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エーテル国軍で雑用の日々(2/10)

アクセスとか色々問題ありましたが、僕は元気です!

 エーテル国軍の駐屯地で働いて1月経った。あっという間と表現するほかないほどの時の速さだった。毎日同じことの繰り返しとは言え、がむしゃらに働くといつの間にか夜になって朝になる。なんというか、仕事漬けの人が気を病むのも分かる気がする。遊ぶ時間も友達と会う暇も無い。僕友達居ないけどね!

 ただ悪い事ばかりでも無い。

 兵士たちと一緒に居られる。

 彼らは僕を嫌うことなく接してくれている。

 辛辣な言葉を投げかけられることもあるけどそれは僕が悪いのもある。しつこく名前と階級を聞いているから。

 それに、何より嬉しいのは僕の名前を言ってもらえることだ。

 僕を疎ましく思わない人は、名前を呼ぶと名前で呼んでくれる。

 お前やおい、ではなく名前を呼んでもらえる。

 それだけで心が休まる。

 僕はここに居て良い。

 そう言ってもらえているようで。

(トルバノーネ最高司令官)「今日も忙しそうだな」

 お昼の給仕を終えた後、急いでお昼ご飯を食べているところにトルバノーネさんが横に座る。

(ナツメ)「あれ? まだ食べていなかったんですか?」

 トルバノーネさんのお盆にはまるまる食事が残されていた。

(トルバノーネ最高司令官)「たまにはお前と一緒に食って見たかったんだ」

 トルバノーネさんがパンを一口頬張ると、その姿がやけに頼もしく見えた。 

(ナツメ)「ありがとうございます」

(トルバノーネ最高司令官)「またありがとうか。口癖か?」

(ナツメ)「えっ? あの、不愉快ですか?」

(トルバノーネ最高司令官)「別にそういう訳じゃねえが、ありがたみが無くなってきてな」

 そうだろうなと思う。僕も毎回言われたらうっとおしくて堪らない。

 でも言っておいた方が良いと思う。だから止めない。

(ナツメ)「そうでしょうね。でも、次の日には言えなくなっちゃうかもしれないから」

(トルバノーネ最高司令官)「ここに来る前の世界の話か?」

(ナツメ)「いえ、ここに来てからの話です」

(トルバノーネ最高司令官)「ほう……興味がある。何があったのか聞かせてくれないか?」

(ナツメ)「お聞かせしたいですけどこれ食べたらすぐに洗濯しないと」

(トルバノーネ最高司令官)「それが終わったら?」

(ナツメ)「兵舎の掃除をしないと」

(トルバノーネ最高司令官)「それが終わったら?」

(ナツメ)「夕飯の支度をしないと」

(トルバノーネ最高司令官)「働き過ぎだな。今日と明日は休め。そんで俺に付き合え」

(ナツメ)「えっ? その、誘いはありがたいですけど休めません。休んだら首になっちゃいます」

(トルバノーネ最高司令官)「俺はここの最高司令官だ。肩書だけのお飾りだが、お前一人を休ませるくらいは出来る」

(ナツメ)「その、良いんですか?」

(トルバノーネ最高司令官)「良いんだよ」

 トルバノーネさんは辺りを見渡してブラッドさんに目を付ける。

(トルバノーネ最高司令官)「ブラッド! こっちへ来い!」

 ブラッドさんは席で仲間とおしゃべりしていたけど、トルバノーネさんに呼ばれると引き締まった顔で話を中断し、走って駆け付けた。

(エーテル国軍防衛隊1番隊隊長ブラッド)「お呼びでしょうか!」

 ブラッドさんはトルバノーネさんの前に来るとビシッと敬礼する。

(トルバノーネ最高司令官)「今日から大神ナツメは俺の小間使いになる。だからもう雑用は出来ないから代わりの奴を雇えってな」

 ブラッドさんが怪訝な顔をする。僕も怪訝な顔になる。

(エーテル国軍防衛隊1番隊隊長ブラッド)「こいつは異世界人ですよ?」

(トルバノーネ最高司令官)「良いんだよ」

(エーテル国軍防衛隊1番隊隊長ブラッド)「ですが! 小間使いなら俺たちが居ます!」

(トルバノーネ最高司令官)「お前らは小間使いじゃない。兵士だ」

(エーテル国軍防衛隊1番隊隊長ブラッド)「確かにそうですが!」

(トルバノーネ最高司令官)「俺に異を唱える気か?」

 ブラッドさんはそれ以上何も言えず、敬礼した。

(エーテル国軍防衛隊1番隊隊長ブラッド)「承知しました! 料理長その他に伝えておきます!」

