大神ナツメとアンジェリカ(5/8)
まだ続きます
(フィーカス)「あの時は本当に申し訳ない!」
(ハボック)「申し訳ねえ! 魔が差したんだ!」
(バルーン)「本当に済まない!」
フィーカスさんたちとゴタゴタがあった三日後、自室でアウグストゥスさんに渡された書類を読んでいるとフィーカスさんたちが自室に突然謝りに来た。
ちょっと嬉しかった。
やっぱりフィーカスさんたちは良い人だ。
(ナツメ)「わざわざ謝りに来てくれてありがとうございます」
ペコリと頭を下げる。
(フィーカス)「えっ? あの、どうしてお礼を?」
(ナツメ)「だって、わざわざ謝りに来てくれるなんて普通ないですよ。だからすっごく嬉しくて」
(ハボック)「ん? ん?」
(バルーン)「あ、頭を上げてください。ナツメ様がしていい事じゃない」
ん? 何か変なこと言ったのかな?
(コペルニクス)「フィーカス。これで分かっただろ。ナツメは優しいんだ。無垢な白いバラだ。世話をしてやらなけりゃ汚れてしまう」
突然コペルニクスさんが入ってくる。
(ナツメ)「コペルニクスさん? アウグストゥスさんたちと外交に行ったんじゃ?」
(コペルニクス)「私の仕事は運び屋。運んだらそこまで。また呼ばれるまでここに居ます」
(ナツメ)「そうなんですか。それで、コペルニクスさんとフィーカスさんたちって知り合いなんですか?」
(コペルニクス)「良き友人です。ナツメにとっても」
コペルニクスさんは言いながら僕の机に置いてあった書類を手に取る。
(コペルニクス)「これは、現在新生ローマ帝国で起きている課題の一覧と詳細、そして対策案ですね。アウグストゥスの宿題ですか?」
(ナツメ)「そうです。とりあえず、全部読みました」
(コペルニクス)「千ページ以上、電話帳並みの分厚さの書類をもう読めてしまったのですか?」
痛いところを突かれる。
(ナツメ)「実は、飛ばし飛ばしに読んでて。詳細も対策案も全然把握してません。たぶん実質呼んだのは百ページも無いと思います」
(コペルニクス)「別に怒っている訳ではありません。詳細も対策案もやる時に見ればよいのです。もちろん、詳細や解決案も重要です。時にじっくり見れば何か分かるかもしれません。ですが、百以上の課題の詳細をいちいち確認していたら意味がありません。課題はすでに危機になっていますから」
(ナツメ)「えっと? つまり僕は正しいことをしたんですか? 一応概要はすべて読みましたけど」
(コペルニクス)「概要を読んだ! そうです。それでいいんです。それに、これを書いた方々はあなたよりも頭が良い。つまり、あなたが難しく考える間に、すでに対策を練り、実行しています」
(ナツメ)「あの、何だかバカにされている気がするんですが? 僕の行為は無意味と聞こえるんですが?」
(コペルニクス)「無駄ですよ。あなたの努力は無意味。なぜなら、その努力はすべての人が行っているのです」
泣きたくなった。というか涙が出た。
(バルーン)「あ、あの! ナツメ様! 大丈夫ですか!」
(ナツメ)「バルーンさん! 今僕はあなたたちが居て本当に嬉しい!」
バルーンさんに抱き付く!
(フィーカス)「えっと? 頑張れよ」
(ハボック)「ま、まあ。気にすんな。とりあえずあいつらの言うこと聞いてれば金貰えるんだから」
皆に慰められて嬉しい。
(ナツメ)「ありがとうございます……正直コペルニクスさんもアウグストゥスさんも皆厳しいを通り越して冷たくて」
(フィーカス)「あんな分厚い本読めるんだから十分すげえよ! 大したもんだ! なあお前ら!」
(ハボック)「そうだそうだ!」
(バルーン)「あなたが頑張っていることは私たちも知っています。だから泣かないでください」
散々泣いて落ち着いた。
(ナツメ)「ありがとうございます。今まで泣くに泣けなかったんで、すっきりしました」
(バルーン)「泣けなかった?」
(ナツメ)「だってアウグストゥスさんもコペルニクスさんもハンニバルさんも酷いんですよ! 初めは優しい言葉で惑わして、いざ頑張るとあれがダメこれがダメの文句ばっかり! しかも文句って言ったらダメなんです! ご指摘って言わないとダメなんです! 正直嫌になりますよ! そうでしょ!」
(フィーカス)「あぁー若いころを思い出す」
(ハボック)「やっべ。すっげえ分かる。俺はそれが嫌でゴロツキになったから」
(バルーン)「分かりますよ。もちろんそれが正しいことは分かっている。ですが心はどうしようもない。恥ずかしながら、昔、それが原因で体を壊してしまって。それでも嫁と娘は一生懸命付いて来てくれました。しかしそれが原因で金が無くなってしまい。せめて家族に良い思いをさせようと思っていたら、バカなことをするように」
バルーンさんの手をギュッと握る!
