大神ナツメとアンジェリカ(6/8)
仲直りしましょう
(ナツメ)「ジャンヌさん、どうしましょう?」
ひっかき傷に消毒薬を付けられながらジャンヌさんに相談する。
(ジャンヌ)「婚約者から三日もほっとかれていたとなると怒るのは当然。ですが、アンジェリカは気の迷いにしろ謀反を働いた。それを考えると、彼女から謝罪があるのが当然です」
(ナツメ)「そう言ってくれるだけで助かります。ところで、何で消毒薬?」
(ジャンヌ)「ひっかき傷程度で奇跡は使えません」
(ナツメ)「怒ってます?」
(ジャンヌ)「ちょっとだけ」
救急箱の蓋を閉じるとニッコリと笑う。
(ジャンヌ)「まずは、アンジェリカと仲直りしましょう。一緒に、私が作ったケーキでも食べて」
(ナツメ)「ケーキですか! 楽しみだな!」
(ジャンヌ)「ええ! 久々にナツメと話せるのです! ゆっくりしましょう!」
(ナツメ)「そう言えば、ジャンヌさんとじっくり話すのも久しぶりですね。ここのところ忙しかったから」
(ジャンヌ)「そうですね。ですが、ベールやアール、マール、コストのおかげで余裕が出てきました。後は軽傷者のみですから、少しばかり余裕が生まれました」
(ナツメ)「ベールさんにアールさん、マールさんにコストさんですか!」
(ジャンヌ)「さすが、エーテル国の十英雄と尊敬された人たちです。もしもフランス革命時代に友として戦えれば、大変心強い仲間です」
(ナツメ)「凄いって思ってたけど、ジャンヌさんが褒めるなんて、想像以上に凄いんだな、皆」
(ジャンヌ)「それって私のことをバカにしていませんか?」
(ナツメ)「皆凄いって事です! それよりも、アンジェリカさんを誘って来ます! だからお茶の用意お願いします!」
(ジャンヌ)「高がお茶をするくらいで大声を出さないでくださいよ? 言われなくても用意しますから」
(ナツメ)「だって、ジャンヌさんのお菓子美味しいんです! 久々に食べられて、すっごい楽しみです!」
ジャンヌさんの顔がボッと火が付いたように赤くなる。
(ジャンヌ)「お世辞は良いですから! さっさと呼んできてください!」
くすりと笑いが噴き出る。
(ナツメ)「照れてるんですか?」
真っ赤な顔でムッとされる。
(ジャンヌ)「照れてなど居ません! ただ、ちょっとだけ! 嬉しかっただけです!」
(ナツメ)「ジャンヌさん可愛い~!」
(ジャンヌ)「張り倒しますよ!」
(ナツメ)「アンジェリカさん呼んできますー!」
アンジェリカさんの自室に着く。
さてさて、どうしたものか? ニッコリとハニーと呼んだら? ふざけすぎだ。だいたい僕の口にそんな単語は無い。となると、結局はノックして、挨拶するくらいだ。
地味すぎる。
(ナツメ)「でも、今回はジャンヌさんのお菓子もあるし、大丈夫かな」
コンコンとノックする。
(ナツメ)「アンジェリカさん? ナツメです」
(アンジェリカ)「シャアー!」
バリバリバリ! また顔面を引っ掻かれた。
(アンジェリカ)「近寄んな!」
バタンとドアが閉じられる。
(ナツメ)「さ、さすがに理不尽だと思いますよ?」
対策を練ろう。
(ナツメ)「というわけで、トルバノーネさん! お願いします!」
(トルバノーネ最高司令官)「何で休憩しようと思った矢先にガキのお守なんぞしなくちゃならねえのか?」
(ナツメ)「まぁ、そう言わないでくださいよ。あそこまで嫌がられると僕も意地になっちゃうんで」
(トルバノーネ最高司令官)「ガキの痴話げんか位ガキで解決してほしいもんだ」
ゴンゴンとトルバノーネさんがノックする。
トルバノーネさんだったらアンジェリカさんの攻撃を防げる!
(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「王様が女を説得するために人を頼るなんて、恥ずかしくないのか?」
(ナツメ)「細かいことは気にしない! 強行突破! アンジェリカさん! ジャンヌさんがおかし作ってくれましたから一緒に食べましょう!」
ドアを思いっきり開ける!
ガラガラガラ!
なぜタライが落ちてくる? コントかよ?
