入学式パーティー4
軽食を食べ終わってしまうと、後は本格的に自由時間となる。
講堂の中央付近では魔法による音楽に合わせて何組もの人々がダンスを踊っているのでそれに混ざるのもいいかもしれない。
どうしようかと考えていると、ミッシェル様が手を取ってくれて、促されるように立ち上がるとそのまま講堂を後にした。
どこに行くのだろうと、手を引かれるままについていくと、飾りつけはされているものの、人気のない庭園だった。
「まったく、僕の婚約者は人気者だ」
「そうでしょうか?」
首を傾げていると、ミッシェル様が魔法を発動する際に使用する羽ペンを取り出して振ると、どこからともなく音楽が流れだしてくる。
「お手をどうぞ、お姫様」
「ふふ、よろこんで」
差し出された手にわたくしの手を重ねると、そのまま体を引かれて腰に手を添えられる。
どちらからともなく自然に足が動き、二人きりのダンスが始まった。
何度も二人で踊ったことはあるけれども、やはり特別な空間で二人きりでダンスをすると言うのは特別に思えるのか、いつもよりも足取りが軽くなってしまうように思える。
流れてくる音楽もその事を察したように軽快なものへと変わっていき、ステップも軽やかなものへと変わっていく。
体をこれでもかと言うほど近づけている為、お互いの体温が伝わってくるようで、ドキドキと心臓が高鳴ってしまう。
乙女ゲームのイベントでは、パーティーという事もあって特別にドレスを着て参加していたけれども、身分制度がしっかりしている代わりに、パーティーなどの式典の時にも制服を着用して参加する事に校則が変わっている為、制服でダンスを踊っているが、この学園の制服自体がドレスのようなものなので違和感はない。
無言で踊り続ける事数分、ダンスの数曲で息が上がるほど軟弱には出来ていないので、このままずっと踊っていたい気分になるけれども、曲は静かに消えて行って、それに合わせてステップも止まる。
手を離して礼をしてから、再び手を引かれて庭園のベンチに一緒に座る。
こんなにも美しく飾り付けられているのに、誰も訪れないのは寂しいものがあるので、ミッシェル様と一緒に来ることが出来て良かった。
左手を持たれて嵌めていた手袋を取られると、薬指の外側と内側にキスを落とされて、ペロリと舌を這わされる。
「ミッシェル様、その……恥ずかしいですわ」
「メレディスにそんな顔をさせることが出来るのは、僕だけだよね?」
「当たり前ですわ」
「ならいいんだ。メレディスがどんなに人気者でも、僕の婚約者だよね」
「そんなことを心配なさっていますの? わたくしはミッシェル様の事だけを愛しておりますわ」
「うん、ありがとう」
そう言ったミッシェル様が左手の手首にキスマークを残す。
手袋をしてしまえば隠れてしまう位置だけれども、跡を残すなんて珍しいと思う。
「僕のメレディスなのに、こんなに人気者で、僕の理性が持つかな?」
「ミッシェル様がわたくしを愛し続けていて下されば、それでよいではありませんか。わたくしだってミッシェル様を愛しておりますわ」
「そうだね、それが何より大切だね。ああ、僕の愛しいメレディス。君が万が一他の男を、いいや男でなくても他の者にその愛を向けるのなら、僕は狂ってしまうかもしれないよ」
「それは困りますわね。でも大丈夫ですわ、わたくしがミッシェル様以外を愛するなんてありませんもの」
わたくしが自信満々の笑みでそう言うと、ミッシェル様は安心したように微笑んで、わたくしの頬に手を伸ばすと、そのまま顔を近づけてキスをしてくる。
もちろん、抵抗することなく受け入れると、何度も音を立てたバードキスがされる。
「メレディス、口、開けて?」
言われるままに軽く口を開けると、そっと舌が差し込まれて口内を舐め上げられ、舌を絡められる。
こうしたディープキスをされることは滅多にないので、わたくしはすぐに息切れをしてしまう。
前世の体験と知識はあるけれども、この体ではまだこういった行為には慣れていないのだ。
「はふっ」
「まだ慣れないね」
「申し訳ありません」
「怒ってないよ。初心なメレディスを楽しめるのは今だけだろうし、こんな姿を見ることが出来て純粋に嬉しいよ」
「ミッシェル様」
「ほら、もう一度」
「はい」
目を閉じてキスされるのを待っているけれども、おりてこない唇に不思議に思って目をそっと開くと、厳しい視線をわたくしの背後に向けたミッシェル様が居た。
「ミッシェル様?」
「ん? ああ、ごめんね」
そう言って、「ちゅ」と軽くキスをしてくれたミッシェル様はまるでわたくしの事を守るように抱き上げて膝の上に横向きに乗せて抱きしめてくる。
「どうかなさいまして?」
「折角の二人の時間を邪魔されたくないだけだよ」
「そうですか」
ミッシェル様の言っていることはわからないが、さらに縮まった距離に、心臓がさらに高鳴ってしまう。
そっとミッシェル様の首に腕を回して密着度を上げると、ミッシェル様の首元に顔をうずめる。
「メレディス?」
「落ちてしまったら困りますでしょう?」
「……ふっ、そうだね」
顔を赤くしているであろうわたくしの耳にキスをしたミッシェル様は、わたくしに聞こえるような小さな声で「愛してる」と言う。
甘ったるい声に、コクリと頷いて、わたくしはさらにきつくミッシェル様に抱き着いた。




