09
「てめぇのせいで全弾無駄にしちまっただろ!」
声に振り返ろうとして、いつの間にか床に転がっていた自分に気付いた。
こめかみに痛みが走る。
蹴り倒されたらしい。
蹴られた場所はもちろん、床にぶつかった肩、背中もズキズキした。
焦点がずれて、全てがぼやけて見えた。
「おい、立てよ!」
襟を掴まれ、引っ張られた時、急に視界が鮮明になった。
見たくなかった。
クラスの連中は笑っているか、何もないかのように振舞っているかだった。
時田に屋上まで引きずられている時も、半分上の空だった。
教室に草薙がいなかったが、彼女がいたらどういう反応をしたんだろう、と考えていたのだ。
が、胸をどつかれ、地面に転がったとき、現実に引き戻された。
「何取り澄ましてんだよ?」
時田はしゃがみこみ、身を起こした僕を、再度突き飛ばした。
「……立て」
自分で突き飛ばしたくせに、時田は僕を立たせた。
思った通り、やさしさとか、人間性とかがそうさせたわけではなかった。
ドグ!!
僕が必死で固くした腹筋に、彼の拳が衝突した。
いつものような苦しみはない。
「へぇ……」
時田は感心したように僕を見た。
「少しは学習したみたいだな」
「……」
「……武、レバーブローって知ってるか?」
僕はそんなもの聞いたこともなかった。
そう答える前に、時田がぐっと沈み込み、僕の右脇腹にこぶしをぶち込んだ。
「う゛!!」
体が横に曲がった。
僕はバランスをとることが出来ず、右に倒れた。
腕の外側をすりむいたが、今の所、そんなことは気にできなかった。
口を大きく開けて、息を吸い込もうとしているのに、空気が入ってこない。
肺に何かが張り付いている。
完全に固まってしまっていた。
「生意気なことすっからこういうことになるんだぜ……?」
髪の毛をぐいと引っ張られ、持ち上げられた。
ブチブチっという音が聞こえてきた。
時田は僕が苦しんでいるのを満足したらしい。
彼は最後に僕の顔を地面に叩きつけると、そこからいなくなった。
僕は身動きしなかった。
動けなかった、というのもあるが、それだけではない。
僕は痛む部分をさすったり、血の味のする唾をどうにかすることもしなかった。
ただ目をつむり、息を殺していたのだ。
そうすることで、日常と化した「非日常」をやり過ごそうとしていた。
もちろん自分でも、それが最悪の行動だと気付いていたのだが。
そう、自分の中に渦巻いている、「もう、どうしようもない」とか、「死ぬしかない」という言葉すら、やり過ごすことは出来なかった。