038*
「ちょ、どこ行くのさ」
「良いからさっさとついて来い」
蘇芳が呼びに来たかと思えば、羽織を着こんだ木路蝋が二人を促して、玄関を出る。
車庫に止められた彼の愛車の前で立ち止まると、木路蝋は少しだけ面倒くさそうに視線を向けた。
「止めるなら今だぞ」
「はぁ?」
「不本意だが、俺は説明してやる気になってはいるが、聞いて後悔して当たられるのは面倒この上ない。だがら、止めるなら今だぞ」
「諄いです。さっさと案内してください」
辛辣に言い放ったのは蘇芳で、彼女はさっさと後部座席の扉を開けると、その小さな身体を滑り込ませる。
立ち尽くしたままの露草に、木路蝋の視線が向けられた。
「お前は、どうする?」
「僕はあんたが嫌いだ」
「あぁ」
「でも、あんたが当主だってのは認めてるんだよ」
助手席の扉をあけると、木路蝋は酷く深いため息をついて、運転席に乗り混んだ。
「露草、シートベルト締めて口閉じてた方が良いですよ」
「はぁ? 口?」
後部座席から届いた忠告に、露草が振り向こうとした途端、木路蝋が乱暴にアクセルを踏み込んだ。
「ッ!?」
がんっと歯と歯が音を立てる。
危うく舌を噛みかけて、露草は慌てて木路蝋を睨む。
「なんだ?」
視線を感じたのか口を開く木路蝋は、この速度と荒い運転をちっとも苦にしていないらしかった。
「木路蝋さん、相変わらず荒い運転ですね」
「荒い? どこがだ」
赤信号すれすれで交差点に飛び込んで、きゅるきゅると音がしそうな左折をしながら木路蝋が不満げに呟く。
「世間では、こういう運転を荒いっていうんですよ」
「(何、普通に喋ってるわけ?)」
呆れたようにため息をつきながら、普通に言葉を紡ぐ蘇芳が、気付いたように露草に目を向けた。