(ナツメ)「バルーンさんは間違ってないです! というか何かもうなぜか他人事とは思えないくらい身に沁みます!」
バルーンさんもギュッと握り返してくる。
(バルーン)「なぜか私もあなた様が他人のように思えない! まるで亡くなった弟を見ているようだ!」
(ナツメ)「弟が居たんですか!」
(バルーン)「はい! 病弱で、いじめられっ子でした。ですがとてもかわいい子でした。あの時の私は弟を守るために頑張りました。弟を守るために体を張りました! ひとえに弟に笑って欲しかったから。ですが弟は死んでしまいました。病でした。ですがそれは間接的な死因でした。死因は黒き者どもです! 運が悪かったと言えばそれまでですが、病気で逃げ切れなかった」
(ナツメ)「そ、そんなことが」
(バルーン)「ナツメ様! 聞いてください! 私は弟を見捨てたのです! あれだけ守ろうと思ったのに! 運が悪かった! そう言ってください! そして罵ってください! あの時、朝日が照る草原で遊んでいた時に黒き者どもが突然現れた! 本当に突然だ! そして私は弟を置いてわき目も振らずに逃げ出してしまった! 手も引かずに! 次の日! 弟は死骸となって私の前に現れた! 獣たちに食い荒らされた姿で! その時の! 片方だけ残った目玉は確かに私を見ていた! ナツメ様! 私を許してください!」
(ナツメ)「バルーンさん! 止めてください! もうあなたは許された!」
(バルーン)「あの目が私を見ていたんです! 嘘を吐いたなと責めてくる! 私は怖い! 妻も娘も居るのに! あの目が見える! そして! 妻たちの目が! あの目になる! 私は弱い! どうしようもない!」
バルーンさんは狂乱状態に陥った。フィーカスさんたちもため息を吐く。何時もの事なのかもしれない。
だったら、多分、バルーンさんは大丈夫だ。
ため息を吐きながらも、一緒に居てくれる仲間が居るんだから。
そっとバルーンさんの額に口づけする。
(ナツメ)「落ち着いて。僕が傍に居る。皆が傍に居る」
硬く握りしめる手をフィーカスさんたちに向ける。
(ナツメ)「バルーンさんは一人じゃないです。だから、立ってください。泣いてください。皆が居ますから」
バルーンさんの手をフィーカスさんに向けると、フィーカスさんはため息を吐きながらも握りとる。
(バルーン)「お、親分!」
(フィーカス)「しっかりしろ! 俺たちはしがないゴロツキだ。だけどだからこそお前を受け入れた。きついし給料は安いしバカ野郎ばっかだけど受け入れた。お前が仲間だからだ!」
(バルーン)「親分!」
ボロボロと泣くバルーンさんに手を握られて、フィーカスさんは頭を掻く。
(フィーカス)「良いか! 俺もガキのうちに母ちゃんが死んで路地裏生活! ハボックは売春婦の息子で毎日糞みたいな言葉を言われてきた! お前だけじゃねえ! 俺たち皆そうだ! 首を吊った奴が居れば貴族なのにいつの間にか黒き者どもに殺されて独り身になって親戚に金をむしられた奴も居る! 皆お前の気持ちが分かる! だから裏切らねえし見捨てねえ。だからどんどん泣け」
(バルーン)「親分! ありがとうございます!」
ボロボロと絨毯にバルーンさんの涙が雨のように零れる。
明日は、快晴になるだろう。
(フィーカス)「俺たちよりもナツメ様に感謝しろ! てめえの言葉を最後まで聞いたんだぞ! 皆そっぽ剥いて帰るくらいの話によ!」
(バルーン)「親分」
(フィーカス)「俺たちの話なんて誰も聞かねえ! 金にならねえからな! だけどナツメ様は聞いてくれた。仕事で忙しいだろうに。だから、ナツメ様に感謝しろ。正直俺たちはお前の懺悔を百回は聞いた! 聞きなれてんだ! だから感謝される言われはねえよ」
バルーンさんがフィーカスさんの手を離れて、こちらに手を向ける。
僕はすぐに握手をする。
(ナツメ)「やっぱり、バルーンさんは優しい人だ。話が聞けて、良かったです」
バルーンさんが崩れ落ちる。
(バルーン)「ナツメ様……ありがとう、ありがとう!」
(フィーカス)「くそったれ! 今日は嫌に泣けるじゃねえか!」
(ハボック)「ぶっちゃけ何時もの事なんですけどねぇ~。でもまあ、悪い気分じゃない。飲み行きましょう! この金で!」
ハボックさんがジャラジャラと金貨の詰まった袋をかざす。
(フィーカス)「お前! どっから持ってきた!」
(ハボック)「親分が持ってたんじゃないですか?」
(フィーカス)「何だと! 俺の金を盗んだのか!」
(ハボック)「盗んだって言ったって、何でこんなに金持ってたんですか? 水臭いですよ? こんなに拾ったなら分けてくれてもいいじゃねえですか」
ジャラジャラと袋の音を聞くと、フィーカスさんは首を捻り、紐を解く。
(フィーカス)「何だこの金は!」
(ハボック)「親分が持ってたんじゃないですか?」
(フィーカス)「俺が持っていた? なら俺の金だ! お前ら! 飲みに行くぞ! ハボック! 返せ!」
(ハボック)「言って! 殴んなよ!」
(フィーカス)「喧しい! それより、ナツメ様も来てくれや。良い店を知ってるんだ」
(ナツメ)「僕も行っていいの!」
(フィーカス)「良いぜ良いぜ! 酒を注ぐのは婆しか居ねえが俺たち以外に来る奴も居ない! それにあいつらは婆のくせに歌も踊りも料理も美味い!」
(ハボック)「テクもすげえんだよなぁ……一番若い奴で四十代なのに暗い部屋だと天使に見えちまうからな。正直、あいつらのせいでそこら辺の女は抱けねえんだよ。マジで女は魔性だ」
