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4.邪魔させません


「陛下」


アリシアが平然とした顔の裏で、悩みを一人で解決していると、今度は王の側近がさっと主の横に立つ。

そして、王の耳に何かを囁いている。

何かあったらしい。


「ああ。許可する」


王が頷けば、側近が下へと合図を送る。

すると、一階のホールから二階へと続く階段を上ってくる誰かが見えた。

黒髪で赤い瞳、すらりとした手足――。


(あ……)


庭でエヴァンと間違えた人物と特徴が似ている。

というか、本人だ。


やはり、あの時の見立て通り、その青年は顔が整っている。

しかも、そんじょそこらでお目に掛かれないようなイケメンだ。

さぞ、令嬢達にこぞってダンスを誘われただろう。


「久しぶりでございます。オリハルト王」


そう言った声も、挨拶の形も完璧と言うに等しい所作だった。


「ああ。隣国の王子。留学は順調か?」

「はい。オリハルト王のご配慮に感謝いたします」

「そうか」


王はそこで言葉を切り上げて、虚空を見上げた。

会話は、終わりという合図だ。


それを察したのか、隣国の王子はまた、完璧な所作で挨拶をする。


「話をするお時間をいただき、ありがとうございます」


そう言って踵を帰すと思っていた王子は「それと」と言葉を付け足す。


「王女様をダンスにお誘いしてもよろしいでしょうか?」

「え……?」


自然と出てしまった困惑した声に、アリシアは口を塞いだ。

そんな彼女に王子は、顔を向け微笑む。


(うわー目元のホクロがセクシー……って、そうじゃない!!)


逃避しようとしたところを、現実に戻す。

断って欲しいというように縋るように王を見詰める。


ちらっとこちらを見た王が、軽く頷く。


「良いだろう」


アリシアの願いは、どうやら王には届かなかったらしい。

無意識に顔を引きつらせたアリシアに、彼女を見ていた王子はくすりと笑う。


「王女様」


そう言って近づいて手を差し伸べられれば、アリシアは断れなかった。

王が許可をした相手だ。

しかも、隣国の王子なわけで――。

国を思うならば、差し出された手をとるより他はない。


(今日は、踊らないって決めていたのに! しかも、エヴァンにダンスの断りを入れていたの聞こえてたはずでしょ! この鬼!!)


内心毒づきながら、男らしい筋張った手に手を重ねて、アリシアは立ち上がった。

王子にエスコートされながら、一階に続く階段を降りていく。


数十人の好奇の目が向けられていることに、気づかないことは難しい。

ちょうど、音楽は途切れており、楽団の視線もこちらを向いている。


自然と道ができ、ホールの中央で歩みを止めた。

そして、ダンスの構えをとると、楽団の指揮者が合図を送った。

はじまる音楽に、王子にリードされるまま、アリシアは踊りはじめる。


「王子様」

「良ければ、クロードとお呼びください」

「クロード王子」

「はい。何でしょうか?」

「何故、私と踊ろうと思ったのですか?」

「庭でお会いした時、踊りたいと思いました。――いわば、一目惚れというものでしょうか」

「そうなのですか? 何かの勘違いでは?」


目の高さ、王子――クロード王子の胸元を見ていたアリシアが顔を上げれば、クロード王子と目が合う。

さぞかしモテるであろう、顔立ちをしている。


(選びたい放題でしょうに……。それに……)


それに、笑顔が胡散臭い。

というより、この状況を楽しんでいるように見える。

愛している。というより、面白いと瞳に書かれているように見えた。


(あなたのおもちゃになるつもりはないんだから!)


警戒する眼差しを送れば、くすりとクロード王子が一つ笑って、踊っているというのに器用に肩を竦めた。


「勘違いでもなんでもありません」


そう言ってアリシアの耳元に顔を近づけてから、


「――あなたの男性を振る姿を見て、本当に一目惚れしたのです」


と囁いた。

クロード王子の言葉が終わるころ、曲がちょうど終わる。

アリシアは、スッと目の前の彼から少し離れて、好戦的な笑みを浮かべた。


「お断りします」


それに少し固まっていたクロード王子は、くすくすと笑いだす。


(今度は何?)


どこからでも掛かってきなさい。

絶対、お断りなのだから。

と心の中で呟きながら、握られている手を取り返そうとするが、どうにも取り返せない。


やきもきしていると、笑いが終わったクロード王子がアリシアの手を持ち上げる。


「何度断られても、告白しますよ。アリシア王女様」


そう言って、アリシアの手の甲にキスをした。


ざわついている周囲に気が付いたアリシアは、無理矢理手を奪い返す。

そして、熱心に心の中で誓うのだ。



――ほのぼの計画を邪魔させない!!


と。


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