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AIは見ていた ~痴漢冤罪で婚約者に捨てられた俺、誰も無実を信じてくれなかったが、消されるはずの記録だけが真実を知っていた~  作者: panpan


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木村 淳③

淳視点です。


 後日……。

俺は担当弁護士である三浦(みうら)弁護士の事務所に赴いた。


「こちらです……」


 三浦弁護士に案内された会議室に入ると――すでに、福島未来とその両親、弁護士の男性が座っていた。

福島はつまらなそうな顔で足を組み、スマホをいじっている。

一瞬、顔を上げて俺と目が合うも――。


 ――なんだ、こいつか。


 なんて感じですぐにまたスマホへと視線を戻した。

俺を痴漢だと訴えた張本人とは思えないほど、福島は平然としている。


 ――もうこっちの勝ちは決まってる。


 ふてぶてしい態度から、そんな余裕が伝わってくるような気がした。


「……」


「……」


 対照的に、福島の両親は俺を睨みつけて来る。


「ウチの大切な未来を傷つけて、金だけで済むと思うなよ? この痴漢野郎!」


「あなたの顔も名前も世間に晒されているんだから、これから永遠に生き地獄を味わいなさい」


 椅子に腰かけた途端、福島の両親から罵声を浴びせられた。

自分達が被害者であると、信じて疑っていないんだろう。


--------


 そして、福島側が要求している慰謝料について、示談交渉が始まった。

後で『そんなこと言ってません!』みたいなことがないように、ここでの会話は三浦弁護士と相手の弁護士が録音している。

もちろん全員、了承済みだ。


「電車で学校に行ってたら、この人が急に体を触ってきました……マジであり得ないくらいキモかったです」


 痴漢を受けた状況を話し始める福島だが、言葉に感情が微塵も籠っていない。

三浦弁護士が詳細なことを尋ねても……。


「怖かったので覚えてませーん」

 

 それで全て押し通していた。

態度はふてぶてしいまま……言葉もいい加減――まるで他人事のようだ。

この違和感は俺だけでなく、三浦弁護士も感じているらしい。

福島側の弁護士までなんとも言えない表情を浮かべている。


「つらかったのね……」


「可哀想に……」


 だが親バカというかなんというか……福島の両親は彼女の言葉を真に受けていた。

そして福島の証言だけを根拠に――俺は冷や汗が出るほどの慰謝料を請求された。


--------


 そして次はこちらの番だ。


「まずはこちらをご覧ください」


 三浦弁護士がタブレットを取り出し、テーブルに置く。

そこに映し出されたのは、俺がコピーした例の動画だ。

三浦弁護士からは何度もリスクについて念を押された。

だが俺はリスクを理解した上で、この動画を使うと決めたんだ。


「な、なによこれ!」


 動画が進むにつれ、福島の顔がみるみる青ざめていく。

両親もその弁護士も言葉を失う……。


「この動画は木村さんが勤めている会社が開発しているAI機能を搭載した最新鋭の防犯カメラの映像です。 事件が起きたあの電車に試験運用として設置されていました」


 本来はAIが不審な動きを検知するためのカメラだが、試験運用中のため、検知精度を確認する目的で通常の映像も保存されていた。

そのおかげで、俺が痴漢をしていないことを確認できたんだ。


「こ、こんなの盗撮じゃん!!」


 福島がスマホを落として声を荒げた。


「動画そのものについては追々と……ですが今は、この動画の内容についてです」


 三浦弁護士がタブレットを操作する。


「この動画を確認したところ、木村さんは乗車後すぐに吊り革を右手で握り、左手でスマホを操作してニュース記事を読んでいます。 木村さんが乗車してから福島さんに腕を掴まれるまでの約40分間、両手の動きは映像で確認できます。その間、木村さんが福島さんに触れる場面は一度もありませんでした」


「こ、こんなの……フェイク動画でしょ!?」


「そ、そうだ! そもそも未完成のAIが撮った動画なんて信用できるか!」


「どうせ編集とか加工でもしたんでしょう? なんて恥知らずな……」


 否定する福島に賛同して、福島の両親が声を上げる。

もちろんそう反論されることは想定済みだ。

三浦弁護士が鞄から取り出した書類をテーブルに置く。


「これは専門機関に依頼して作成してもらった、この動画に関する書類です」


 書類の内容を要約すると『映像を解析した結果、不自然な編集や加工の痕跡は確認されなかった』ということだ。

福島達は書類の偽造を疑い、自分達の弁護士に書類を見てもらった。


「提出された解析報告書では、映像に加工の痕跡は確認されていないようですね。ただし、元データとの照合は必要でしょう」


 自分達の弁護士の言葉に、福島達はさらに顔が青ざめる。


「ちっ違う! 私に触ったのはそいつよ!!」


「少なくとも、この映像では木村さんが福島さんに触れている事実は確認できません。むしろ、福島さんの証言と矛盾する場面が複数あります」


「それがなんだって言うの!! 裁判よ!裁判しなさい!」


 動画を見せてもなお、福島はまだ俺を痴漢として必死な様子で訴えようとしている。

身を乗り出し、テーブルを乱暴に叩いている。

俺は彼女のその言動に疑問を抱いた。


 ――どうしてそこまで俺を痴漢にしようとするんだ?