(バルーン)「ハボック! ナツメ様の前で下品な口を開くな! 縫い合わせるぞ!」
(ハボック)「あぁ! 泣き虫野郎が! てめえの女に言ってやろうか! てめえは他の女に夢中ですって!」
(バルーン)「残念だがそれは無い! 私は妻以外を抱いたこともないし抱きたいとも思わない! それに私の妻はまだ三十代だ! 良い女だ。抱いても抱き足りないくらいだ。正直、夜は子供部屋と寝室の近さと壁の薄さにうんざりしている。毎日家族一緒で寝ているが、時には二人だけになりたいと思う時もある」
(ハボック)「うるせえ野郎だ! 童貞野郎が! 数年前に女が出来て調子づきやがって! 絶望で泣いてる時に昔馴染みで誘ってやった時は泣いて喜んだのに!」
(バルーン)「うるさいのはお前だ! 言っておくが、過去に数十人、数百人の女を抱いた話を聞いてもちっとも羨ましくないぞ! 運命の人に出会えなかったことを憐れんでいる!」
(ハボック)「だったらお前の女に、てめえの初めての奴を言ってやろうか!」
(バルーン)「お前! 親友と言えどそれは許さんぞ!」
(ハボック)「やるってのかてめえ!」
(フィーカス)「てめえら早口でうるせえ!」
ボカンとフィーカスさんがうるさいバルーンさんたちをぶん殴る。
(フィーカス)「喧嘩は飲み比べだ! 俺たちの決まりだろ!」
(ハボック)「そうだった! だから安酒しか飲めないけどな! バルーン! また負かしてよ!」
(バルーン)「お前! いつもいつも私の悪口を言うくせにこういう時は調子が良いな」
(ハボック)「あったりめえよ! 俺はお前が大好きなんだ!」
(コペルニクス)「てめえら! 俺を無視して出て行くな! 特にナツメ! 私を置いて遊びに行くな!」
いつの間にか僕の机の傍に立っていたコペルニクスさんに驚く!
(ナツメ)「コペルニクスさん! いつの間に!」
(コペルニクス)「ナツメ? いつからそんな人を傷つけるような単語を覚えた?」
(フィーカス)「何でコペルニクスが居るんだ?」
(ハボック)「コペルニクスって誰?」
(バルーン)「確か? 商人です。何を売っているのか知りませんが」
(コペルニクス)「分かった! お前らの言葉は忘れる!」
コペルニクスさんが僕の隣に立つ。
(コペルニクス)「飲みに行く前に、楽しいお遊びの前に、頭の痛い政治の話だ。ナツメ? なぜこの二つの課題に折り目を付けた?」
コペルニクスさんが書類のページをめくる。
(コペルニクス)「一つは戦死者の葬儀、一つは別れ場馴れになった家族との再会を支援。葬儀は優先度中、家族との再会は優先度低だ」
(ナツメ)「それは、たまたまです」
(コペルニクス)「たまたまは止めろ。直感を大事にしないのは愚の骨頂だ」
(ナツメ)「そんなこと言われたって。ただ目についただけです」
(コペルニクス)「確固たる理由がある。この二つはページの奥の奥。目を皿にしないと気づかない。おまけにこのページだけは、下線を引いたりと実に熱心に見ている。詳細ページも対策案も。余さずに」
(ナツメ)「だから、僕には分からないんです」
ため息が出る。
(ナツメ)「一生懸命見ました。どれも優先度高の課題は全部見ました。でもどれもピンとしなかった。僕の中では、精々、優先度中程度何じゃないかって思いました」
(コペルニクス)「つまり君の中ではこれら二つが優先度高だった。何故かな?」
(ナツメ)「何故かって聞かれても? 僕は、井戸の設置や家屋を建てるよりも簡単だと思ったんです」
(コペルニクス)「簡単! なるほど。どうして?」
(ナツメ)「その書類を読むと、避難民、いや、戦争被害者に行き渡る水を行き渡らせるために井戸が必要。住む家が必要とありました。もちろん食糧問題もありました。ですがどれもこれも、優先すべきじゃない。だって、テントがあるし、数キロ離れたところに川がある。食料だってコペルニクスさんたちが集めたものをトルバノーネさんたちが配ってる。医療もすべてを修復するジャンヌさんが居る。何より彼女のアイテムがある。そう考えると、優先するべきなのかなって」
(コペルニクス)「数キロ先に水をくべに行くだけでどれだけの力が居るだろうか? テント暮らしで十分とはこの城で暮らしている君の傲慢じゃないかな? 食糧問題もすぐに解決しない。すでに住民は困っている。なのに今から対策を打つべきでないと言うのかな?」
やっぱり言葉に詰まる。
コペルニクスさんたちの嫌なところは、徹底的な理詰めだ。
それで何も反論できなくなる。
(バルーン)「あんた? 本当にナツメ様の家臣か?」
(ハボック)「なんかいけ好かねえな。俺の母親を見てるみたいだ。そんな調子でよく、何で生まれたのと聞いてきたぜ?」
(フィーカス)「理詰めは頭の良いあんたらに任せるから構わねえでくれるか?」
コペルニクスさんには失礼だけど、すごくフィーカスさんたちが頼もしい。
(コペルニクス)「悪かった」
コペルニクスさんは砕けた笑みをして手を上げた。
(コペルニクス)「ナツメ。誤解させて悪かった。ただ、君に気付いてほしかった」
(ナツメ)「気付いて?」
コペルニクスさんは頷く。
(コペルニクス)「困難に直面した時、解決してくれる仲間が居るとは限らない。時には自分ひとりで何とかしなくてはならない時がある。たった一人だ。誰も助けてくれない。そんな時のために、問題を解決する力、気付く力、考える力を持って欲しかった」
(バルーン)「あんたバカですか? 何のために私たちが居るんですか?」
