
他者では味わえない駆け引きと言えばいいのか、とにかくメレディスは吾の中では特別な存在だ。
無理に吾の内面を知ろうとしないくせに、メレディスは気を使い引くべき時はきちんと引いてくれる。
時にずばりと吾の行動を指摘し、考えている事がわかっているのではないかと思える時すらある。
他人の心の中が読めれば、どれほど便利だろうと思うのだが、生憎そのような魔法は発見されていない。
他人を操る魔法はあるのに、心を覗くことが出来る魔法がないと言うのは、些か納得いかない。
もっとも、他人を操る魔法など、相当高位の魔導士でなければ行使できないがな。
それに、そう言った魔法には向き不向きと言うものがある。
吾は生憎そう言った方面の魔法には適性が薄い。
王族として、王位を狙う者としてどうかとは思うが、メレディス曰く、立っているだけで偉そうらしいから、問題はないだろう。
まったく、メレディスは吾に容赦がないな。
「アルフォンス様、なんだか楽しそうですね」
「そう見えるか? そうか、そうなのかもしれないな」
「何かいい事を思い出されたんですか?」
「どちらかといえば、失礼な思い出かもしれないぞ」
「そんな、アルフォンス様にそんな態度を取る方なんて居るんですか?」
「ああ、居るとも」
お前達が尊敬しているメレディスがな。
まったく、メレディスは入寮してそれほど時間が経っていないと言うのに、女生徒の憧れの的になっているとも聞く。
魔性の天然人タラシとはメレディスの事を言うのかもしれない。
あのベリランブルもメレディスの事を特別視している。
ふん、あいつも母親を目の前で失ったぐらいで腑抜けになったものだ。
あいつの母親の身内が、吾に対して差し向けてきた刺客の数を教えてやりたいものだな。
最大の敵は身内にあるとは、よく言うものだ。
自分はつい最近まで母親に守られて、何も知らないような顔をしているのも気に入らない。
まるで巻き込まれた被害者のような顔。
被害者は、刺客を送り込まれている吾の方だと言うのに、ベリランブルは自分に都合のいい事しか見えていない。
ちょうど曲が途切れ、踊っていた令嬢が礼をして離れて行く。
すぐに次の令嬢が近づいてくる気配がしたが、それにあえて気が付かないふりをしてダンススペースから離れる。
メレディスが連れていかれたのは会場の外、それであるのなら、飾りつけがされている庭園あたりだろう。
まあ、吾がわざわざ顔を出しに行くこともあるまい。
行ったところで、あの婚約者といちゃついているのを見せつけられるだけだ。
他人がいちゃついているのを見る趣味はない。
ため息をこっそりと吐き出して、講堂の壁の部分、人の目があまり届かないところから会場を見渡す。
普段人当たりをよくするように心がけているせいもあって、吾のこの学園での評判はそれなりに良い。
だから勘違いする愚か者も出てくる。
吾に取り入っておけば、卒業後は我に取り立ててもらえる、あわよくば婚約者になれる、そう考えている者もいるのだ。
吾には本国に婚約者候補がいる。
もっとも、その者は王妃候補であり、正確には吾の正式な婚約者候補というわけではない。
この国だってそうだ。
昨年まで学園に通っていた公爵家の令嬢、彼女は確かにこの国の王妃候補として育てられているだけの事はあり、素晴らしい令嬢だった。
本国の王妃候補にはしばらく会っていないが、元気だろうか?
政略的抗争とはまた別な所で、あの娘も難しい立場にある。
あくまでも王妃候補だ、彼女の足を引っ張ろうとしている令嬢は山のように居る。
この国も恐らくは同じだろうが、あの令嬢ならそんなものは気にせず自分の道を突き進むだろう。
……吾がこうしてのんきに過ごしている間にも、本国では政治的抗争が続いている。
あのまま本国にいても無駄に影武者を犠牲にするばかりだっただろうし、父上の判断は正しいのだろう。
ベリランブルと一緒にと言う所も、息子たちを平等に扱うと言う父上らしい考え方だ。
だが、学園を卒業すれば吾等は本国に戻ることになっている。
それまでに国内の政略的抗争は静まっていると父上は言っていたが、本当だろうか?
ベリランブルの母親、いや、本来ならベリランブルを狙った事故だって未だに解決していないと聞いている。
どうせ吾の派閥の者が手配したのだろうが、迷惑な話だ。
ふと、視界の端にあの無礼な男爵令嬢の姿が見えた。
警備員から解放されたのだろうか。
パーティーの間ずっと拘束しないと言うのは、対処が甘いとは思うが、あの男爵令嬢も新入生、浮かれていたと警備員を説得したのなら、厳重注意と減点で済むかもしれない。
吾は一度しか遭遇していないが、他の王子やシルバーンは数度絡まれたと正式に女子寮及び学園に苦情を入れているそうだから、あの男爵令嬢にも近いうちに正式に罰が下されるだろう。
身分制度のしっかりしているこの学園に通っている以上、男爵令嬢が吾等のような王族や高位貴族に接触するなど、言語道断なのだが、話に聞けばつい最近まで平民だったと聞くし、貴族になったことで浮かれているのかもしれないな。
まあ、吾に関わらないでいてくれるのならそれで構わない。




