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入学式パーティー5(シルバーン視点)

「メレディスが居なくてつまんないから、ボクはもうバイバーイ」


 その言葉がきっかけだったのだろう。

 バラバラと王子様方が散らばっていくのを見送ってから、深く吐き出したくなる息をグッと我慢する。

 入学式パーティーに王子様方が全員ちゃんと始まりから出席しているだけましだと、そう思考を切り替える。

 昨年はダンバート様が入学パーティーなんて気分が悪くなりそうだと言って欠席したし、ベリランブル様はアルフォンス様と顔を会わせたくないと言って欠席していた。

 今年、王子様方が全員参加したのはメレディス様の効果だろう。

 お茶会なども、メレディス様が出席する時は王子様方もちゃんと出席している。

 本人は気が付いていないようだが、メレディス様はわたしもだが、王子様方にとって重要なポジションにあるのだろう。

 この学園に入るにあたり、メレディス様にはこの国の王子と隣国の王子はそれぞれ癖があるから、気苦労が多いだろうと言われたが、まさにその通りだった。

 先輩としてすでに入学していたゼシュティア様の対処にも困ったが、同時に入学したダンバート様にも手を焼いた。

 すぐに体調を崩すダンバート様には特例として侍従をつけるべきかと、何度進言しようか迷ったぐらいだ。

 もっとも、今思えば進言しても、ダンバート様はああ見えて頑固なところがあるから、侍従の付き添いなど受け付けなかっただろう。

 アルフォンス様は一見人当たりはいいが、簡単に人に心を許すような人じゃないと言われていた通りだったし、ベリランブル様はあからさまにこちらを拒絶する空気を漂わせていた。

 正直、爵位の関係上王子様方の相手をする事が多くなったわたしは、メレディス様の言うような適度な息抜きをしなければ、今頃同級生だけでなく上級生にも下級生にもきつく当たるような、そんな余裕のない人間だっただろう。

 兄のように完璧になるには、程よい息抜きも必要だと、そう何度も言われ、兄を亡くしてから失意の中にあったわたしを奮い立たせてくれたのはメレディス様だった。

 兄の事を知っているメレディス様は、兄の姿を追いかけるわたしを静観していた。

 ただ、完璧を求めるのなら息抜きをしろと、そう言っただけだ。

 だが、それがどれほどわたしにとってありがたかったのか、メレディス様はわからないだろう。

 兄のようにはなれない、兄ほど優秀にはなれない、そう無言で伝えてくるような父のプレッシャーを感じる中、否定されないという事はありがたかった。


「シルバーン様、今お時間よろしいですか?」

「おや、なんでしょうか?」

「よろしければ、私と踊ってもらえませんか?」


 その言葉に、わたしはにこりと微笑みを浮かべる。


「いいですよ」

「本当ですか、ありがとうございます」


 ほっとしたような笑みを浮かべる令嬢に、心の中で所詮わたしの爵位と外見しか見ていないくせにと、あざ笑いたい気分になる。

 確かこの令嬢も、わたしの婚約者になりたいと釣り書きを家に送ってきた中の一人だったはずだ。

 兄の死後、公爵家を継ぐことが決まったわたしには、この令嬢のように婚約を申し込んでくる家は多い。

 けれども、その中の何人がメレディス様のように、わたしという存在を見てくれているのだろうか?

 それでも、わたしは完璧な公爵子息としてふるまわなければいけない、そう、兄のように完璧に。

 そういえば、あの無礼な男爵令嬢は、自分ならばわたしの心に寄り添うことが出来ると言っていたが、あんな娘に何が出来ると言うのだろうか。

 言うだけなら簡単だ。

 あんな男爵令嬢如きがわたしの何を知ることが出来ると言うのだろうか。

 ミッシェル殿には悪いが、メレディス様がわたしの婚約者であったのならと何度夢想しただろう。

 しかしながら、現実ではメレディス様とミッシェル殿の婚約者としての仲の良さは有名なものがあり、それが偽りではないことは目の前で何度も見せつけられてきた。

 わたしへ向けられる視線と、ミッシェル殿に向けられる視線は明らかに種類が違う。

 メレディス様は心の底からミッシェル殿を愛しているのだろう。


「では、行きましょうか」

「はい」


 微笑んで手を差し出せば、その手の上にそっと手を重ねられるので、そのままダンスの輪までエスコートしていく。

 近づいていくと聞こえてくる音楽はワルツ。

 踊っているのは高位貴族の面々だけで、下位貴族の生徒はそれを遠巻きに眺めている。

 数年前までは身分に捕らわれないと言う校風だったらしいが、高位貴族が下位貴族と付き合いを深めてどうしろと言うのだろうか。

 一時的な実験だったとはいえ、身分に関しては学生のうちからしっかりと身に着けるべきだ。

 そもそも、学園に入るまではしっかりと身分制度を守っているのだから、学生の間だけ身分を気にしないなど、都合がいい話だ。


「シルバーン様と踊れるなんて、夢のようです」

「そう言っていただけると嬉しいですよ」


 ダンスの輪に混ざって手を取ってステップを踏み始める。

 相手の令嬢のダンスのスキルは中々の物だ、わたしをダンスに誘うだけある。

 わたしの婚約者になるのなら、完璧な令嬢でなければ納得することは出来ない。

 例えば、メレディス様のような完璧な……。

 はっ、参ったな、望むものは既に手に入らない場所に居る。

 それでもこうして思ってしまうのは、わたしが完璧じゃないからだろう。

 踊っていると、ダンスの輪の中にアルフォンス様の姿が見えた。

 人当たりのいい彼の事だ、ダンスの申し込みがあれば断るという事はあまりないだろう。

 隣国の王子と言う、それこそ一時的な夢に酔う令嬢は多い。

 我が国の王子様方がああだから、人当たりのいいアルフォンス様は余計に理想の王子に見えるのかもしれない。

 そういえば、アルフォンス様もメレディス様と親しい。

 なんだかんだ言って、メレディス様が毒を吐くのは、アルフォンス様に対する物が多い。

 それだけ親しい証拠なのだろう。

 メレディス様がわたしに毒を吐くようなことは今までないし、今後も無いと思う。

 その事が少し寂しいと思うのは、贅沢な思いなのだろうな。

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