 ブラッドさんが走るとトルバノーネさんはにっこり笑う。

(トルバノーネ最高司令官)「これでお前は俺のものだ。しっかり、俺を世話しろよ」

(ナツメ)「あの、僕なんかで良いんですか? 僕よりも上手な人を雇った方が良いと思いますよ?」

(トルバノーネ最高司令官)「何だ? まだくそみたいな料理長とかの下で働きたいのか?」

(ナツメ)「そういう訳じゃないですけど」

(トルバノーネ最高司令官)「なら良いじゃねえか! 俺んとこで働け!」

 何だか強引な人だ。

 でも必要とされている気がして嬉しい。

 それに、トルバノーネさんと一緒に居た方が楽しい。

 初めての友達になれる。

 そんな気がする。

(トルバノーネ最高司令官)「じゃあまずはべべ買いに行こう! そんなダボダボの作業着じゃなく、もっと可愛い服着て、化粧してな!」

 ちょっと待って? 何やら不穏な空気がします。

(ナツメ)「あの、トルバノーネさん。一つお聞きしたいんですけど、どんな服買う気ですか?」

(トルバノーネ最高司令官)「そんなの、スカートとかに決まってんだろ?」

(ナツメ)「あの、それってもしかして女ものですか?」

(トルバノーネ最高司令官)「女だから女ものに決まってるだろ?」

 どういうこと? 僕は男ですよ?

(ナツメ)「あの? 僕男ですよ?」

(トルバノーネ最高司令官)「そんな可愛い面して誤魔化せると思ってんのか? 俺が守ってやるから」

 不味い、話が変な方向に向かっている気がする。

(ナツメ)「あの、何か酷い勘違いをされているような」

(トルバノーネ最高司令官)「つべこべうるせえ奴だな! 黙って俺の女になればいいんだよ!」

 ちょっと待って! いきなり友達じゃなくて恋人が出来た! しかも相手は男!

(ナツメ)「嘘でしょ? 僕男だよ?」

(トルバノーネ最高司令官)「全く、俺はお前に惚れちまったんだよ! これで良いか!」

(ナツメ)「全然良くないですよ!」

(トルバノーネ最高司令官)「うるせえ! もうお前は俺の女だ! 黙って俺について来ればいいんだよ!」

 どうしてこうなった?


(女店主)「あらまあ! 汚れを落としてお化粧したらとっても可愛らしいじゃない!」

(トルバノーネ最高司令官)「良い女だろ! 俺の見立て通りだ! おい! 銀貨20枚やる! 最高の女にしてくれよ!」

(女店主)「あらまこんなに! あんたも幸せ者ね! さあこっち来なさい! 最高のレディにしてあげるわ!」

(ナツメ)「僕は男です!」

(女店主)「何我儘言ってるの! こんないい男逃したら他ないよ!」

(ナツメ)「誰か話を聞いて~!」

 どうしてこうなった?

(女店主)「見なさい見なさいトルバノーネ様! 私の最高傑作ですよ!」

(トルバノーネ最高司令官)「こいつは良い! 最高の女だ! 並んで歩きゃ自慢の種だ!」

(女店主)「あんたみたいな良い男と一緒になるこの子の方が自慢の種だよ!」

 僕は女の子の恰好をして薄化粧をしている。どうしてこうなった?

(トルバノーネ最高司令官)「いくらかかった?」

(女店主)「銀貨5枚だよ! 腕によりをかけたからね!」

(トルバノーネ最高司令官)「釣りはいらねえ。さらに5枚銀貨をやる。それで美味い物でも食え」

(女店主)「あんた本当に良い男だね! 良かったら娘もどうだい?」

(トルバノーネ最高司令官)「今はこいつで精いっぱいだ! 余裕が出来たら貰ってやるよ」

 何だこれ? どうしてこうなった?

(トルバノーネ最高司令官)「さあ! ピシッとしたところで、いよいよデートの始まりだ!」

(ナツメ)「後悔しないなら付き合います」

(トルバノーネ最高司令官)「よっしゃ! さあまずは飯を食いに行こう!」

 もうどうにでもなーれ!

(ナツメ)「じゃあ僕お肉が食べたいな!」

(トルバノーネ最高司令官)「肉か! 美味い肉屋を知ってる! 作ってくれ!」

(ナツメ)「僕が作るの!」

(トルバノーネ最高司令官)「硬いこと言うな! 女の見せどころだぜ!」

(ナツメ)「僕は! いやどうでもいいや。じゃあ荷物は持ってよ!」

(トルバノーネ最高司令官)「分かってる!」

 何が? でももういいや! 僕を女と勘違いしているトルバノーネさんが悪い!

 お肉屋さんの前に着く! どうせだから最高級の肉を食べてやる!

