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迅速に廊下を渡って、蘇芳は近道になる窓枠に手をかけると蘇芳は無造作に身体を宙に投げ出した。
それは2階の窓だったのだけれど、頭に血が上っている蘇芳は危なげなく着地する。
そのまま駆け出そうと顔をあげたところで、ぴたりと縫い止められたように足を止めた。
「元、番長さん」
今日はつくづくついていない、と蘇芳は我ながら自分の運のなさにうんざりする。
どうやら彼は、夢獣使い候補からは外れるようだ。
先ほどの二人と同じ目をして、彼はそこに立っていた。
「何か、ご用ですか」
「鈍さんの障害は、ごく少数だろうと、何十人だろうと俺が片す」
一体どんな都合のいい夢を見せられたのか。
それとも、今も見ているのだろうか。
現実ではない甘い夢。
それに浸って、溺れて、何もわからなくなることほど、蘇芳の気に障ることはない。
何故なら、蘇芳は知っているからだ。
それは逃げ道の一つではあるが、逃げ込んでいい先ではない。
けれど、無理やりその微温湯に背中を押された人間を見るのは、もっと嫌だった。
少なくとも、純粋に鈍を慕っていた筈の彼には、似合わない。
けれど、
「それはこちらの台詞です。進路を塞ぐ相手に容赦はしません」
蘇芳の優先順位は、いつだって露草が先だ。
帽子を掴むと、蘇芳はそれを無造作に放り投げた。
一瞬、彼の動きが兎耳を捉えて固まる。
その一瞬を、蘇芳は見逃しはしなかった。
「どいてください」
両手を擦り合わせて踏み込んで、蘇芳はそのまま不意打ちを食らわせる形で、滞電気を纏わせた両手を眼前に突き出す。
はっとして上体をのけ反らせた所で、右足を払った。
「!?」
バランスを崩して傾いた右腕を掴んで、梃子の要領でその勢いのまま背負い投げる。
「っと」
流石に元番長は、踏鞴を踏んだだけで、簡単に意識を手放してはくれそうになかった。




