~最終話~
「父上」
「何だ?」
「領主代理の話は譲りませんからね」
「ふ、先手を打つか。まあなあ。私も二人の功績は惜しいと思う。だが、ラルフの事を考えればお前の気持ちも分かる」
「ええ。俺は兄上と争う気はありません」
「その為に、竜の加護を断ったのであろう」
「ええ。過ぎたる力は均衡を崩しますからね。俺のこの力はマリーの為に使います。そもそもマリーの存在自体が竜の加護の様なものです。彼女を勢力争いなどに巻き込みたくはありません。彼女を守るためにも領地で大人しく過ごしますよ」
――マリーは、幾度となくこの国を救ったことになる。いや、この世界と言ってもいいかもしれぬ――もう十分だろう。十分国に尽くしたのだ。これ以上、あいつを国の隷属にさせはしない。
「至宝、か。あながちであったが、あのお転婆だった王女が我が国の救世主となろうとはなぁ。未来とはどう転ぶか分からぬものだ――まあ、いいだろう。勢力争いなど疲れるだけだ。陛下も望んでおられないしな」
「……父上。もうそろそろあの義父はどうにかなりませんかね……」
「諦めろ……それがお前の選んだ道だ……」
「はぁぁ……仕方ありません」
「先に言っておくが、偶には顔を見せろよ。でなければ……あの男が何をするかわからぬぞ……」
ひくひくと頬が引き攣っている父上が痛ましいな……。
まあ、それくらいは構わない。マリーも家族と会えるのは嬉しいだろうからな。
なあ、マリー。
――ブルゴーニ国。我が国から西に位置する。我が国とも国交があり、西の海洋で獲れる魚介類の貿易が盛んな国だ。二国間の国境は険しい連山で分断されており、ガーレイロ辺境伯が守りを固める砦を介しての行き来となる。
あれから間もなくして、ブルゴーニ国から改めて、静養中の国王様の代わりに王太子様と使者が訪れた。
あの後、国の混乱も収まったそうだ。記憶がない中で国に混乱を起こした娘の所業に大夫様は責任を感じて辞職しようとしたが、魔眼は本人の意思でしか止められないことなので責任は不問とされたらしい。我が娘の所為で妻を失った傷は深いものだが……。
「レオ」
「ん?」
「イアさんに教えてもらったんだけど、前世オスカーはね、ステファン伯父様の魂だったんだって」
「そうか。あいつは二度、この国の宰相を務めたのだな」
「あ、王の頭脳ルーデンドルフって伯父様の事だったんだね」
「ああ。あの時父上が亡くなった後、ステファンを宰相に任じた」
「そっかぁ。なんか、運命ってほんとに不思議だね」
「そうだな」
「それと――あの蛇男ね」
「ああ」
「ジュエル男爵の息子の魂だったんだって」
「ああ?あの輩か!前も虫唾が走る男だったが、またしてもマリーを!」
「うぅ……どっちを思い出しても、気持ち悪い!」
んぎゃぁぁ!いきなり何さ!ここは人目がない植物園でも誰が来るかわからないんだぞ!
「俺の事だけ考えていろ。いいな」
こくこくと頷くと、またしてもちゅうをしてくるし!!
分かったから、いい加減離せぇぇ!!
※ ※ ※
学園生活も恙なく過ごし、季節は流れ春を迎えた。学園を卒業し、門出の前日。
「エミリー。今日までありがとう。お世話になったわ」
「はい、王女様」
「元気でね」
エミリーの目尻に涙が浮かぶ。
「……王女様にお仕え出来たことを誇りに思うております」
「貴女の気遣いも助かったわ。一緒に過ごしたことは、忘れないわ」
「勿体のうございます……王女様」
イグニッシュ男爵家には、前世も今世もお世話になった。命の恩人のリズお姉ちゃんの子孫だったんだね。ミラもナタリーも、そしてエミリーも。
「ジャン。今まで見守ってくれてありがとう」
「王女様……勿体ないお言葉でございますよ」
「小さい頃は、散々心配をかけてしまったわね」
てへへと笑えば、ジャンは優しく微笑んでくれる。
「アリーシャにもよろしく伝えてちょうだい」
「承知しました……どうぞ、お元気で」
「ええ。二人も元気で」
学園を卒業して近衛騎士に抜擢されたジャン。近衛騎士は毎年実力主義で入れ替えがあるのだ。私が3歳の時から護衛についてくれて、今まで近衛騎士から外れたことのない彼の実力は相当なものなのだ。変わらず近衛騎士団長の任に就くグランデル侯爵家だが、ジャンはそれに次ぐ実力者らしい。人当たりもよく、後輩たちから慕われる人柄は、私ものびのびとしていられたものだ。
婚礼の日。
国王陛下であるお父様がエスコートできないため、代理のマルケス公爵グレンお兄様と共にバージンロードを歩いて行く。張り切ってお母様が作製してくれた純白のドレスに身を包み、レオが待つ祭壇前に到着した。家族から新しい家族へと手渡される。
同じく純白の装いに身を包むレオは……カッコいい。
この神殿で式を挙げるのは二度目。大主教様が取り仕切る式は厳かに進んでいく。婚姻誓約書にサインをして、私はレオと再び夫婦となったのだ。
式が終了し、入り口付近で待つお父様とお母様の前に進み出た。
「マリー、綺麗よ」
「有り難うございます、お母様」
「ほら、あなた」
「……マリー……いつでもおいで。父はいつでもお前の幸せを祈っているからな」
「有り難うございます、お父様。お二人とも、ご自愛ください」
「ああ、ああ……お前の顔を見れば、いつだって元気になれる。私の可愛い天使」
そう言って、お父様が抱きしめてくれる。
「マリー、あまりお転婆は駄目よ?」
う、ここでもですか……とほほ。
「はい、お母様。心得ています」
「いつでも遊びにいらっしゃい」
「はい。お父様、お母様、今までお世話になりました。じゃあ、行きますね」
「幸せになりなさい」「幸せにね、マリー」
「マリーをよろしくお願いするわね」
「マリーを泣かせたら承知せぬ」
「はい。お任せください、義父上、義母上」
お父様とお母様に満面の笑顔を返し、レオと共に聖堂から外へと歩き出す。クリフお兄様やグレンお兄様、ジャン、エミリー、参列者の皆に見送られ、侯爵家の馬車に乗り込んで神殿を後にした――――。
※ ※ ※ ※
「こら、マリー。勝手に出歩くなと言っただろう」
「むぅ。大丈夫だって言ってるじゃない。何人目だと思ってるの?」
「だから、お前は……転んだらどうするのだ」
今生は初産だが、前世合わせれば4人目なんだけど、相変わらずだよねぇ。
……レオの過保護は……。
「ん?何を考えている」
「大したことじゃないわよ?」
「まあいい。ほら、俺に掴まれ」
「は~い」
レオの腕に手を絡めて、膨らんできたお腹を撫でながら、綺麗な夕陽を眺めて領主館へと帰っていく。
―――その空は、あの日の赤竜のような、紅い紅い夕焼け空であった―――。
ここまでお付き合いいただき、有り難うございました。
これで完結となりますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
最後に―――青薔薇の祝福が皆様のもとへ届くことを願って―――。
(青薔薇の花言葉:神の祝福)
3/29 追記:本当に沢山の方に閲覧いただき、心より御礼申し上げます。