(ナツメ)「これ買って!」

(肉屋店主)「お嬢さん良い目してるね! これは油が乗ってて美味いし、おまけに男も元気になる! だんな! 熱烈だね!」

(トルバノーネ最高司令官)「ハッハッハ! 良い女だろ! それでいくらだ?」

(肉屋店主)「銀貨1枚で!」

(トルバノーネ最高司令官)「じゃあ100個(100KG)買おう! あればもっとくれ!」

(肉屋店主)「今日はもう看板だ!」

(ナツメ)「そ、そんなに食べられるの!」

(トルバノーネ最高司令官)「兵士たちも食うんだよ。親父、俺の馬車に全部乗せてくれ」

(肉屋店主)「まいどあり! お嬢ちゃんも達者でな!」

(トルバノーネ最高司令官)「また来るぜ! さあ次は昼飯だ! 良いレストランを知ってる!」

 何だか異次元の買い物をしている。というか金銭感覚がおかしい。

 服屋兼化粧品屋とお肉屋さんを回っただけで銀貨225枚がすっ飛んだ。

 今まで屑野菜のスープやカビの生えかけた不味いパンしか食べられなくて、しかも服は毎日着古して染みだらけのダボダボズボンとダボダボシャツのダサダサ作業着、極めつけは仕事する以外は寝るしかない生活から一辺、豪華なお洋服着て、薄化粧して着飾って、高価なお肉を買ってもらえてしかも美味しい食事を食べさせてもらえる! シンデレラストーリー! 唯一問題なのは僕が男だってことだ!

(ナツメ)「でもそんなこまけえこたいいんだよ!」

 そう! もう僕が男ということは些細な問題だ!

 そんなことより食事だ!

(ナツメ)「トルバノーネさんありがとう!」

(トルバノーネ最高司令官)「そうそう! そういうときにありがとうって言うんだ!」

 それにしても、良く笑う、気持ちの良い人だ。

 身長や体格を見ると僕を虐めた奴らなんて1秒で逃げていきそうだ。

 それに風格からして威厳があるからボクシングとか空手とかかじっただけの高校生なんて瞬殺しそう。というか世界チャンピオンより強いんじゃないかな?

 それにきっと女の子にもてる。顔は結構優し気だけど、声とか口調は男らしい。でも怖くない。たぶん運動神経抜群だからバレンタインのチョコとかいっぱいもらう。例えるなら少女漫画にでてくるイケメン? ただ何となく主人公の彼氏には成れないと思う。女の子はこういう雰囲気苦手そう。僕は男だけど! 待てよ? じゃあこのまま行くと?

 どうでもいい! とにかく頼もしい人と友達に成れた! 友達! これ超重要!

(トルバノーネ最高司令官)「付いたぞ。ここだ」

 着いたのは大通りに面する大きな建物だった。

(ナツメ)「ここって居酒屋?」

(トルバノーネ最高司令官)「兼宿場だ。ここの料理は中々に美味いぞ」

 まさか酒屋とは思わなかった。でも食べた事の無い料理を出されるよりずっと安心できる。唐揚げとか有るかな?

(トルバノーネ最高司令官)「言っておくが、ここをただの安酒場と侮るなよ。2階の特別室は凄いと評判だ! 俺も一度食って見てえと思ってた!」

(ナツメ)「食べたことないのに美味しいって僕を案内できるんですか?」

(トルバノーネ最高司令官)「心配するな! 美味いから!」

(ナツメ)「トルバノーネさんならどんな料理も美味しいって言うと思うけど」

(トルバノーネ最高司令官)「ハッハッハ! 美味いの上! 超美味いだ!」

 中へ入るとカウンターの人が顔パスで2階へ案内してくれる。

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「おや、珍しいお客ですね。まさかトルバノーネがここに来るとは。それにナツメも……その格好はどうしたのですか?」

(ナツメ)「いやその、これには海よりも広く谷よりも深い事情が」

(トルバノーネ最高司令官)「こいつは今日から俺の女になった」

(ナツメ)「と、トルバノーネさん!」

(トルバノーネ最高司令官)「照れるなよ」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「ハッハッハ! あの戦馬鹿のトルバノーネもようやく身を固める気になりましたか」

(トルバノーネ最高司令官)「バカ言うな。俺は何時まで経っても戦馬鹿だよ。お前と同じにな」

 ベールさんは苦笑するとお辞儀する。

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「今日は私のお店においでくださり、誠にありがとうございます」

(トルバノーネ最高司令官)「止めろ! 俺とお前の仲だ! だいたいお前らしくねえよ!」

 ベールさんは苦笑する。

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「残念ですが、色々なお客をお相手するにはこうするしかないのですよ。苦痛で堪りませんが」

(トルバノーネ最高司令官)「……それでも、こっちでやる気か。軍を辞めるか」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「今すぐとは言いません。ですが、いずれここに力を入れます。もう、軍は終わりですから」

(トルバノーネ最高司令官)「確かにな。達者でやれよ」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「その言葉は、まだ速いです。速すぎます。私はまだあなたの部下ですから」

(トルバノーネ最高司令官)「じゃあ、そん時まで、いつもと同じように接してくれ」

 ベールさんは複雑そうな表情で苦笑いする。

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「こちらへ。練習しなくちゃいけないので不快な思いをするでしょうが、その分美味しい料理を作ります」