(トルバノーネ最高司令官)「罠だとさすがに防げねえわ」
(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「突っ込むバカは助けられねえ」
呆れている暇があったら助けてくださいよ? だいたい数十個のタライどうやって用意したの? というか埋もれて苦しい。
(アンジェリカ)「近づくなって言ったでしょ! というか邪魔! さっさと出て行って!」
埋もれているのに無茶言わないでよ!
(アンジェリカ)「あぁーもう! イラつくわね!」
(トルバノーネ最高司令官)「ちょいと待ちなアンジェリカ! さすがにそれ以上はやりすぎだ」
(アンジェリカ)「と、トルバノーネ!」
埋もれてて全然わからないけど、多分アンジェリカさんが僕を踏みつけようとしたところをトルバノーネさんが止めた。
(アンジェリカ)「トルバノーネ! キール! それにザックやウォルたちも! エーテル国軍十英雄と呼ばれるまでのあなたたちがなぜこんなところに!」
(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「なぜって?」
(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「暇つぶし以外にあるか?」
(エーテル国軍狙撃部隊隊長ウォル)「黒き者どもは居ないし反乱分子も居ないで糞みたいな書類とにらめっこしている生活に飽き飽きしてる。ちっとばっかし気晴らしは必要だ」
(エーテル国軍白兵戦部隊隊長バーリ)「体が鈍ってきた」
(エーテル国軍汎用部隊隊長コスト)「優秀な部下が居ると上は暇でしょうがないです」
(エーテル国軍防御部隊隊長アール)「まあ、平和でいいじゃないですか。昼寝もたっぷりできます」
(エーテル国軍輸送部隊隊長マール)「こっちはまだまだ忙しいぜ? お前らと違って明日も仕事だ」
(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「贅沢な悩みでしょう。むしろ、平和になったからこそ、私たちが注目されるのですから」
(エーテル国軍諜報部隊隊長ニッキー)「んなことよりジャンヌのお菓子を食おうぜ。たまには甘いものを食わねえとストレスが溜まる」
やっとタライの山からはい出ると、トルバノーネさんたちはぷんすか怒るアンジェリカさんを差し置いて笑っていた。
(アンジェリカ)「あ、あんたたちね!」
アンジェリカさんが一歩踏み出る!
(アンジェリカ)「私はアンジェリカ・エーテル! あなたたちの王女よ! ひれ伏しなさい!」
(トルバノーネ最高司令官)「お断りします」
(アンジェリカ)「……はぁ?」
間髪入れぬ答えに、アンジェリカさんは言葉を失う。
(トルバノーネ最高司令官)「言っておくが、俺たちはすでにエーテル国軍じゃねえ。大神帝国直属軍だ。その権力はアウグストゥスと同じ、もしくはそれ以上だ」
(アンジェリカ)「な、何を言っているの?」
エーテル国軍歩兵部隊隊長キール改め、大神帝国直属軍歩兵部隊隊長キール。
(大神帝国直属軍歩兵部隊隊長キール)「つまり俺らは大神ナツメの手足ってことだ」
エーテル国軍切り込み隊隊長ザック改め、大神帝国直属軍歩兵部隊副隊長ザック。
(大神帝国直属軍歩兵部隊副隊長ザック)「しっかしまあ、キールの下に着くとは思わなかった」
エーテル国軍狙撃部隊隊長ウォル改め、大神帝国直属軍狙撃部隊隊長ウォル。
(大神帝国直属軍狙撃部隊隊長ウォル)「お前は突っ込みすぎるから歩兵術の一つでも学べ」
エーテル国軍白兵戦部隊隊長バーリ改め、大神帝国直属軍歩兵部隊副隊長バーリ。
(大神帝国直属軍歩兵部隊副隊長バーリ)「しかし、ハンニバルの奴。組織系統の見直しとか抜かして、俺がキールの下だと!」
エーテル国軍汎用部隊隊長コスト改め、大神帝国直属軍支援部隊副隊長コスト。
(大神帝国直属軍支援部隊副隊長コスト)「隊長が多すぎたし、指揮系統の分かりやすさを考えると、これでいいんじゃないかな?」