(ハボック)「嫌だねー! 俺も良く言われたよ。他人に流されるな、自分で考えろって。いつまでも助けてもらえると思うなって。それってつまり、俺はお前を助けませんって言ってるようなもんじゃねえか? 一生傍に居るから悩みを打ち明けてくれとか言わないと女にも友達にも恵まれねえぜ?」
(フィーカス)「コペルニクス? 俺たちはゴロツキだが、気の合う仲間だから一緒に居るんだぜ?」
(コペルニクス)「分かってます。私が間違っていました。確かに、問題を解決する力は必要ですが、同時に、解決してくれる仲間が居るなら粗末な力です。ですから、私はフィーカスたちに問いたい。今ナツメは悩んでいます。自分の言葉で表せないほど悩んでいます。どうか解決してください」
(ハボック)「お、俺たちが! 文字も読めない俺たちが!」
(コペルニクス)「仲間でしょ? なのに苦しんでいる仲間を放っておくのですか? ならば、先の言葉は撤回し、ナツメにこういうべきでしょう。君はバカだと」
(バルーン)「ふざけんなてめえぶっ殺すぞ!」
(コペルニクス)「ぶっ殺すのは、ナツメの悩みを解決してからで無いですか? それともあなたたちは、ぶっ殺すと言うだけの、ただのゴロツキですか? ナツメの友人でも何もないゴロツキですか?」
(バルーン)「んな訳ねえ! 親分! そうでしょ!」
(フィーカス)「ん! んん! そうだ! その通りだ!」
(バルーン)「良し! さあナツメ様! 悩みを言ってください! 絶対に解決します!」
(ナツメ)「えぇ? あの、その、僕は思い付きでやっただけなんで。別に悩みなんて」
(バルーン)「そんな筈は無いでしょ! 私とあなた様の仲です!」
(フィーカス)「うるせえぞてめえ! ナツメ様が戸惑ってるだろ!」
フィーカスさんがバルーンさんをぶん殴って止める。
(フィーカス)「まあ、あれだ。とりあえず思ったことを言ってくれ」
(ナツメ)「思ったこと? 書類を見て?」
(フィーカス)「そうだ! コペルニクスを弁護するわけじゃねえが、何か思ったんだろ! その書類見て何か感じたんだろ! 感想でも何でもいいから言ってくれ」
(ナツメ)「えぇ? だって僕の思ったことなんて、バカなことばっかりで」
(フィーカス)「俺たちはもっとバカだ! 算数も出来ねえ! だからバシバシ言ってくれ! バカな俺たちだからこそいいアドバイスができる!」
(ナツメ)「そ、そうなんですか! だったら何でも言えるかも?」
(ハボック)「俺今すげえ傷ついた」
(バルーン)「子供の言ったことだ! 耐えろ!」
(ナツメ)「何か僕も泣きたくなってきた」
しかし、フィーカスさんたちは僕の言葉を聞きたがっている。
(ナツメ)「分かりました! ただ単に! 皆の不安を消したかったから思っただけです!」
(ハボック)「ん? そいつはどういう意味だ?」
ハボックさんが最初に眉を顰める。
(ナツメ)「深い意味は無いですけど、そうすれば仲良くなれるかなって」
(フィーカス)「ちょっと待ってくれ! 仲良くなれる? つまり仲良くなりたいんだな!」
(ナツメ)「そんなに強調することですか?」
(フィーカス)「あったりまえよ! そういう分かりやすい動機が大切だ! 俺たちにはそれで十分だ! 何せ! 仲間が欲しいからゴロツキになったんだ!」
クスリと嫉妬する。
生前にフィーカスさんたちに会ったら、すごく楽しかったと思う。
だから、会えなかったことが悔しい。
(ナツメ)「上手くいえないんです。ただ、フィーカスさんたちに名前を言ったことを思い出して」
(フィーカス)「俺たちの名前?」
(ナツメ)「あの時、僕はフィーカスさんたちを知っていました。でもフィーカスさんたちは怯えた。それが心に残っていて、気づいたらなぜかあの項目に」
(フィーカス)「聞いたか? 俺たちが怖がったってよ!」
(ハボック)「確かにビビったぜ! 何せ、ナツメ様は知ってるのに俺たちはナツメ様の顔すらも見たこと無かった! あのポスターだけだ!」
(バルーン)「ナツメ様! ちょっと待ってください!」
バルーンさんたちが縮こまって部屋の隅で話し合う。
(フィーカス)「やっぱりナツメ様は良い奴だ!」
(ハボック)「俺たちが怖がってたってことを分かってくれている!」
(バルーン)「そんなの当然だ! 天使を疑うよりもバカらしいことだ! それよりも、やっぱりナツメ様は優しいですね」
(フィーカス)「そうだな。正直、アンジェリカを誘拐するよりもさっさと仲間になってたら良かった。そうすりゃ俺たちはトルバノーネたちよりも偉くなれた!」
(ハボック)「すんじまったことはしょうがねえっすよ。それより、ここでビシッと言ってやらねえと!」
(フィーカス)「分かってる! 俺に任せろ!」
(ナツメ)「あの? 何を話しているんですか?」
ぐしぐしとフィーカスさんたちが目元を拭う。
(フィーカス)「ナツメ様が心配してくれて嬉しかったのさ」
(ナツメ)「そ、そうなんですか?」
(フィーカス)「そうだ! ナツメと同じだ! だから分かった! ナツメは優しいんだ!」
(ハボック)「親分! ナツメって呼び捨てにしたら不味いっすよ!」
(フィーカス)「ん? げっ! しまった!」
(ナツメ)「ナツメで良いですよ。正直、様って呼ばれるの嫌なんだ」
ぐぐぐっとフィーカスさんたちが顔を見合わせる。
(フィーカス)「お前ら! 集合!」
また隅っこで話し合う。
(フィーカス)「マブダチになっちまったぜ!」
(ハボック)「良い奴だ! 女の一人くらい紹介したいぜ!」