 ベールさんは先ほどよりも体を解したお辞儀をして、厨房へ行った。

(ナツメ)「2階に専用の厨房があるんですね」

(トルバノーネ最高司令官)「らしいな。聞いた話だけど、ここは1階の安酒場とは違ってマジで美味い物が食えるらしい。つか予約制でまず食えないらしい」

(ナツメ)「じゃあ予約してたんですか?」

(トルバノーネ最高司令官)「飛び込みだよ。いざとなったらお前の上司だぞって押し通した」

 トルバノーネさんは笑いながら、ちょっと残念そうに、でも笑顔で頬杖付きながらベールさんを見つめる。

(ナツメ)「ベールさん止めちゃうの?」

 トルバノーネさんは上の空といった感じに答える。

(トルバノーネ最高司令官)「軍に居ても楽しくねえからな。マールは、エーテル国軍輸送部隊長だが、運送会社を設立している。エーテル国軍諜報部隊隊長のニッキーは探偵会社とか何だとか設立した。エーテル国軍狙撃部隊隊長のウォルは狩人の会社を設立した。エーテル国軍汎用部隊隊長のコストは何でも屋を設立した。エーテル国軍防御部隊隊長のアールは建築会社を設立した。屈強なあいつは砦作りとかも担当しているからな。あとはエーテル国軍歩兵部隊隊長のキールとエーテル国軍切り込み隊隊長のザックとエーテル国軍白兵戦部隊隊長のバーリだ。あいつらが軍を出て、初めて俺の仕事は終わる」

 泣きそうな顔を見て胸が締め付けられる。

(ナツメ)「その、軍は無くなっちゃうんですか?」

(トルバノーネ最高司令官)「あいつらは自分の部下も連れて会社を興している。まあ、あいつらが抜ければ必然的に俺一人になっちまうから、軍も無くなる」

(ナツメ)「その、御金とかは?」

(トルバノーネ最高司令官)「俺たちエーテル国軍は王様から無駄に大量の金を貰っている。そのくせ仕事はさせてもらえない。さっさと軍を離れて一般人として生活しろって王様からのメッセージだ」

(ナツメ)「えっと、その、お金は貰えるけど仕事しなくていい? それって良い事じゃ?」

(トルバノーネ最高司令官)「女には分からねえと思うが、俺たちは軍人だ! 何もせずに金だけ貰ってろなんて腐った生き方したくねえ!」

 トルバノーネさんの怒気に思わず体が震えると、トルバノーネさんは済まないと頭を下げる。

(トルバノーネ最高司令官)「八つ当たりして済まない。俺たちが負けた。ハンニバルや沖田の方が使い道がある。そうなれば俺たちはお役目ごめんだ。金を貰って別な生き方をさせてもらえるだけありがたいと思わねえとな」

 僕は反射的にトルバノーネさんの震える手を握りしめた。

(ナツメ)「トルバノーネさんたちは凄い人だよ。立派に戦ったんだから」

 トルバノーネさんは苦く、目を潤ませながら笑う。

(トルバノーネ最高司令官)「ありがとよ。やっぱりお前は、良い女だ」

 トルバノーネさんはすっと窓の外へ目を移す。

 黒き者どもの襲来があるのに、軍が居なくなっているのに、城下は平和そのものだった。

(トルバノーネ最高司令官)「お前一人だったら戦馬鹿の俺でも幸せにできる。守れる。だから安心しろ」

 僕はトルバノーネさんがいつの間にか好きになっていた。可愛そうだったからかもしれない。

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「お待たせしました。豚のロースのステーキとサラダとスープです」

(トルバノーネ最高司令官)「何だこれ! 前に良く食ってた奴じゃねえか! 本当に高級酒場なのか?」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「あなたが好きなものですから」

 トルバノーネさんは肩を竦めるとナイフとフォークで行儀よく食べる。ぎこちないけどマナーは守って食べる。

(トルバノーネ最高司令官)「美味いな」

 もっと肩の力を抜いて食べられたら美味しいだろうに。

 そう思った僕は、何を思ったのかフォークをお肉に突き刺してかぶりついた。

(ナツメ)「うんすっごく美味しい!」

 トルバノーネさんにベールさんが目をしばしばさせてるけど気にしない!

(ナツメ)「どうしたの? 食べないの? すっごく美味しいよ!」

 本当に美味しい! 味付けも柔らかさも温度も完璧だ! 歯を立てるとすぐに噛み切れる! サラダも新鮮でドレッシングも美味しい! スープの味付けも胡椒が聞いてて美味しい! きっとトルバノーネさんはしょっぱい味が好きなんだ。だから、こんなに涙が出そうなんだ。

 悲しくて仕方なかった。トルバノーネさんもベールさんも全然楽しそうじゃない。

 駐屯地で働いていた時は全然気づかなかったけど、皆心に悲しみを抱いている。

 それに気づいてしまい、でもどうにもできなくて、本当に悲しかった。

(トルバノーネ最高司令官)「確かに美味いな!」

 トルバノーネさんは手づかみでステーキを掴むと、僕と同じようにがつがつ、気持ちよく食べてくれた!

(トルバノーネ最高司令官)「酒だ酒! 酒持ってこい! あとステーキ十人前追加だ!」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「その前にお手拭きとナプキンを用意します。全く! あんたらは本当にマナーってもんを知らない!」

(トルバノーネ最高司令官)「うるせえな! てめえも一緒に食え!」

 ベールさんはくつくつと下品に、まるで肩の荷を下ろしたかのように軽快に笑う。

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「そうですね。たまには、お行儀悪く食べるとしますか」

 僕とトルバノーネさんにベールさんはお行儀悪く肉汁をテーブルに滴らせながら食べまくった! 僕はすぐにお腹いっぱいになったけど二人はまだまだ足りないと酒とお肉をかっくらった!