エーテル国軍防御部隊隊長アール改め、大神帝国直属軍歩兵部隊副隊長アール。
(大神帝国直属軍歩兵部隊副隊長アール)「まあまあ、面倒事が無くなって良かったじゃないですか」
エーテル国軍輸送部隊隊長マール改め、大神帝国直属軍支援部隊副隊長マール
(大神帝国直属軍支援部隊副隊長マール)「そうそう。結局、ハンニバルが全部管理するんだから」
エーテル国軍炊事係隊長ベール改め、大神帝国直属軍支援部隊隊長ベール。
(大神帝国直属軍支援部隊隊長ベール)「私としてはありがたいです。何せ昔なら未だしも、今は十万を超える兵士たちの管理を行わなくてはいけないのです。正直、コストが副隊長になってくれて嬉しいです」
(大神帝国直属軍支援部隊副隊長コスト)「俺はどっちかって言うとルビーたちが出世してくれて嬉しいよ。俺たち以上に頑張っているのに俺たちの下って言うのは可愛そうだ」
エーテル国軍汎用部隊1番隊隊長ルビー改め、大神帝国直属軍支援部隊総括隊長ルビー。
(大神帝国直属軍支援部隊隊長ベール)「私たちは所詮荒くれ物。やる気のあるベッキーたちに任せた方が良い」
エーテル国軍炊事係1番隊隊長ベッキー改め、大神帝国直属軍後方支援部隊総括隊長ベッキー。
エーテル国軍諜報部隊隊長ニッキー改め、大神帝国直属軍諜報部隊隊長ニッキー
(大神帝国直属軍諜報部隊隊長ニッキー)「実質的にあいつらはトルバノーネの秘書だからな。それでも、気を抜いたらマジで立場逆転するけど、今はとにかく、ご愁傷さまだ」
(トルバノーネ最高司令官)「お前らグダグダうるせえぞ。ハンニバルの決定だ。文句言うな」
(大神帝国直属軍歩兵部隊隊長キール)「そうだな。女でも引っかけに行くか」
(トルバノーネ最高司令官)「そうすっか! たまにはパーとやらなくちゃな!」
(アンジェリカ)「あんたら私のこと忘れてんじゃないわよ!」
アンジェリカさんが顔をリンゴよりも赤くして叫ぶ。
(トルバノーネ最高司令官)「悪い悪い! だがまあ、とにかく理解してくれ。俺たちはもうお前の味方じゃねえ」
(アンジェリカ)「と、トルバノーネ」
アンジェリカさんがたじろぐ。
(トルバノーネ最高司令官)「ナツメは俺たちの王様だ! それに謀反した! ナツメは許したが俺たちは許さねえ! 今ここに居ることが奇跡と思え!」
(アンジェリカ)「トルバノーネ! こいつらは異世界人よ! あなたも嫌っていたじゃない!」
(トルバノーネ最高司令官)「確かに今も嫌いだ。だが、ナツメは違う。ナツメは王様だからな」
(アンジェリカ)「私だって王女よ!」
(トルバノーネ最高司令官)「めんどくせえ! だから一まとめに言う! 俺たちはナツメに惚れている! それだけだ!」
アンジェリカさんが言葉を失う。
トルバノーネさんがため息を吐く。
(トルバノーネ最高司令官)「少なくとも、王様の寝首を引き裂こうとする奴に比べれば」
(アンジェリカ)「トルバノーネ! 私はあなたが好きだった!」
(トルバノーネ最高司令官)「何年前の話だ? それに俺が断るとすぐに俺に見切りをつけただろ? そして今度はアウグストゥス、それがダメだからナツメだ。節操なしにもほどがあるぜ?」
(アンジェリカ)「トルバノーネ!」
(トルバノーネ最高司令官)「めんどくせえから終わりにするが、男舐めんな? 女の反応1つで惚れてんのか愛想笑いかくらいわかる!」
(大神帝国直属軍歩兵部隊隊長キール)「こいつ振られた数だけなら俺たちよりも上だからな! あんま虐めるなよ? 前なんて金貨十枚やったのに逃げられたんだぜ?」
(トルバノーネ最高司令官)「キール! 俺に喧嘩売ってんのか!」
(大神帝国直属軍歩兵部隊隊長キール)「売ってるに決まってんだろバカ野郎! 他にも良い女が寄ってきたのにやるだけやって無視する癖によ!」
(トルバノーネ最高司令官)「それはてめえも同じだろ!」
トルバノーネさんとキールさんのクロスカウンター!
