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必死で口を閉じている露草の視線に、蘇芳はふるふると首を振った。
「慣れただけです。さんざん乗せられましたから」
「散々? 両手にも満たないはずだろ」
「三回以上乗れば、もう十分だと思います。初めて乗った時は、生きた心地がしませんでしたよ」
不意に車体がバウンドして、露草が声にならない悲鳴を上げる。
それに反応して、蘇芳はバックミラー越しに木路蝋を睨んだ。
「いくら不機嫌でも、もう少し安全運転してほしいです」
「これ以上、どう安全運転するんだ?」
「御冗談でしょう?」
ふんと鼻を鳴らした木路蝋に、蘇芳は呆れて肩を竦める。
「スピードを緩めて、余裕をもってハンドルを操作すればいいと思いますけど」
「それこそ、悪い冗談だな。これ以上速度を落しても時間の無駄だ」
「今日という今日は、はっきり解ったよ。あんたは、常識がないんだ」
漸く赤信号でスピードを落とした車の中で、この数分ですっかり疲れ切った露草が、げんなりと呟いた。