(トルバノーネ最高司令官)「おら! まだ酒と飯があるだろ! どんどん出せ!」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「分かってます! まだ前菜! メインディッシュはこれからだ! っとその前に」

 ベールさんはナプキンをトルバノーネさんに持たせて僕に目くばせする。

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「レディを綺麗にするのはあなたの役目ですよ」

 トルバノーネさんが僕に目線をやると、ベールさんはトルバノーネさんの背中を叩いて厨房へ行く。

(トルバノーネ最高司令官)「気を使わせて悪かった。いや、お前で言うと、ありがとよ」

 トルバノーネさんは僕の口と胸元を拭うと自分の口元と胸元を拭く。

(トルバノーネ最高司令官)「汚しちまった! また服屋に行こう! 今度は俺に似合う最高の服を選んでくれ!」

(ナツメ)「分かりました! 最高の服を選びます!」

(トルバノーネ最高司令官)「ハッハッハ! 腹が千切れそうだ!」

 トルバノーネさんは窓を開けると口笛を吹く。

(トルバノーネ最高司令官)「今日は宴会だ! パーと皆で飲もう!」

 皆? と言う前に窓からニッキーさんが入ってきた!

(エーテル国軍諜報部隊隊長ニッキー)「トルバノーネ! 何があった!」

(トルバノーネ最高司令官)「今日はめでてえ日だ! 皆一緒に飲むぞ!」

(エーテル国軍諜報部隊隊長ニッキー)「めでたい?」

 ニッキーさんは僕を認めると笑いながら椅子に座る。

(エーテル国軍諜報部隊隊長ニッキー)「ついにお前も所帯持ちか! 自慢するために呼んだのか!」

(トルバノーネ最高司令官)「そりゃそうよ! なんたって俺の最高の女だ!」

(エーテル国軍諜報部隊隊長ニッキー)「違いない!」

 どかどかと階段を上がる大きな足音が木霊する。

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「どうした! 敵か! 敵だな! 殺してやる!」

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「まさか戦があるとは思わなかったぞ!」

(エーテル国軍白兵戦部隊隊長バーリ)「なます切だ! すぐに部下を呼ぶぜ!」

(トルバノーネ最高司令官)「待て待て! 今日は俺の女を自慢したかっただけだ」

 3人が怪訝な顔をするとトルバノーネさんは僕の隣に素早く座って、僕を抱きしめる。

(トルバノーネ最高司令官)「こいつが俺の女よ! 良い女だろ!」

 キールさんが舌打ちする。

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「何だよ! 腑抜けが腑抜けになっただけか!」

 ザックさんがキールさんの頭を叩く。

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「めでてえ日じゃねえか! ついに俺ら一番の問題児に女ができた!」

(トルバノーネ最高司令官)「お前に言われちゃお終いよ」

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「バカ言うな! 俺たちは何があっても戦馬鹿よ! 単身黒き者どもと戦いてえくらいなんだ!」

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「弱い犬は何とやらだ」

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「ああ! 表出ろキール!」

(トルバノーネ最高司令官)「止めろてめえら! 俺に女の前で恥をかかせる気か!」

 2人は拳を下ろして笑う。

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「おめでとう。あんた、名前は、ナツメだったな! ナツメ、ありがとよ。こいつを幸せにしてくれ」

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「女が軍に入るなんて許されないことだが、まあ、あいつの嫁さんなら許してやる。精々、頑張れ」

(ナツメ)「その、ありがとうございます」

 色々勘違いしているけど、それでも気分はいい。

 やっと居場所が出来た。そう思えた。

(エーテル国軍防御部隊隊長アール)「ほっほっほ! じゃあ皆で飲み比べでもしましょう! 久々に!」

(エーテル国軍汎用部隊隊長バーリ)「良いね! 朝まで倒れるくらい飲んでやろうじゃねえか!」

 続々と隊長クラス、駐屯地最高幹部たちが楽しそうに集まる。

(トルバノーネ最高司令官)「ナツメ! みとけよ! お前の男がどれだけ強いか!」

 僕は腹の底から笑った。

(ナツメ)「ほんっと、皆子供みたい」

 飲み比べが始まった!

 そして1時間経つと死屍累々!

(トルバノーネ最高司令官)「ザック! お前はもう諦めろ! 俺には勝てねえ!」

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「俺はお前に一度も負けた覚えはねえ!」

 トルバノーネさんとザックさんがワインを一気飲みする。周りには目を回した隊長たちが寝転んでいる。

(トルバノーネ最高司令官)「オェ! さあ、もう倒れろ!」

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「グェ! まだまだ行けるぜ!」

(ナツメ)「ベールさん、その、何本目ですか?」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「あの2人だけなら20本目です。周りを含めると40本目。今日は大赤字です」

 ベールさんは早々に退場したが周りはそうでは無かった。皆弱い強い関わらず致死量のアルコールを取っている気がする! まあ多分死ぬとは思えないけど。慣れてるみたい。何せ自らの吐しゃ物を進んで片付けている。

(エーテル国軍汎用部隊隊長コスト)「全く付き合いきれねえぜ! 水くれ水!」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「はいはい。それより、皆で掃除してくださいね」

 分かってる! とコストさんが叫んで水を飲むとコストさんは再び眠る酷い状況だ。まさに笑える!