(大神帝国直属軍支援部隊隊長ベール)「アンジェリカ、今はとにかく反省するべきです」
(大神帝国直属軍歩兵部隊副隊長アール)「気持ちは分からなくも無いですが、行動が不味い」
(大神帝国直属軍支援部隊副隊長コスト)「思うだけならタダだけど、付いて行ったらヤバいぞ? あいつらの身元をコペルニクスが保証したから良いものの?」
アンジェリカさんがブルブルと俯く。
(大神帝国直属軍支援部隊副隊長マール)「皆、もう止めよう。十分反省している。これ以上鞭を打つ必要も無い」
(大神帝国直属軍歩兵部隊副隊長ザック)「悪い事したらぶん殴るだろ? まだ殴ってねえぞ?」
(大神帝国直属軍狙撃部隊隊長ウォル)「いくら何でもバカだろ? 精々、牢獄だ。それすらもやってねえから腹立つんだけどな!」
(大神帝国直属軍歩兵部隊副隊長バーリ)「俺はアンジェリカのことは頑張り屋だと思っている。だから仲間だと思っている。だからこそ、誠意ってもん見せてくれないと納得できねえがな」
(大神帝国直属軍諜報部隊隊長ニッキー)「とにかく、謝れ。そうすりゃ俺たち皆納得する」
(トルバノーネ最高司令官)「おいてめえら」
(大神帝国直属軍歩兵部隊隊長キール)「人シカトして着々と話進めてんじゃねえぞ」
(大神帝国直属軍支援部隊隊長ベール)「喧嘩終わりました?」
(アンジェリカ)「あ、あんたたち! お父様に忠誠を誓いながら、よくもそれほどの手の平返しを!」
(トルバノーネ最高司令官)「喧しい! 誠意も何も見せないで許されると思うなよ!」
不味い。険悪を通り越して最悪だ。
トルバノーネさんたちは明らかに言いすぎだ。もしかすると僕の認識がズレているのかもしれないけどやりすぎだ。
(ナツメ)「アンジェリカさん! お腹空いたので出直してきます! トルバノーネさんたちも出直しましょう」
トルバノーネさんの腕を引っ張る。
(トルバノーネ最高司令官)「たく、ナツメは甘いな。砂糖よりも甘い」
トルバノーネさんが顎をしゃくるとベールさんたちも後に続く。
(トルバノーネ最高司令官)「アンジェリカ。もう説教はしねえけど、自分のやったことの事の重さは自覚しろよ」
(ナツメ)「早く行きましょう!」
今にも泣きだしそうなアンジェリカさんに胸が痛くなったので、急いでアンジェリカさんから離れた。
(ナツメ)「どうしたらいいと思います?」
たまたま廊下で出会った沖田さんに相談する。
(沖田)「アンジェリカが反省したことを示すしかないだろ」
沖田さんがため息を吐く。
(ナツメ)「そうかもしれませんけど、いくら何でも皆やりすぎだと思います。これじゃあアンジェリカさんが可愛そうだ。高が話を聞いたくらいでここまで責められるなんて理不尽ですよ」
(沖田)「とはいっても、アンジェリカは明らかに反逆の意思を見せちまった。反逆の意思があった。それが一番の問題だ。お前がアンジェリカを許さなかったら今頃アンジェリカは処刑されていたはずだ」
(ナツメ)「皆大げさですよ」
(沖田)「俺の時代なら、徳川家に反逆しようとする発言をしただけで最悪死刑だぞ?」
(ナツメ)「だから大げさですよ」
(沖田)「そうは言っても、問題は問題だ。今はまだ国が出来たばかりで、復興もできていない。反攻勢力は居なくなったけど、また出てくるかもしれない。それに、反逆の意思を見せても何のお咎めも無しだと舐められる。そうなると調子に乗る奴が出てくる」
(ナツメ)「皆大変なのは分かりますけど、やっぱり大げさですよ」
沖田さんがため息を吐く。
(沖田)「皆お前が心配なんだよ。だからアンジェリカが誠意を見せるまで許さない。謝るまで許さない。だいたい、話を聞いただけって言ったって、明らかに反逆の意思があって、そのつもりで付いて行った。本来なら牢獄行きだ。それを謝れば許してくれる。なのに謝らない。責められてもしょうがねえ」
ため息が出る。
(ナツメ)「何だかもう永遠に仲直りできない気がしてきた」
沖田さんが頭を掻く。
(沖田)「俺たち軍人関係者よりも、ジャンヌとかコペルニクスとかダヴィンチに話を聞いたらどうだ?」
(ナツメ)「というわけで、何かいい案ありますか?」
