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【完結】都合のいい私を、辞めることにしました【番外編あり】  作者: 福嶋莉佳@集英社WEB小説大賞金賞
二章

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第5話

――翌朝。


もう、朝か……。


呼び鈴を鳴らそうとして手を伸ばしたが、すぐに思い直した。


「今日は、いいや……」


私はベッドから降りると、自分で水差しから洗面器へ水を注いだ。顔を洗い、冷たい水に触れているうちに、昨夜の出来事が少しずつ現実のものとして頭に戻ってくる。


――みんな、熱心に話していた。


地方の領地を任されている人もいれば、商会の若手責任者や、王都と取引のある家で実務を動かしている人もいた。でも、肩書きの話をする人は誰もいなかった。


……勉強になったな。


そう思いながら、階段を降りる。


「また、参加したいな……」


リビングに入ると、兄と姉がすでに席についていた。


「おはようございます」


声をかけるが、兄はこちらを見ない。返事もなかった。


姉は一瞬だけ視線を動かし、目を合わせないまま口を開く。


「……おはよう」


私は何も言わずに席についた。いつも通りの冷めたパンを手に取り、固くなりつつある端を割る。


もぐもぐ……。


慣れた味なのに、今日はやけにパサつく。


何か言った方がいいのか。


そう思って口を開きかけた、そのとき。


「昨日の件は、もういい」


兄の声が先に落ちた。


私は言葉を飲み込む。兄は皿から視線を上げないまま、続ける。


「家として、あの会に参加する必要はない」


姉はすぐには頷かなかった。一拍置いてから、「……そうね」と答える。


私は手に持っていたパンを見つめ、小さく声を出した。


「……でも、勉強に――」


「その話は、やめろ」


ここで初めて、兄が顔を上げた。


「ああいう場で聞いた話を、うちに持ち込むな。規模も前提も違う。考え方まで借りる必要はない。うちは、うちだ」


思わず、瞬きをする。そんなふうに言われるとは思っていなかった。


姉の方を見るが、姉は私を見ず、カップに手を伸ばして何事もなかったように口をつける。


……お姉様も、同じ考えなの……?


しばらく、食器の触れ合う音だけが続いた。


「あ、そうだ。郵便の返事だけ、書いといてくれ」


兄は用件だけを残すように言った。


◆


部屋に戻り、机に向かう。


とりあえず、郵便の返事を書く。


「この間の返事か……」


前回の水路協議を踏まえ、隣領で内部の調整を行ってくれたらしい。当初の予定より前倒しとなるものの、この時期しか日程を押さえられないため、


『この日で確定したいが、いかがか』


という内容だった。


歩み寄ってくれている。


――ありがたい。


手帳を開いて予定を確かめる。


「うん、大丈夫ね」


さらさらと返事を書いていく。


「……」


ふと、机の端に置いてある、招待状の入っていた便箋に目が止まった。


お兄様は、ああ言っていたけれど――


「……私は、ためになったと思うけどなぁ……」


アーネストの言葉を思い出す。


なんで、あの人。

私を呼んだんだろう。


次に会ったら、教えてくれるかな……。


そんなことを考えながら、私は書き終えた手紙を畳んだ。


◆


――昨夜。


会が一段落した頃、アーネストは壁際で杯を置いた。


「お疲れでしたら、お部屋へお戻りになりますか」


背後から執事が声をかける。


「いや、もう少しだけ」


そう言って広間を一瞥すると、執事もその視線を追った。


「……リュークハルト家の方々ですね」


「兄の方は、前に出たがる」


アーネストは淡々と言う。


「場の性質を勘違いしている。代表として振る舞おうとしていたが、話を動かすつもりはない」


「現場に立つ方ではありませんね」


「立っていない」


即答だった。


「姉の方は?」


「引く判断が早い。合わないと分かった時点で、余計なことをしない」


アーネストは腕を組み、少し考えるように広間へ視線を戻した。


「深入りしない、という意味では合理的だ」


執事は何も言わず、聞いている。


――家の内情は、だいたい見えた。その隙間を埋めているのが、彼女だ。


「……エリナ・フォン・リュークハルト嬢ですね」


「そうだ」


ようやく、その名を口にする。


「場慣れはしていない。だが、話は机上ではなかった」


「ご評価は?」


「まだだ」


アーネストは腕を解き、グラスを再び手に取った。


「材料が足りない。判断するには、話が必要だ」


「では、次は――」


「本人と話す場を用意する」


執事の言葉を遮るように言った。


「それだけだ」

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― 新着の感想 ―
 これ以上、恥をかきたくないけど、作業はおしつけるスタンスのようですね、お兄様。記憶違いでなければ、ニ○トに近づいてる節がします。  例の会の関係者からも兄は早々に切り捨てられるなか、お姉さんは保留、…
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