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「お、俺はま、だ、飲める!」

 ザックさんがテーブルに倒れると、トルバノーネさんは両手を天井に突き上げる!

(トルバノーネ最高司令官)「勝ったぞ! てめえら!」

 そしてごくごくとワインボトルをラッパ飲みすると、そのまま机に倒れた!

(ナツメ)「大丈夫なんですか!」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「死ぬわけではありません。まあ、数時間休ませましょう。そうすれば皆元通りだ」

 ふら付く体でベールさんは皆を介抱する。

 ふと思いついた! レモン水とかオレンジ水を作ろう。エーテル国の紙幣はトルバノーネさんから貰った。あとで返せばいい! それより、皆に気持ちよく起きてもらう!

 下へ行って受付に聞く。

(ナツメ)「レモンとかある? オレンジとか?」

(カウンター「ここにはねえよ。表でな」

(ナツメ)「分かった!」

 無くて残念だけど、ホッとした! 皆のためにレモン水が作れる! それが楽しかった!

(憲兵B)「おい!」

 表に出た途端、路地裏に連れ込まれた。最低だ。

(憲兵C)「良い女ですね!」

(憲兵B)「チラチラ目に入ったけど、良い女だ!」

(憲兵A)「やっちまおうぜ! もう我慢できねえ!」

(ナツメ)「またあなたたちか!」

 憲兵たちの目つきが変わる。そしてストックで殴られた。

(憲兵A)「見つけたぜ! 異世界人! 死んだふりで俺たちを騙せると思うな!」

(憲兵C)「や、やっちまおうぜ! こ、こいつ結構可愛いし!」

(憲兵B)「待て! まずは殺しちまおう。次は逃げられない様に!」

 ストックで顔面とあばら骨をやられる!

(憲兵B)「やりすぎるな! 傷物を傷めつけても面白くねえ!」

(憲兵C)「わ、分かってる! し、しかし! こいつ女だったんだな! へへ! 最高だ!」

(憲兵A)「言っておくが! 俺らもやらせろよ!」

(憲兵B)「分かってる!」

 首を絞められて動けない。声も出せない。その時、誰かがトルバノーネさんが居る2階へ指を指していた。

(ナツメ)「トルバノーネさん! 助けて!」

 2階の窓が割れるとトルバノーネさんが憲兵Aと憲兵Cを一瞬で切り伏せた。

(憲兵B)「……はっ?」

 憲兵Bは目を白黒させ乍ら剣を捨てる。

(憲兵B)「な、何だ! トルバノーネ様じゃないか! お久しぶりです! あんたの部下のメッドです!」

(トルバノーネ最高司令官)「お前は? マンディルの部下か?」

(憲兵B)「そうです!」

(トルバノーネ最高司令官)「じゃあ死ね!」

 憲兵B改めメッドは、真っ二つに切り裂かれた。素手で。剣も持たずに。

(トルバノーネ最高司令官)「大丈夫か?」

 トルバノーネさんが鼻血を拭ってくれると、僕は泣き崩れた。

(ナツメ)「ありがとうございます……トルバノーネさん!」

(トルバノーネ最高司令官)「心配するな。俺はお前を守る。そう言っただろ?」

 トルバノーネさんの温もりを感じると、震える膝が抜けた。

 でもトルバノーネさんはがっしりと支えてくれた。

(トルバノーネ最高司令官)「俺ん家に帰ろう。またすぐ笑える!」

(ナツメ)「ハイ!」

 僕はトルバノーネさんが英雄に見えた! 英雄だった!