 俺からすればたまったもんじゃないが、勘違いならまず謝るのが筋だろ?

実際に俺は痴漢なんてしていないんだから――。

なのに、福島は俺に対する訴えを取り下げない。

あまりの気迫に、福島の両親までしどろもどろだ。

俺は彼女の必死な姿が気になり、つい口を開いてしまった。


「君は俺が痴漢じゃないと困るのか?」


「はっ?……」


 福島が一瞬、言葉を失った。


「重要なのは『誰が電車で君に触ったか』だろ?

この動画で俺以外の誰かが君に触った可能性が出てきた。

それなのに、どうして君は裁判まで起こして俺を痴漢にしようとするんだ?」


「そ、それは……」


 目が泳いでる……息も乱れている……額から汗まで流れている。

福島は明らかに焦っていた。


「君、本当に痴漢されたの?」


「はぁ!? 何言ってんの!!」


 三浦弁護士が俺の肩を掴んで制止しようとするが、俺は口を閉じなかった。


「俺に冤罪をふっかけようとしたんじゃないか?」


「しょ、証拠もないのに言いがかりはやめてよ! 名誉毀損じゃない!」


「俺だって証拠もないのに、君の証言だけで痴漢扱いされてたんだぞ?

この動画がなかったら、俺はずっと痴漢として扱われ続けていたかもしれないんだ!

できるものなら、俺が名誉毀損で訴えたいくらいだ!」


 俺は感情のままに言葉を吐き出してしまった。


「裁判したいならすればいい。

だけど、こっちも徹底的に君のことを調べる。

その結果、もしも冤罪だと判明したら……俺は君を訴える!

高校生だからって穏便に済ませてもらえると思うなよ!」


 後半はもう脅迫に近かった。

福島は俺の大声に驚き、びくっと体を震わせた。

福島の母親が俺から守るように彼女を抱き締める。


「木村さん!」


「あっ」


 三浦弁護士が俺の肩を抑えてくれたおかげで我に返ることができた。


 ――何をしてるんだ俺は。


 そう自分に呆れていた時……。


「……ない」


 福島が震える声で言葉を漏らす。


「……えっ?」


「私が悪いんじゃない……私はただ頼まれただけ!」


「た、頼まれた? 未来、どういうことなの!?」


 福島の母親がそう尋ねると、福島は懺悔するように話し始めた。


「え、SNSで『簡単な仕事で高額報酬』っていう投稿を見つけて……気になってメッセージを送ったら、痴漢をでっちあげれば30万円払うって言われて……」


「福島さん、軽率な発言は困ります。一度、休憩しましょう」


 相手の弁護士が福島を気遣うも、彼女は無視して続ける。


「メッセージを送り合って……駅前のカフェで待ち合わせたら、前金って言って5万円くれて……木村淳って人を痴漢に仕立て上げたら残りのお金をあげるって言われたから……」


