002
普通、転校生というのは、ただでさえ興味を引く。
それが季節外れともなればなおさらだ。
ただし、この学校にはそれが当てはまらない。
クラスというものが、申し訳程度にしか存在しないからだ。
勿論、週に何時間かは必修の授業があって、それはクラス単位で受けることにはなっているが、だからこそ同じクラスの人は解っても、『隣のクラスのなんとかさん』ではなく、『同じ授業を取っている別のクラスのなんとかさん』になって、同じクラス以外は須らく、『別のクラス』の枠になる訳だ。
「ですよね、別のクラスの露ちゃん?」
「だから、ちゃん付けするな!」
授業中のせいで小声で返ってきた叱責に肩を竦めて、蘇芳は前方の黒板を見遣る。
一番後ろの席を陣取ったおかげで居並ぶ生徒が一望できた。
教員の話を熱心にきく者、一心にノートに向かう者、寝ている者、暇そうに窓の外を眺める者。
様々だ。
「ちょっと。気をつけなよ」
キョロキョロしているうちに帽子がズレたらしい。
呆れたような声がして、ぐいぐいと帽子が引っ張られた。
「引っ張りすぎです、露草」
「目立つなっていったはずだよ」
「それはそうですけど」
「こら、そこの二人。喋ってるなら、今から書く問題訳してみろ」
飛んできた教員の声に、教室の視線が集まって、露草はうっと言葉につまる。
静まり返った教室にカツカツとチョークの音が響いて、達筆な文字が記された。
「あんたのせいだ」
恨みがましげに呟いた露草に、蘇芳は小さく肩を竦める。
「でも、答えないと露草も怒られますよ」
「あぁもう、最悪だよ」
「訳せないなら、二人とも減点す」
「The more I learn the more I realize I don't know. The more I realize I don't know the more I want to learn.」
振り返りざまの教員の言葉を遮ったのは、流暢な発音。
「正解だ」
意外そうな顔をした教員に視線をくれる事なく、答え終えた露草は楽しそうな蘇芳を睨む。
「僕は目立ちたくないんだって言ったよね」
「ごめんなさい」
「心にもないこと言わないでよ。何、嬉しそうにしてる訳?」
「久しぶりに、露草の綺麗な英語が聞けて嬉しいです」
ピントはずれな蘇芳の物言いに、露草が大仰にため息をついた。