(近衛兵隊長マンディル)「動くな! この反逆者が!」

 僕がトルバノーネさんに抱きしめられて表に出ると、顔も知らない、でも腹立たしいにやけ顔が居た。

(近衛兵隊長マンディル)「お前、トルバノーネか? まさかこんなところで会うとはな!」

(トルバノーネ最高司令官)「俺も、まさかエーテル国軍一番の問題児とこんなところで出会うとは思わなかった! おしめは取れたか? ママのおっぱいは吸い終わったか?」

(近衛兵隊長マンディル)「黙れこのくそ野郎! 今は俺たち近衛兵に憲兵がお前らより偉い! さっさと跪け! そしてそいつを渡せ!」

(トルバノーネ最高司令官)「なぜだ?」

(近衛兵隊長マンディル)「そいつは異世界人だ! 射殺命令が出ている! この意味が分かるな!」

(トルバノーネ最高司令官)「分かるぜ! 最高に! お前ら!」

 2階で倒れていたエーテル国軍最高幹部たちがこぞって近衛兵隊長マンディルを取り囲む。

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「何だ! こいつが敵か!」

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「殺すには物足りねえ奴だが、まあ、やってやるか」

 その他にも続々とエーテル国軍最高幹部たちが下り立つ。

 近衛兵隊長マンディルが震えながら叫ぶ。

(近衛兵隊長マンディル)「そ、その男は指名手配されている! そいつを庇うならお前らも死刑だ!」

 トルバノーネさんは僕をチラリと見て顔を和ませるとするとすぐに目を鋭くさせる。

(トルバノーネ最高司令官)「お前ら! 構えろ! 俺の命令だ! 俺の合図とともにこいつらを殺せ!」

 エーテル国軍最高幹部たちが一斉に近衛兵隊長マンディルに殺意を向ける。

(近衛兵隊長マンディル)「お、お前ら本当に良いのか! 俺を殺したら、それこそ永遠に咎人! 商売も何もできないぞ! 今からでも遅くねえ! トルバノーネを殺せ!」

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「残念ながら私たちの上司はトルバノーネです。トルバノーネが殺せと命じたらそれに従うのが私たちです」

 皆が剣を向けると、近衛兵隊長マンディルは尻尾を巻いて、おしっこをまき散らしながら逃げて行った。

(近衛兵隊長マンディル)「て、てめえらは今日で終わりだ!」

 その後ろ姿を皆が笑った。

(トルバノーネ最高司令官)「久々に面白かったと笑いてえが、今はナツメだ! すぐに治療するぞ!」

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「命に別状はねえ。すぐに駐屯地に帰ろう!」

 僕は急いで駐屯地へ運ばれる。

 そしてそこで待っていたのは地獄の痛みだった。

(トルバノーネ最高司令官)「耐えろ! 俺が居る!」

(エーテル国軍汎用部隊隊長コスト)「痛みますが暴れたらもっと痛いです! 皆さんしっかり押さえなさい!」

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「分かってる! これくらいの荒療治何時もの事だ!」

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「さっさとしろ!」

(エーテル国軍汎用部隊隊長コスト)「行きます!」

 鼻の位置を元に戻された。顎の骨も矯正された。その痛みは僕を気絶させるに十分なほどだった。


(トルバノーネ最高司令官)「済んだな?」

(エーテル国軍汎用部隊隊長コスト)「ええ。荒療治でしたが、これで元の顔に戻ります」

(トルバノーネ最高司令官)「くそったれ! あいつら! 次に会ったら殺してやる!」

 トルバノーネ最高司令官が壁に鉄槌を穿つと、壁が見るも無残に崩れ落ちた。

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「どれもこれもお前が不甲斐ないことが原因だ」

(エーテル国軍汎用部隊隊長コスト)「止めなさい!」

(トルバノーネ最高司令官)「いや、コストの言い分が正しい。俺はナツメを守れなかった。前と同じ! ハヌーンを見殺しにしたときと同じだ!」

(エーテル国軍諜報部隊隊長ニッキー)「感傷に浸りがいが、近衛兵が攻めて来た。数は同じく1000と言ったところ。ただし、おそらくだが異世界人のアイテム、神のアイテムを装備している。少なくとも、マスケットくらいはな」

(トルバノーネ最高司令官)「マジかよ! ありがてえ!」

 トルバノーネ最高司令官が剣を抜くとエーテル国防衛部隊隊長ブラッド含め全員の兵士が剣を抜く。

 トルバノーネ最高司令官が駐屯地の入り口に仁王立ちすると、その前に近衛兵隊長マンディルが馬から見下ろす。

(近衛兵隊長マンディル)「首を差し出しに来たか?」

(トルバノーネ最高司令官)「いや、てめえらの要件を聞きに来た」

(近衛兵隊長マンディル)「要件? 聞きに来た? 誰に物を言っている?」

(トルバノーネ最高司令官)「てめえこそ誰に物を言ってやがる!」

 トルバノーネ最高司令官は剣を構える。

(トルバノーネ最高司令官)「元部下だから忠告してやるが、武器を抜いたら殺す。降参するなら殺しはしないが責任は持てない。お前らは俺らを殺すだけの武器を持っている」

 近衛兵隊長マンディルはニヤリと笑う。

(近衛兵隊長マンディル)「俺は何でも切り裂く一刀両断という刀を持っている! 英雄沖田が持っていた武器だ! それ以外にもてめえらを殺せる武器を沢山持っている! 分かったら降伏しろ!」

 近衛兵隊長マンディルの体が、トルバノーネ最高司令官の一筋で両断された。

(トルバノーネ最高司令官)「そんなもの持たなくても両断できるだろ?」

(エーテル国軍狙撃部隊隊長ウォル)「射れ射れ射れ! マスケットを撃たせるな!」

(近衛兵A)「バカな! いくらなんでもそんな遠くからあがっ!」

(近衛兵B)「なっが!」

 マスケット銃とロングボウの差は実のところ練度が容易いということ以外すべてロングボウが勝っている。それどころか射程距離も威力もロングボウが勝る。

 というのもマスケット銃には銃の要といえるライフリング、つまり弾丸を回転させる技術が無いのだ。一丁くらいならできても、数千丁も量産できる体制など、近代工業とならなければ用意できない!