(ジャンヌ)「しかし、私も軍人です。これ以上、アンジェリカを責めるつもりはありませんが、アンジェリカが謝らない限り、皆は納得しないでしょ」
うんうんとジャンヌさんと一緒に唸る。
(ダヴィンチ)「発想の転換。まずはナツメが謝ったら?」
(ナツメ)「僕ですか?」
バリバリとポテトチップスを食べながら漫画を読むダヴィンチさんを見る。
(ダヴィンチ)「発想の転換。押してダメなら引いてみる。行き詰った時は、別のことをやって気晴らしをする。そうしたらいつの間にか、天才って呼ばれる」
ちょっと考えてみる。
(ナツメ)「何でアンジェリカさんは謝らないんでしょうか? 何が気に入らないんでしょうか?」
(ダヴィンチ)「そんなの簡単。謝りたくないから。怒っているから」
(ナツメ)「気持ちは分かりますけど……何せ僕たちは洗脳しましたから」
(ダヴィンチ)「多分それは関係ないんじゃないかな? もしそれを恨んでいるならトルバノーネたちも責められているはずだし」
(ナツメ)「えっ?」
(ジャンヌ)「そう言えば、私は責められていませんね」
(ダヴィンチ)「僕もそう。会話はしないけど、この前服を届けに部屋に入っても何もされなかった。それはアウグストゥスも他の貴族もそう。まあ、喋りかけても相づちだけだったけど」
意外だ。狂犬みたいに噛みつきまわっていると思ったのに。
(ジャンヌ)「ナツメだけに辛く当たるとなると、やはりナツメに理由があるのでしょう。三日も忘れられていたら怒るのは当然ですけど」
うーん。
(ナツメ)「とりあえず謝りに行きます」
コンコンとノックする。
(ナツメ)「アンジェリカさん? ナツメです。話を聞いてください」
返事がない。再度ノックする。返事がない。
(ナツメ)「入りますよ?」
そっと警戒しながら入る。
カーテンが閉じられていて、昼間なのに薄暗い。
そんな中、アンジェリカさんがベッドで膝を丸めていた。
(アンジェリカ)「何の用?」
暗い。薄暗いだけなのにアンジェリカさんを見たくないほど暗い。
(ナツメ)「その、仲直りにきました」
(アンジェリカ)「仲直り?」
暗闇から獣の眼光が光ったような気がして身がすくむ。
(ナツメ)「ええっと、僕はアンジェリカさんのことをほったらかしにしていました。改めて、謝ります。ごめんなさい」
重い沈黙。針の上に居た方がマシだ。
(アンジェリカ)「良いわよ。それはもう。私が顔を出さなかったのが原因でもあるし」
ふて腐れたような物言い。アンジェリカさんを見ると、プッと頬を膨らませていた。
(アンジェリカ)「でも、やっぱり、嫌だな。私、もう王女じゃないんだもの」
黙って話を聞く。
(アンジェリカ)「前は、トルバノーネもお父様もアウグストゥスもハンニバルも私をちやほやしていた。なのにいきなり身の程を弁えろ? 百八十度通り越して五百四十度の手の平返し。手首が千切れちゃう」
何も言えない。
アンジェリカさんの心境は理解し切れない。だけど、彼女が傷ついていることは分かった。
そっと、ひそかに用意していた紅茶をカップに注いでアンジェリカさんに手渡す。
(アンジェリカ)「これは何?」
へらへらと笑う。
(ナツメ)「ジャンヌさんが用意してくれたんです。折角だから、一緒に飲みましょう」
(アンジェリカ)「何であんたなんかと?」
うーん。ここで引き下がるとまたエンドレスだ。さすがにイライラする。
(ナツメ)「いい加減、仲直りしたいんです」
(アンジェリカ)「何であんたなんかと?」
(ナツメ)「僕は! アンジェリカさんと仲良くしたいんです! 何せアンジェリカさんの婚約者ですから!」
(アンジェリカ)「こ、婚約者!」
(ナツメ)「文句は今までたっぷり聞きましたから良いです!」
強引に手渡して、アンジェリカさんの前に椅子を持っていき、座る。
(ナツメ)「ただ、理由を教えてください。謝ります。それで婚約しろとか仲良くしろとは言いません。ですから、教えてください。そして、できれば、僕と友達に成ってください」
アンジェリカさんが顔を膝に埋め隠す。
(アンジェリカ)「できれば友達って、できれば結婚とか言わないんだ!」
何だと? 待て落ち着けこれはどういうことだ?