(バルーン)「親しき仲にも礼儀ありです! ちゃんとナツメを助けないと!」
(フィーカス)「待たせたな!」
(ナツメ)「やっと終わった? さっきから何を話しているの?」
(フィーカス)「俺たちはお前が大好きって話だ!」
(ナツメ)「えぇ! まさかの愛の告白!」
(ハボック)「そうよ! 愛の告白は何時だってサプライズだ! それが女にモテる第一歩だ!」
(バルーン)「まあ、愛は言いすぎですが、感動しました。コペルニクス。そこに突っ立っているだけならお茶の一つや二つ用意できないんですか?」
(コペルニクス)「お前ら……」
コペルニクスさんはがっくりと肩を落としながら、部屋を出た。
(フィーカス)「話を戻そうか! つまりだ。俺たちが怖がったのが引っかかった。そうだな?」
(ナツメ)「そうです。ただ、それが何で重要と思ったのか?」
(ハボック)「酷いぜ! 俺たちは親友だ! 親友が怖がってたら夜も眠れねえだろ!」
(バルーン)「そうですね。家族が怖がっていたら、一生気にかかります」
えーと? 何だか凄まじく大事になりそうな空気なんですけど? 話しずら!
(フィーカス)「てめえらうるせえぞ!」
フィーカスさんがバルーンさんとハボックさんをぶん殴って黙らせる。
(フィーカス)「さて、話に戻るが、俺たちが怖がった。そしてさっき皆と仲良くなりたいといった。つまり俺たちと仲良くしたかった?」
(ナツメ)「そうですけど?」
(フィーカス)「話は決まった! つまり、ナツメは皆と仲良くできる最善の方法を選んだんだ!」
(ナツメ)「そ、そうなんですか!」
(フィーカス)「そうなんですよ! 優しいナツメの考えそうなことだ!」
ガハハと笑うフィーカスさん。
立ち止まって考えると、確かに、そんな気がする。
僕は皆と仲良くなりたい!
(ナツメ)「フィーカスさんって凄いですね! 僕、初めて気が付きました! 僕は皆と仲良くなりたい!」
(フィーカス)「よ、止せよ! 照れるじゃねえか!」
(ハボック)「そうそう! こんな奴褒めること無いぜ?」
(バルーン)「暴力は振るうし言葉は悪いし頭は悪いし金には汚いし体も汚いしおまけに口も臭い奴です! 褒めたっていいことありませんよ!」
(フィーカス)「聞こえてんだよてめえら!」
またフィーカスさんがバルーンさんとハボックさんをぶっ飛ばす。
(フィーカス)「とにかくだ! ナツメは皆に好かれたい! 理由はそれだ! 単純で良い!」
(ナツメ)「でも、よくよく考えたらそんな理由でいいのかな?」
(コペルニクス)「良いんですよ。そんな理由で」
コペルニクスさんがカップを僕の前に置いてお茶を注いでくれる。
(コペルニクス)「世界平和とか何だとか、大義は後で良い。なぜなら、大義は耳触りが良いがすぐに忘れてしまう。皆同じことを言って面白くないから。だけどあなたの思ったことなら、忘れない。なぜなら、あなたにしか言えないから。それが良い。だから面白い」
(ナツメ)「面白いって、なんか変な感じです」
(コペルニクス)「大義は確かに皆に受け入れられるが、あまりにも漠然として何をしたいのか分からなくなる。というより、民は侮辱されていると感じる。なぜなら、世界を平和にするために頑張りましょうと言っても、大概の人はこう思う。お前、それだと俺たちが今までやってきたことは、世界を不幸にすることだったのか? ってね」
(ナツメ)「そ、それはちょっと斜に構えすぎじゃ?」
(コペルニクス)「そうですね。そう感じず、頑張ろうと思う人も沢山居ます。ですが、私が言いたいことは、斜に構えたこの持論を通さないと言えない。だから、その前提で話します」
コペルニクスさんは深呼吸する。
(コペルニクス)「もし、あなたが民に、君たちに好かれたいから頑張ると言えば、民は困惑するでしょう。反感を持つ者も出てくる。ですが、次にナツメは言う。そのためにこんなことをします! そうすると、民は思う。そんなことをするのか! って」
(ナツメ)「えぇ~! 本当ですか?」
(コペルニクス)「好かれたいから頑張ります。それはつまり、僕は頑張ります! だから見ていてください! って言っている。これはつまり、頑張っている君たちに恩返しがしたいって受け取られる」
(ナツメ)「それって何だか都合よすぎませんか?」
(コペルニクス)「持論ですから。ですが、それほど外しているとは思えない。アンケートは取ってませんから証拠はありませんが。ただ、私はあまたの懺悔を聞いて来ました。誰も、世界平和のために頑張れなくてごめんなさいとは言いませんでした」
(ナツメ)「分かりました。最後まで聞きます」
コペルニクスさんはにっこり笑う。
(コペルニクス)「あなたが素直に思ったことは誰も思わなかったこと。そしてあなたが思ったことを叶えるために頑張ることは誰も頑張らなかったこと。だから皆受け入れる。協力するかは置いておいて。だからあなたはどんどん、思ったことを言うべきだ」
(ナツメ)「でも、それでいいんですか? なんか頓珍漢なこと言いそう」
コペルニクスさんがチッチッと笑いながら人差し指を振る。
(コペルニクス)「あなたは、人に嫌われたくないという思いから、完璧主義者と神経質なほどの臆病さを備えている。しかし、だからこそ、あなたはよく考えてから言う。だから、思ったことをどんどん言いなさい。それに、たとえ頓珍漢な思いでも、私たちはナツメを嫌いませんから」
コペルニクスさんがクスリと笑うと、僕もクスリと笑えた。
