071
後ろへ飛んで距離を取りながら投げ捨てた帽子を被り直す。
奇襲作戦は二度は通じない。
しかも幾ら効果があったとしても、帽子を取ったままでは蘇芳の身体は予想以上に委縮して言うことを聞いてくれなかった。
それならば、敵は目の前と集中すべきだ。
体格差と力の差以上に、厄介なのは喧嘩を日常茶飯事にしている人間のタフさだ。
頼みの綱の帯電力も相手の心臓に負担がかかるので、あまりやたらに威力を上げるわけにもいかない。
舌打ちして、蘇芳はちらと彼の後ろに佇む校舎に目をやった。
山吹は露草の傍にいるはずだが、それでも不安は消えてはくれない。
「あぁもう! 邪魔です!」
「何、手古摺ってる」
吠えた蘇芳の言葉に被るように、不意に穏やかな言葉が波紋を描くように空気を打った。
振り返ったのは、多分同時。
蘇芳と元番長の視線は、花壇の影から現れた男に注がれていた。
「鈍、さん」
「どうして此処に!? こいつは俺が」
一人でも厄介な相手が二人に増えたことに、蘇芳は僅かに目を細めたが、それでも此処に彼がいるということは、露草は無事だと解って、思わず安堵の息をはく。
それからすうと上体を沈めて、二人を睨んだ。
鈍の視線は、蘇芳を捕えない。
ただ、元番長に注がれている。
「この、馬鹿」
「鈍さん、あの」
それは、本当に一瞬。
徐に距離を詰めた鈍に、元番長の顔が引き攣って、それからぐらりと身体が傾いだ。
「え?どうして、」
呆気にとられた蘇芳に、意識を失った男を抱えて、鈍が漸く視線を向ける。
「お前の保護者は、助言を聞く気がないのか?」
「何言って」
「この程度で手古摺るようなら、護衛が必要だぞ。兎娘」
「木路蝋さんに、写真を送ったのは貴方ですか」
唐突に蘇芳の頭に閃いたのは、木路蝋に見せられた写真。
特に勿体ぶった様子もなく頷いて、鈍は肩を竦めた。
「どうしてですか? その人を嗾けたのは、」
「俺は視えるだけだ。こいつらを使役する様な能力は持ってない」
「え?」
男の肩口を弾いて、鈍は蘇芳の頭の上を眺める。
混乱した頭をフル回転させていた蘇芳は、あることに気づいて顔色を変えた。