「それはどんな人でしたか?」


 俺より先に三浦弁護士が尋ねた。


「若い男の人……田中って名乗ってた……やり取りも残ってる」


 福島は急いでスマホを操作し始める。


「福島さん。スマートフォンを見せる前に、こちらで確認させてください」


 すると、福島達の弁護士が提示前の確認を申し出た。

当然と言えば、当然か――。


「確認しました。 どうぞ――」


 福島からスマホを受け取り、内容を確認し終えた福島達の弁護士が福島にスマホを返し、改めて彼女は俺達に画面を見せた。

そのやり取りを見る限り、福島の言っていることは本当っぽい。

だが必要最低限のことしか書かれておらず、福島が田中と会ったのは前金をもらった時だけで、顔もよく覚えていないらしい。


「未来……あなた、本当に嘘をついていたの?」


 震えた声で福島の母親が娘に尋ねる。


「……うん」


「ど、どうしてそんなことを!」


「だって……推してるユーチューバーにもっと投げ銭がしたくて……それに欲しいグッズもたくさんあったし――。

でも、バイト代だけじゃ足りなかったから……」


「そんな……」


「なんてこと……」


『……』


 俺を含めた福島以外の人間が言葉を失う。

金欲しさに俺を痴漢にでっち上げようとしたのもそうだが……その理由があまりにもくだらない。

俺は怒りを通り越して呆れてしまった。


「とりあえず、君が金欲しさに俺を痴漢に仕立て上げようとしたことはわかった。

後日、改めて君を訴えさせてもらう」


 俺の言葉に、福島が青ざめる。


「は、はぁ!? なんでそうなるの! 私、正直に話したじゃない!」


「正直に話せば許すなんて言った覚えはないよ」


 ――そもそも自分からビビってペラペラと話したくせに。


「なによそれ……最低過ぎるんですけど!!」


 ――よく、その口で言えたな。


 思わず福島に感心していると、福島の両親が急に立ち上がった。


「む、娘は利用されていただけだ! この子だって被害者だ!」


「そもそも、子供のしたことよ? 子供のしたことは許すのが大人として正しい対応でしょう?」


 この期に及んで、福島を庇う彼女の両親――。


「そ、そうよ! 痴漢冤罪なんてちょっとしたドッキリみたいなもんじゃない! 訴えるとかマジであり得ない!」


 そして両親の影に隠れて、反省の色を微塵も見せない福島――。


 ――子が子なら親も親だ。


 クレイジーな親子の隣でしどろもどろになっている相手方の弁護士が気の毒ではあるが――俺は福島を許すつもりはない。

福島の自白は録音してあるし……三浦弁護士がさっきの田中と福島のメッセージのやり取りを証拠として保存してくれた。

少なくとも、福島が一方的な被害者として扱われることはないだろう。


--------


「すいません、三浦さん。 ここまで付き合ってもらって……」


「いえ、これも私の仕事ですから」


 痴漢事件についての話し合いが終わり、俺は三浦弁護士と一緒に福島が田中と待ち合わせたカフェに向かっている。

痴漢の疑いを晴らすための大きな証拠は手に入った。

だが、俺を陥れるよう福島に依頼した人間がいると聞いて、胸の中のモヤモヤは消えなかった。


 ――カフェに設置されている防犯カメラに何か手がかりになるようなものが映っているかもしれない。


 ――カフェの店員が福島と田中のことを覚えているかもしれない。


 根拠なんてない……でも、確かめずにはいられない。

そんな俺の気持ちを三浦弁護士が汲み、俺についてきてくれた。


--------


 俺と三浦弁護士は店に入ると、レジでお客さんの会計をしていた男性に声を掛けた。

ネームプレートを見ると、この人は店長だった。


「すみません……少しよろしいですか?」


 三浦弁護士は店長にかいつまんで事情を説明した。


「……そういう理由がありまして、防犯カメラの映像を見せてもらえないでしょうか?」


「……」


 事情を聞いた店長は難色を示す――。


「申し訳ありませんが、防犯カメラの映像を簡単にお見せするわけには……」


「もちろん承知しています。まずは該当する日時の映像が残っているかだけでも確認していただけませんか?」


「うーん……」


 店長は渋い顔をして唸る。


 ――店長の言うことはもっともだ。


 いくら弁護士からの頼みだからって、防犯カメラの映像を容易に見せることはできない。

これが依頼じゃなく、あくまでもお願いだ。

最悪、断られても文句は言えない。

そう思っていると――。


「……わかりました。まずは私の方で確認してみます」


 店長は事務所へ向かい、しばらくして戻ってきた。


「該当する日時の映像は残っていました。お話を聞く限り、事件に関係している可能性があるようです。必要な部分だけなら確認していただいても構いません」


 店長によると、このカフェでは以前、無銭飲食の被害に遭ったことがあり、それ以来、店内にも防犯カメラを設置しているらしい。

俺はさっそく、店長に映像を見せてもらった。


「えっ?」


 俺は防犯カメラの映像に目を奪われた。

そこには、窓際の席に向かい合って座っている福島と田中らしき男が映っていた。

幸い、カメラは窓際の席を斜め前から映しており、男の顔も確認できた。

何を話しているかまではわからないが、男が福島に封筒を差し出すと、彼女は中身を確認し、驚いたような表情を浮かべた。

おそらく、あの中には福島が話していた前金の5万円が入っていたのだろう。

福島の証言を裏付けるような場面が映っていたことにも驚いたが……それ以上に驚いたのは男の顔だ。


「真……さん?」


 それは紛れもなく、奈々の兄である白川真さんだった。


次話は真視点です。 ここから一気にざまぁしつつ完結に向けて進めます。

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