19
学校に着いたのは11時半。
どうしようもなく微妙な時間だ。
校門の前で入るか入るまいか迷っていると、苦々しさを全面に出した声がした。
「……遅刻か」
まるで、極悪事件の被告を断罪するかのような言い方だった。
一体誰だろうと思って振り返ると、右手に火のついた煙草を持った校長「先生様々」が、仁王立ちして「いらっしゃった」。
「……理由は?」
「……特に何も」
彼は煙草を口につけ、深く吸った。
一瞬間をおいて煙を吐き出したかと思うと、煙草を地面に落とし、足で踏み潰した。
「……早く入れ」
校長の言葉や行動のせいで、胃がムカムカする。
「……道は―――」
「なんだ?」
彼は僕の言おうとしている言葉を知らず、煙草の箱を取り出した。
「道は喫煙所じゃありません。当然、灰皿でも」
校長が動きを止め、顔がみるみる怒りに染まっていったが、取り出した箱は元に戻した。
「……余計なことを言うな!」
「「余計なこと」?先生にとって「耳が痛いこと」は皆余計なことですか?」
「下らんこと言ってないで、早く授業を受けろ!」
僕は校長を睨み、かばんを担ぎなおした。
「ずるいですね」
怒りが体中を駆け巡っていた。
「都合が悪いことは拒絶するか、追い払うか、とはね」
校長が何か言おうとしたが、僕はさっさと校門をすり抜けてしまった。
幸い、彼は追ってこなかった。
「タケ!!」
ちょうど休み時間だった。
草薙は僕を見つけた途端、ほっとした様子でよってきた。
「気が変わったの?」
「……まぁ、そんなとこかな?」
その時、案の定時田もまた、すぐに絡んできた。
「学校一のちくり魔は、遅刻魔でもあったみたいだな、カス」
彼は唇を吊り下げて笑い、僕を上から見下ろしていた。
目を逸らしかけた自分をしかりつけ、その忌々しい目を睨み返した。
「……昨日は言いそびれたけど、あいつらに言ったのは俺じゃない」
時田は「それがどうした」と笑った。
「どっちにしろ先公達は動かないし、お前を散々痛めつけてやったから、また訴えるような馬鹿も出ないだろ」
「……テメェは何を勝ち誇ってるんだ?」
「タケ!?」
「あ?」
時田の右手が僕の髪の毛を掴もうと、伸びてきた。僕はそれをとっさに叩き落した。
「イッテ!!」
その次は、あまりに早くて反応できなかった。
時田は叫ぶと同時に、もう片方の手で僕の胸倉を掴みあげたのだ。
「……テメェ……!」
その時はラッキーだったというしかない。
ちょうど数学教師が入ってきたのだ。
「はい、席ついて~」
この一触即発の雰囲気には気付かないらしく、実にのんきな声だった。
時田は僕を睨みつけていた。
そして、椅子に突き飛ばした後、自分の席へ戻っていく。
僕は深く息を吐き出した。