(ナツメ)「その、まずはお友達からって言いますから」
(アンジェリカ)「何それ! 笑える」
クスクスとアンジェリカさんが目線を上げて笑ったので、僕も思わず笑う。
(アンジェリカ)「正直、ここまで、あなたたち異世界人を民衆が認めているとは思わなかったわ。私は、あなたたちが洗脳したから、信用なら無いと判断して行動した。でも、大半の民衆が受け入れている。民衆じゃないかもしれない。でも、お父様、トルバノーネ、お母様、家臣であった貴族たちも受け入れた。ショックよ。今まで頑張ってきたことが、蠟燭の火よりも儚く消えてしまった」
ふーとアンジェリカさんがため息を吐く。
(アンジェリカ)「でも納得できる。黒き者どもを倒したのはあなたたち、結果オーライ。何もできなかった私が叱られても反攻できない。気に入らないけど、結果。過程はどうでもいい。ほんとムカつく。でも仕方ない。本当に! ムカつく」
アンジェリカさんが紅茶に口を付ける。
(アンジェリカ)「でも私は納得してみせる! 腐ってもエーテル国の王女! それに今はアウグストゥス直属の貴族! チャンスはある! 今は地に落ちようとも必ず這い上がる! そして! 必ず王女と呼ばれるようになる!」
だんだんと床を踏みつける!
(アンジェリカ)「なのに何であんたが支配者! 気合が抜けちゃうじゃない!」
(ナツメ)「……えっ?」
(アンジェリカ)「何であんたみたいな女が支配者なのよ! 私が支配者でもいいじゃない! だいたい普通は男子が支配者になるべきでしょ! 何で女のあなたが支配者なのよ!」
(ナツメ)「その、色々と、三百六十度首をねじ切ってさらに半回転くらいの誤解がある気がします」
(アンジェリカ)「うるさい! 女ってのは! 権力者の道具なの! 何にも自由なんて無い! 一生懸命! いつか現れる男のために人生を費やすの! それなのにあなたは!」
(沖田)「ちょちょちょ! たんまたんま! 何だよ? 黙って見てたらなんだなんだ!」
アンジェリカさんが枕を投げたところで沖田さんが割って入った!
(ナツメ)「沖田さん! いつの間に!」
(沖田)「散歩がてら城をうろついていたら、たまたまお前らの声が聞こえてよ! ちょいと割り込ませてもらうぜ!」
沖田さんが僕の背後に回る! 回る?
(沖田)「アンジェリカ! お前これを見てナツメが女だって言えるか!」
ズル! 何か? が落ちた?
アンジェリカさんの目が点になった。
(ナツメ)「何をするんですか!」
急いでスカートとパンツ? を履き直す!
(沖田)「良いじゃねえか! アンジェリカも目を覚ましたぜ!」
(アンジェリカ)「おおおおお、おおおおおおおおおお」
バグってるんですけど?
(アンジェリカ)「男のくせに何で女の服着てんのよ!」
(ナツメ)「違います! 男物が無かったんで仕方なく! というかあの時は学生服着てたでしょ! 男物ですよ!」
(アンジェリカ)「今まで助走しておいて何を言うの!」
(沖田)「もっともな意見だ! こうしてドレス着てる男にそれは言われたくねえ!」
(ナツメ)「誰のせいなんでしょうかね!」
(アンジェリカ)「うるさいうるさい! この変態!」
(沖田)「まあまあ落ち着けってアンジェリカ! 中々に立派なもの持ってただろ!」
(アンジェリカ)「確かに見た目以上に……って何を言わせるの!」
(沖田)「まあまあいいじゃねえか! 障害は何もなくなった! 後は結婚するだけだ!」
(アンジェリカ)「勝手なこと言うなこの野郎!」
渾身の張り手を飄々と避けられると、アンジェリカさんは肩で息をする。
(アンジェリカ)「ナツメが男だってのは分かったわ! 女装する変態野郎ってことも!」
どうすればいいのこれ? いや僕も悪いけど。というか女ものの服を着ていても全く気にならない感性がダメなんだろうけど。
(ナツメ)「えっと、とりあえず、仲直りしませんか?」
(アンジェリカ)「馬鹿じゃないの!」
(沖田)「まあまあ落ち着けって。茶の一つもしてないのにギスギスしちゃいけねえ! ジャンヌと一緒に町へ行こうぜ!」
(ナツメ)「えぇ!」
(アンジェリカ)「ちょっとあんた!」
(沖田)「うるせえ! 行くぜ!」




