3.期待しません
王族の皆が揃い、自席の前へ立つ。
すると、舞踏会場のホールから次々と口上が述べられる。
「輝かしき、オリハルト王国に栄光あれ!」と。
それに王が、
「栄光あれ」
と言えば、王族の皆が席に座ることができるのだった。
王が席に座ったのを見届けてから、座るのが暗黙のルールだったので、それを見計らいアリシアは席に座った。
すると、楽団が音楽を弾きはじめる。
「……」
下のホールは賑わっているというのに、王族の二階席は、シーンと静かだ。
誰も談笑する気配がない。
(この空間、いたたまれないわ……)
普通だと思っていたことが、こんなにも異様だと思う日が来るなんて……。
アリシアは、小さく首を横に振る。
(めげちゃダメよ! こういう時こそ、ほのぼのするにはどうすれば良いか考えないと!)
謂わば、それを通常暇つぶしと言う。
貴族達が楽しそうに踊ったり、歓談している姿を目に映しながら考える。
(ほのぼのって言ったら、やっぱり、この城から脱出することかしら?)
そして、ハーブなどを栽培する農家になるのも良い。
もちろん、農家がほのぼの出来るかと言えば、現実問題はそうではないかもしれないが。
この王城にいるよりも、成果も観れるし達成感もあるし、身分を隠していれば友達という存在もできるのではないのか。
そんなことを考えていると、自然と笑みがこぼれる。
(ん?)
ふと視線を感じてそちらを見れば、エヴァンと目が合う。
最初に目を逸らしたのは、アリシアだった。
(なんで、こっちを見ていたんだろう? ……まあ、偶然よね?)
それにしても、とアリシアは思う。
この王族席は、本当に冷めきっているな。と。
(私もその一員だったわけね)
いや。一因という事になるだろうか。
好きの反対は、無関心。
とよく言ったもので、自分もそれに当てはまっていたのだとポツリと思う。
先ほどの第四王子の反応は可愛かった。
でも、それを過去、逃していた自分が惜しいと思える。
第四王子には、自分がどういう風に映っているのだろう?
この家族は、どういう風に思っているのだろう?
冷たい姉上?
冷たい家族?
会話をしたことがないから、わからない。
それに、他の王子達は?
どう思っているのだろう?
疑問が降り積もっていく。
(王子達は、寂しくないのかしら?)
聞いてみないとわからない。
けれど、それが安易なことではないことをアリシアは知っている。
母親達の仲が険悪なのだ。
それもそうだろう。
夫は一人。なのに、妻は五人。
平民出の母親は、何も思っていないようだが、貴族出の王妃や隣国の王女だった第二王子と第三王子のの側妃達。
商人で大富豪になり、爵位を買った第四王子の側妃にはプライドが邪魔をするのだろう。
水面下で、争いが起きていることが肌からひしひしと伝わってくる。
だが一つ救いなのは、平民出の自身の母は、他の妃達の眼中にない。ということだ。
だから、母とほのぼのと生きようとすれば出来ないこともない。
「アリシア」
思考の海に呑まれそうになった時、耳心地の良い低い声に呼び出された。
はっとして声のした方、王の席へ目を向ける。
すると、金色の瞳がこちらに向けられているではないか。
「お父様。なんでございましょう」
内心焦りながら、平静を装った顔でアリシアは首を傾げて見せる。
「今日はアレと踊らないのか?」
「アレ……とは、エヴァンのことでしょうか?」
「ああ」
「それなら。はい。そうですとお答えいたします」
「何故だ?」
いつもは会話などしない王が、多く質問してくるのが不思議でならなかった。
でも、今のアリシアはある意味、怖いもの知らずだ。
自分に制限を余り掛けていない。
前まで、王に話し掛けられると、頭が真っ白になっていたアリシアとは違う。
だから、自然と素直な気持ちを話していく。
「実は、エヴァンに婚約はしませんとお断りをさせていただきましたの」
「……お前は、アレが好きでなかったのか?」
「お父様が言う好きが、愛だというのならば、いいえ。と答えます。エヴァンが嫌いなわけではないのですが、愛してはいないのです」
「そうか……」
質問は終わり、王は前をまた見はじめた。
会話はもう終わりらしい。
いつもの気持ちとは違い、素直に喋れるようになったとはいえ、すぐには慣れることはできない。
その証明かのように、アリシアはほっと息を小さくはいた。
(それはそうよね。今まで、お父様に好かれようと、不興を買わないように会話には慎重だったもの)
でも、今日はどうだったろうか?
素直な気持ちを話していても、王は不機嫌にならなかったではないか。
(私がお父様に抱いていた“お父様像”と、本当のお父様は違っていたわ)
自分勝手に想像していた王と本当の王は違う。
そんなことまで、わかっていなかったなんて……。
きっとこの家族の中でも、アリシアが思っている性格や考え方と違うことがいっぱいあるのだろう。
母親の元でほのぼのと暮らすのも、農家としてほのぼの暮らすのも良いかもしれない。
けれど、それって、逃げたことにならないだろうか?
何もやっていないのに、逃げて良いのだろうか?
(頑張り方を間違えなければ、きっと良い方向性へ向かうこともあるかもしれないわね……)
先ほどの王との会話を思い出して、勇気が湧いてくる。
もしかすると、この家族は行き違いをしているだけかもしれない。
だったら、それを頑張るのは良いのじゃないのか。
間違っていれば、途中でやめても良いのだから。
そして、逃げても良いのだから――。