(コペルニクス)「さてさて、話を戻しますが、人に好かれたかったから、家族との再会と葬儀を優先したかった。何でです?」
(ナツメ)「えーと、家族が生きているのかどうかは凄く知りたいことです。特に今回の戦いに参加した人たちの多くが、アウグストゥスさんとジャンヌさんの洗脳で記憶が無いです。それって、よく考えればすごく怖い事です。それに、何をされたのか」
(コペルニクス)「何をされたのか? 何をされたのか?」
いきなり物思いにふけり始める。
(ナツメ)「あの、何か失言でも?」
(コペルニクス)「違います。ただ、気付いただけです。確かに、記憶がないのは怖い。そんな当然のことに気付かなかった。ふむ。どうも私は粋がっていたようですね」
(ナツメ)「気付かないだけでそんな自虐しなくても」
(コペルニクス)「いえいえ。言われてみれば当然。ですが言われるまで気付かなかった。言い訳は、私は洗脳されていなかった。また大義という名目があった。だから自然と無視していた」
(ナツメ)「そんな卑下しなくても」
(コペルニクス)「卑下ではなく感心です。少なくとも私は気づかなかった。周りが気付いていたとしても私は気づけなかった。神の子であるはずなのに、洗脳という神の力に甘えていた」
(ナツメ)「ですから! そんな思い込まないでください!」
(コペルニクス)「待ちなさい! 今私は神の啓示を受けた!」
そこからぶつぶつと独り言をつぶやく。不気味です。
(コペルニクス)「分かりました。確かに知らせる必要があります。ですが、まだまだ弱い。なぜならそれらの優先度は低いから。放っておいても人は死なないから。分かりますね?」
(ナツメ)「ん? そ、そうかもしれませんけど、死なないからって良いって訳じゃないでしょ?」
(コペルニクス)「家族との再会や葬儀を優先したほうが良いのですか? 生きるより優先することですか?」
何も言えないっての! ため息を吐く。
(コペルニクス)「あなたは今答えを得ている。あなたの立場を考えれば簡単だ。そして、そこからさらなることも導き出せる」
何を言っているんだろう? だけどコペルニクスさんは無駄なことは言わない。常に意味のあることを考えている。だから、考える意味がある。
(ナツメ)「僕は一番偉いからこの二つを最優先でやれって言うこと?」
(コペルニクス)「その通り! これで万事解決! ただ、一つ心残りなのは、優先度高を捻じ曲げてやらせるべきでしょうか?」
(ナツメ)「意地悪しないでくださいよ!」
(コペルニクス)「しかし、命令するとなると、理由を説明する必要があります」
(フィーカス)「何言ってんだお前? そんなの俺たちがやればいいだけだろ?」
フィーカスさんが怒るとコペルニクスはため息を吐く。
(コペルニクス)「私はともかく、あなたたちはただの一市民。一市民が行う訳にはいきません」
(ハボック)「何でだよ? 家族を探したり、葬儀の準備くらい俺たちでも出来る」
(バルーン)「金はコペルニクスが用意すればいい。そのための商人でしょ?」
(コペルニクス)「家族との再会、葬儀、すべてトルバノーネ管轄の軍、そしてそれらを実行するジャンヌの仕事。もしもこちらが手を出したらただではすみません」
(ナツメ)「何でですか! フィーカスさんたちと協力すれば!」
(コペルニクス)「彼らには彼らの仕事があります。無碍にすれば反感を持たれる。それに、こちらが勝手に動くと混乱が生まれる。例えば、こちらが遺品を持ち出します。すると向こうには遺品が無いことになります。また、連携が取れないため何度も遺族たちに確認を取ることになる。それは酷く無思慮で、この国がまだ未熟であることを示してしまう。分かりますか? 一市民が勝手にやってはダメなのです。今は、国が指揮を執っているのです」
確かにそうかもしれない。少なくとも、葬式や家族との再会に、何人もの人が好き勝手に準備をしたら、間違いなく混乱する。
だからトルバノーネさんたちと連携する必要がある。
(ナツメ)「じゃあ、僕の権限でトルバノーネさんたちと連携できるようにすればいいんですね?」
コペルニクスさんはニッコリと微笑む。
(コペルニクス)「トルバノーネ、ハンニバル、アウグストゥス、それどころかジャンヌも沖田も頭が硬い。己が国のために働いているという自負心がある。だから、それを従わせる地位が居る。ナツメの部下、つまり、大神帝国の市民という証が」
(ナツメ)「お、大神帝国の市民?」
(コペルニクス)「つまるところ、私たちに必要なのは、ナツメの勅命です。そう、トルバノーネたちを動かす必要などありません。他の人間を働かせればいいだけ。もしもトルバノーネやジャンヌ、アウグストゥスだけを使うなら、僅か軍属とキリスト教徒に新生ローマ帝国の国民総勢約十万人程度しか使えません。ですがこの町以外には約六千万人の市民が居る。大陸全土なら、約二十億人以上! 彼らの力が居る! そのためには命令が居る! そのためにはナツメの勅命が居る! ナツメのために働けと、そのために協力しろと!」
(ナツメ)「分かりました! 良く分かりませんけどコペルニクスさんの言う通りにします!」
(コペルニクス)「ではこれらの書類にサインをお願いします」
すらすらとサインする。面倒だしコペルニクスさんを信頼しているので内容は確認しない。
(ナツメ)「全く、面倒な前口上なんてしなくてもサインしますよ」
(コペルニクス)「サインよりも説明し、納得してもらったことが重要なんですよ」
