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始まりの章~友達

優花の住む世界では、

ほとんどの時間を病院で過ごす優花。

それでも、調子のいいときは院内にある「学校」に行くこともある。


長期入院している子供たちのための学校だ。

といっても授業は週に2,3回。

それも一回につきひと科目。


この日、優花はその院内学校に参加していた。

今日は美術の授業だ。


参加したのは数人の子供たち。

みな優花と同年代らしいが、皆同様に年齢より幼く、小さく見えた。


先生らしき人が、

「お友達の絵を描きましょう」

と言って、スケッチブックと色鉛筆を配った。


生徒たちは二人ずつペアになり向き合って座った。

優花と向かい合ったのは、毛糸の帽子を深くかぶった女の子だった。


時々何か話しながら、優花とその子はお互いの顔を描いていた。


優花の付き添い兼雑用係として同行していたニキアは

遠巻きに優花の描く絵を見ていた。


優花は絵が上手かった。

前、病室でニキアが見たノートに描かれたいたずら書きのような自分の絵も

すごく上手に描かれていた。


その時描いた元気そうな自分と同じように、目の前の子を描いている。

帽子はそのままだけど、ふっくらしたほほ、ぱっちりした目。

少し笑っているようだ。


授業も終わりに近づいたころ、

先生が

「お互いの絵を見せ合いっこしましょう」

と言った。


優花の描いた絵を見たその子は、

「わたし、こんなに元気そうじゃない」

とつぶやいた。

「こんな風に描かれても困る。元気にならないって知ってるくせに、

いやがらせみたい」

と続けた。


先生は

「せっかくお友達が描いてくれたんだから」

ととりなしていたが、

「友達じゃないし。ただここに一緒にいるだけ」


あきらかに困惑してる先生に代わり、

看護師がその子をなだめ、教室から連れ出した。


その日の授業は後味悪く、そこで終わりになった。


優花のことが気になったニキアが、

「せっかく可愛く描いたのにね」

と言うと、


「ま、デフォルメしすぎたかな。元気な姿なんて描かれても嫌味なだけだよ。

友達じゃない、っていうのもホントのことだしね」

と言う優花。


そういえば、優花のところに「友達」という人がお見舞いに来たことがない。

ニキアは、

「優花に友達っているの?」

とはっきりと聞いてみた。


「いる、うーん、いたこともあるんだけど、みんな死んじゃった。

本当の学校の子は私が学校に行ける日が少なすぎて友達にまでなれないし、

ここで一緒になる子は、友達になっても死んじゃうか、元気になって退院して私の事は

すぐにわすれてしまうんだよ。

ニキアには友達っているの? それっぽい人、見たことないけど」


「私ってさ、スパンがすごく長いじゃない、人間と比べると。同族の同世代とは会ったことがないし、

同年代の人間と友達になっても、その人たちすぐに大人になっていって、私とは話も合わなくなる。

そして老いて死んでしまう。

だから、あえて友達なんていなくていいかな、って思ってる」


優花とニキア、共に「友達」がいないという点で一致していた。


「でも、私、魔法学校のクラスメイトとは友達になれそうだよ」

優花が嬉しそうに言う。


魔法学校でいつも優花が楽しそうにクラスメイトと話している姿を

ニキアはいつも見ていた。

その姿をとてもいとおしく思いながら。


ニキアに友達と呼べる人がいたのはいつが最後だっただろうか、

心のなかで、「友達」とつぶやいたとき、

ニキアの脳裏には優花のことだけが浮かんでいた。




応援していただけると感激します。

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