44.天空のエメ
足元が良く見えない状態で雲の中の階段を昇るのは、ちょっとした勇気がいる。
ロアと手を繋ぎながら、エスターシャ女王陛下に続いておっかなびっくりと進んでゆく。
その女王陛下は慣れたもので、スタスタスタと長いドレスをお召しなのに足元も見ず先を行く。
それにしても、ここのお城は山の頂上にあって、王宮はさらにお城の上にあった。そこをさらに昇っていくなんて・・・そもそも、そんな高い建物だったかな?
どういう構造なのかなぁ。もしかしたらこれが空中庭園というものだろうか。想像がぐんと膨らむ。
雲の中からようやく出ると、そこは桃源郷のような場所・・・ではなかった。
「え・・・ここが、エメの里ですか・・・?」
確かにエメの木らしき樹木が多いけど・・・花はおろか、葉もつけていない枯れたような木が目立った。
しかも、葉があっても変な斑紋が入っているし、見た感じも萎れているようで元気が無い。
これがこの世界のエメの木・・・?
まじまじと近くにあった樹木を観察をしていくと、ひとつの考えに思い当たった。
これはもしかしたら梅の木がかかる伝染病ではないだろうか。いわゆる植物ウイルスというやつだ。
日本でも確かプラムなんとかウイルスという梅や桃などの果樹がかかる伝染病があって、東京にある有名な梅の里が1000本以上の梅の木を伐採したというニュースを聞いたことがある。
感染力が強い、やっかいな樹木の病気だったはず。
何を媒介するんだったか・・・確かアブラ虫だったと記憶しているけど、この異世界でも同じだろうか。
「ここは一番エメの木の被害がひどい。奥はまだ良い方なのだが・・・時間の問題かもしれぬ」
「やはり、伝染病の類なのでしょうか?」
「そのようだ。ここはハイエルフの王の住居があるのだが、多くの知識に長けた彼らにもお手上げのようなのだ・・・」
うむむ・・・魔法にも詳しい彼らがお手上げとは。
私にお役に立つことが出来るのだろうか。ちょっと心配になってきた。
「愛し子殿、これからハイエルフの王に会わせよう。彼も貴女に会いたいようで、すぐそこまで来ているようだ」
えっ、そんな・・・いきなりご対面・・・?
このまま勢いで伝説の存在であるハイエルフの王様とお会いしちゃうの!?
女王陛下に誘われ歩いてゆくと、いかにもここがエルフの住まいです、という感じに緑が増えてきて、周囲が高い木々に覆われてきた。
さっきまでのエメの木があった場所とは違って、緑が眩しい。
行き止まりに思えたその木々が生い茂る場所で、エスターシャ女王陛下が立ち止まる。
女王陛下が手をかざした途端、木の枝が自らの意思で動いたかのようにしなり、左右に分かれてゆく。
そうして、あっという間に道が現れた。
うわぁ~これよ、これ! これこそエルフさんらしい魔法だわ!
緑の魔法とでも言うのかしら? すごーい!
「すごい魔法だね」
ロアもとなりで目を輝かせている。ここへ来るまでも雲の中の階段といい、驚きの連続だったけど、生で見る女王陛下の魔法は想像以上だ。
ふと見ると、その女王陛下が頭を下げてる。
エスターシャ女王陛下が頭を下げる存在など、お一人だろう。
慌てて前方に目をやると、そこには絶世の美男子が立っていた。
ふぉぉぉぉぉぉぉ!!!?!
こ、こんな美形が世の中にはいるの!?
今までもユーリスさんやエスターシャ女王陛下も美を限界突破していると思っていたけど、この御方は次元が違う!
ヤバイ、と言うワードはこういう時に使うのかもしれない。もう私の語彙では表現が出来ないー!
目が潰れるほどの美形って、ホントに存在するんだ・・・。
普通だったら眼福で寿命が伸びそうだけど、このまま見続けていたら、それだけで天に昇ってしまいそう・・・。
隣のロアも「うぇ・・・」って言葉にならない言葉を呟いた後、お口を開けたままだし。
もう二人とも魂を抜かれたような状態です。
〔愛し子殿よ、初めてお目にかかる。私はハイエルフのエスタール。エスターシャの高祖父にあたる〕
うわぉ! お声が素晴らしく良い! こ、腰に来る・・・!
こんな素敵なバリトンボイスを初めて聞いたわ・・・!
「こ、こちらこそ初めまして、リサです。突然、あの、おおお邪魔してすみません・・・!」
もうね、この言葉を絞り出せた私を褒めてあげたい。話し方はグダグダでどうしようもないけど!
エスタール様のお声を近くで聞いたら、腰から崩れてもおかしくないからね?
「・・・ん? 高祖父・・・?」
高祖父って曾祖父の上だったっけ?
エスターシャ女王陛下の”ひいひいおじーちゃん”で合ってる?
どう見てもエスターシャ女王陛下の旦那様とかで通用しそうなお若さなんですけど!!
待つのだ。
・・・そもそもハイエルフさんの平均寿命ってどのくらいあるの・・・? このエスタール様って御年何歳なの?
あぁ、聞きたいことがたくさんー!
「まぁ、私はハイエルフの血を引く普通のエルフだという事だ。一応エスタール王とは血縁だな」
「な、なるほど・・・?」
いや、あまり良く理解できてないけど、血は繋がっているって事だけは分りましたよ・・・。
〔愛し子殿よ、早速だが知恵を貸してはくれぬか。フローデリア様からの神託を受けたのであろう?〕
「は、はい!もちろん私で出来る事でしたら。・・・でも女神様からは、我が家にあるエメの木を持っていくように言われただけで、あまり詳しくは・・・」
・・・本当に、女神様からもう少し説明があったら良かったのになぁ。
〔ほう、エメの木をお持ちか。見せてもらえるだろうか〕
「一応、挿し木用に持ってきたのですが・・・こちらになります」
そう言ってリュックから取り出した一枝を渡す。
〔おぉ、これはなんと生命力に満ち溢れた枝であろう・・・〕
「私の国では、”梅の木”と言います。増やすには挿し木か接ぎ木をするのが一般的なのですが・・・
残念ながら、ここのエメの木全部に接ぎ木するほどの量はありません」
〔そうか・・・いや、そうであろう。ここにはエメの木が数百本はあるのだから〕
「全部に接ぎ木するのは無理でも、ここにあるエメの木を元気にする方法は無いのでしょうか?」
〔私もここ十数年、色々と試してみたのだが、実もつけぬようになってしまって既にその位は経っているのだ〕
「・・・・・・10年以上も?」
よし、ちょっと【鑑定】してみよう。
ここのエメの木がどういう状態かを詳細まで鑑定してみると・・・
【エメの木:植物特有の病気に感染している状態。このままだと実をつけなくなり、立ち枯れる】
【エメの木の病原対策:エリクサーを万倍に希釈して撒くと良い】
ん?
エリクサー・・・?