コペルニクスさんはサインを確認するとフィーカスさんたちに言う。
(コペルニクス)「持ってきた署名を渡して、サインしてもらえ」
(ナツメ)「署名?」
(フィーカス)「そうだそうだ!」
(ハボック)「見てくれよナツメ! 俺たち頑張ったぜ! マジ頑張ったぜ! 人生の中で一番頑張った!」
署名を受け取る。内容は、僕を支配者と認め、新生ローマ帝国を認めるという内容の署名だった。
(ナツメ)「これ! 何人分あるの!」
(バルーン)「約二万三千人です」
(ナツメ)「たった三日でこれだけ書いてもらったの!」
(バルーン)「家族や友人たちの力を借りました」
(ハボック)「土下座とかしたけどよ! 意外と皆簡単に書いてくれたぜ!」
(フィーカス)「なんだかんだ言いながら、ナツメたちに感謝しているのよ」
(ハボック)「そうそう! 憎き黒き者どもを倒したんだからな」
(バルーン)「それに、正直なところ、洗脳されていたという記憶もありません。何をしていたのか不安になりますが、それ以上に、家族が無事です。それに、トルバノーネたちは街を復興していますし、ジャンヌもけが人や孤児、年寄りの面倒を見ています。それを考えると、文句はあっても、逆らう気にはなりません」
笑顔の皆。ふと、思いついた。
(ナツメ)「皆さん。家族との再会と葬儀の準備の他に、もう一つお願いしたいことがあります」
コペルニクスさんが笑う。
(コペルニクス)「何です?」
(ナツメ)「皆さんの、国民の皆さんが、洗脳されてから解けるまでのひと月の生活を、皆さんに知らせてください。どの部隊に所属していたのか、どこを守っていたのか、役割は何だったのか。何を食べたとかいつ寝たとかまで調べる必要はありません。ですが、できるだけ正確に、細かく伝えてください。どこで、なぜ死んだのか、なぜ怪我をしたのかも」
(コペルニクス)「承知した。誰がどこに所属していたのかはハンニバルのメモから分かる。どこに誰が居たのかも」
コペルニクスさんがフィーカスさんたちに顔を向ける。
(コペルニクス)「まずは誰がどこに居るのか、新生ローマ帝国に住む十万人すべての所在を調べなさい。次に新生ローマ帝国を脱出した人々、約十万人の人々の所在を調べなさい。最後に、全ての人々の親戚関係と友人関係を調べなさい。それが出来て初めて、再開と葬儀の意味が出る」
(フィーカス)「ちょ、ちょっと待て! それって! 貴族領とか全部の市民も調べるってことだろ!」
(ハボック)「おいおい! それって約六千万人の身元を調べろってんだろ! 無茶苦茶だぜ!」
(バルーン)「そんな事したら何年かかると思っているのですか!」
(コペルニクス)「何年かかってもやるんです。再開と葬儀、そして洗脳から一か月間の生活。どれも優先度は低い。だからこそ、完璧にやる必要がある。なぜなら優先度が低い! だからこそ時間がある! だからこそ万が一の間違いも許されない!」
(フィーカス)「し、しかし!」
(コペルニクス)「名前の間違いや家族の間違いはもちろん、書類の誤字脱字も許されない。特に名前のスペルミスなど極刑に値する罪だ」
(ハボック)「極刑だと!」
(コペルニクス)「万が一、間違えればそれは私たちが国民に関心がないことを示す。それはつまり、大神帝国、大神ナツメが冷酷だと印象付ける。分かりますか? 優先度が低いのは、やらなくても彼らが死なないから。ですが、だからこそ、完璧にやらねばならない。失敗しても、やらなくても死にはしない。しかし行ったとき、万に一つの間違いがあれば、彼らをバカにしていることを証明してしまう。だからこそ、優先度が低いのです。触らぬ神に祟りなしとやらです」
(バルーン)「し、しかし、いくらんでも無茶苦茶だ!」
(コペルニクス)「バルーン! お前は万が一家族が死んだとき、分ればなれになった時、名前を間違われて許せるのですか!」
フィーカスさんたちは黙る。
(コペルニクス)「何より、あなた方は大神ナツメの勅命を受け、トルバノーネは愚かハンニバル、アウグストゥスにさえ異を唱えることができる立場だ! それなのにいい加減な仕事をしてみろ! ナツメの顔にくそを塗ることになる! てめえらはそれも分からずに来たのか!」
フィーカスさんたちは何も言わない。ただ震えている。
(ナツメ)「その、無理ならやめてください! 僕の思い付きですから」
(コペルニクス)「確かにそうだ! 無理ならやめろ。とっとと出て行け」
(ナツメ)「コペルニクスさん!」
(コペルニクス)「すでに金は払った。節約すれば一生くれるほどの金だ。だからさっさと出て行け」
(フィーカス)「お、お前!」
(コペルニクス)「それだけのお前たちは得た! だからこそ責任が生まれる! 良いですか! 万が一もあり得ない! 私が許さない! ナツメの顔にくそを塗ることは!」
(フィーカス)「俺たちを舐めんじゃねえ!」
フィーカスさんが仁王立ちしてコペルニクスさんを睨む。
(フィーカス)「俺たちは屑でゴロツキの弱虫だ! だけどだからこそ仲間が大切だって分かってる! 仲間の名誉を大切に思う!」
(ハボック)「どんなことがあっても仲間のことは忘れねえよ。見捨てることはあるけどよ!」
(バルーン)「ただし! 見捨てても必ず助けます! ただ一時の苦痛です! だからこそ絆が大切です」
(フィーカス)「つまり! てめえに念を押されるまでもなく、俺らはナツメの頼みごとを完璧にこなす! ナツメは俺たちの仲間! 家族だからな!」
フィーカスさんが腕を突き上げると皆突き上げる!
(フィーカス)「1つ! 裏切るな!」
(ハボック)「裏切るな!」
(バルーン)「報復される!」
(フィーカス)「2つ! 殺すな!」
(ハボック)「殺すな!」
(バルーン)「返り討ちにされる!」
(フィーカス)「3つ! 犯すな!」
(ハボック)「犯すな!」
(バルーン)「犯される!」
(フィーカス)「4つ! 仲間を大切にしろ!」
(ハボック)「仲間を大切にしろ!」
(バルーン)「大切にしてもらうために!」
(フィーカス)「そして新たに5つ! ナツメの誇りに成れ!」
(ハボック)「ナツメの誇りに成れ!」
(バルーン)「恩返しするために!」
(フィーカス)「よし! 前口上終わり! 行くぜ!」
(ハボック)「しっかしアウグストゥスよりも偉いって、俺たち王様よりも偉いのか! 楽しくなってきた!」
(バルーン)「これで、妻と娘たちに胸を張ってもらえます。私の御父さんは、世界のために頑張っているって」
フィーカスさんたちが、部屋を出る前に笑う。
(フィーカス)「任せてくれ」
(ハボック)「葬式の後は、俺たちの表彰式をお願いするぜ!」
(バルーン)「ナツメ、日陰者で、何の役にも立たなかった私たちに、生きる意味を与えてくださり、本当にありがとうございます」
そして出て行った。
(ナツメ)「何だか、皆大げさだな」
(コペルニクス)「それだけ皆大真面目なんですよ」
(ナツメ)「コペルニクスさんが言いすぎたからじゃないですか?」
(コペルニクス)「あれだけ言えば自覚するでしょう。自分たちは屑から大神帝国の市民となったと」
(ナツメ)「大神帝国って、なんか、背筋がムズムズする呼び方止めてください」
(コペルニクス)「慣れですよ。それよりも、彼らは後ひと月で六千万の住民たちの所在を知る」
(ナツメ)「たったひと月で!」
(コペルニクス)「一人が一人に、それが二人、四人、八人、十六人、とマルチの理論ですが、彼らはそれをやってのけた。ですから意外と簡単にやってのける。もっとも、書類のチェック等で約ひと月はかかるでしょうが、それだけ。早ければ一月後、遅くとも二か月後には葬式と再開、そしてひと月間の生活が分かる。あいつらは、意外と真面目だ。こと誇りに関しては」
なぜか笑ってしまう。
(ナツメ)「フィーカスさんたちは、名前を呼ばれない辛さを知っています。それに、優しい人たちです。だから信用します」
(コペルニクス)「良い答えだ。やはり君は、大神ナツメだ」
(ナツメ)「何を言っているんです?」
(コペルニクス)「気の迷いだ。それじゃあ、私も失礼する、その前に、フィーカスたちの謝罪文を渡そう」
(ナツメ)「謝罪文?」
(コペルニクス)「アンジェリカへの謝罪文だ。いずれナツメの嫁になる女だ。礼儀は通さなくてはならない」
……嫁? アンジェリカさん?
(ナツメ)「すっかり忘れてた!」
コペルニクスさんがため息を吐く。
(コペルニクス)「あなたの最優先事項高は、アンジェリカと会うことです。じゃあ、私は忙しいので」
(ナツメ)「ちょっと! 一人にしないでください!」
(コペルニクス)「私たちにとって、最優先事項では最低ですから」
(ナツメ)「アウグストゥスさんの命令ですよ!」
(コペルニクス)「彼もどうでもいいと思っています。署名を見たら喜びました。これで新生ローマ帝国は安定だ! ナツメが結婚しようとしなくてもどうでもいい! って」
(ナツメ)「なん、だと?」
バタンとコペルニクスさんは出て行った。
(ナツメ)「と、とりあえず、手紙と謝罪文! 僕も書いた! だから少しは許してくれる!」
アンジェリカさんの自室の前に立って、ノックする。
(ナツメ)「アンジェリカさん! ナツメです! ちょっとお話ししましょう!」
(アンジェリカ)「キエー!」
バリバリバリ! 引っ掻かれた!
(アンジェリカ)「顔を見せるなこのバカ!」
バタンとドアが閉じられる。
(ナツメ)「い、いくら何でも酷い」
バタリと力尽きた。
2016/10/31
全五話から全八話となります。
ご迷惑おかけして申し訳ありません