 それに引き換え弓矢を回転させる技術は皆が知っている! ただそれが上手くできないだけの話! そしてエーテル国軍狙撃部隊隊長ウォルとその部下の技量はマスケット銃を軽々超えた!

(近衛兵C)「こ、この野郎! このガトリングガンがあれ」

(エーテル国軍白兵戦部隊隊長バーリ)「じゃあさっさと死ねよ!」

 エーテル国軍白兵戦部隊隊長バーリとその部下は乱戦の中縫うように近衛兵の頸動脈を切り裂く。

 たとえどんな強力な武器、ガトリングガンを持とうとも、状況が適していなければただの鉄くずである。確かにガトリングガンは強力だが、攻めには、ましてや敵味方入り乱れる乱戦には無用の長物! そしてエーテル国軍白兵戦部隊隊長バーリとその部下は乱戦を得意としていた! 敵の網目を縫うように、時には敵の股を潜り抜け、時には敵の肩に乗り、味方の邪魔をせず、ただ黙々と敵を殺していく! これこそがエーテル国軍白兵戦部隊隊長バーリとその部下の力! 乱戦でも的確に敵を殺すこの力は、乱戦時の銃を軽々と凌駕する!

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「良いところ盗られちまう! 行くぜてめえら!」

 もはや勝ち戦のため多くは語れないが、エーテル国軍切り込み隊隊長ザックとその部下が突撃するともはやエーテル国近衛兵部隊は蜘蛛の子を散らす様に逃げ帰る。銃や奇跡のアイテムに縋る余裕など無かった。それ以上に突撃してきた百戦錬磨のエーテル国軍切り込み隊隊長ザックとその部下が怖かった!

(近衛兵D)「逃げろ!」

 エーテル国軍近衛兵部隊は数百人の死者と数百人の傷者を前に、瓦解した。


(トルバノーネ最高司令官)「やった……」

 トルバノーネ最高司令官は項垂れる。

(エーテル国軍防衛部隊1番隊ブラッド)「隊長!」

(トルバノーネ最高司令官)「これが俺の望んだことか? 俺は、黒き者どもを倒すために居るんじゃ?」

 打ちひしがれるトルバノーネ最高司令官に、部下は何も言えない。

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「このバカ野郎が!」

 エーテル国軍切り込み隊隊長ザックがトルバノーネ最高司令官の顔面をぶん殴り、胸倉を掴む。

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「てめえはナツメを守るために戦ったんだろ! 何肩落としてんだ? 俺たちを舐めてるのか!」

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「もしもてめえが後悔しているなら俺が殺してやるよ! そんな心意気で俺たちを巻き込んだのならな!」

 不満をありありに、殺意をありったけ込めた足取りでエーテル国軍最重要幹部がトルバノーネ最高司令官を取り囲む。

 トルバノーネ最高司令官は苦笑する。

(トルバノーネ最高司令官)「済まねえ済まねえ! 俺がバカだった! ちっとナイーブって奴に成っちまった! もう大丈夫だ! ほら! あれは俺の奢りだ! 今日は死ぬほど食うぞ!」

 エーテル国軍最重要幹部はくすりと笑う。

(エーテル国軍歩兵部隊隊長キール)「お前ら! 今日は腹が破裂するほど食うぞ! 久々の肉だ!」

 エーテル国軍最重要幹部が腕を上げて勝利を示すと、駐屯地が勝利で震えた。

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「さあ忙しくなってきました! お前ら! 今こそ腕によりかけて飯と洗濯と掃除をする時だ! 楽しみながらやれ!」

 どたどたと駐屯地に活気があふれる!

(エーテル国軍切り込み隊隊長ザック)「暴れたりねえな! お前ら! かかって来いよ! 喧嘩してえだろ!」

(エーテル国軍狙撃部隊隊長ウォル)「これじゃあ肉が足りねえ! お前ら! さっさと取ってくるぞ! ベールの奴らに獲物を横取りされるな!」

(エーテル国軍防御部隊隊長アール)「久々ですが、椅子やテーブルに壁を治しましょう。夕食までまだ間がありますから」

(エーテル国軍輸送部隊長マール)「野菜とか酒とか持って来よう! だせえ仕事だが! こんな地味な仕事だ俺たちの仕事だからよ!」

 皆意気揚々と活発的に、自発的に動く。それがどうなるかなど考えもしない。ただやりたいから動くだけ。

(トルバノーネ最高司令官)「そうだ。これが俺の望んだ軍だ! 俺の家だ!」

 トルバノーネ最高司令官は涙を流しながらナツメが眠る医務室へ向かう。

(ナツメ)「トルバノーネさん!」

(トルバノーネ最高司令官)「ナツメ! 傷はもういいのか!」

(ナツメ)「おじいちゃんが残してくれたアイテムがありますから。すごく痛かったけどこの通りです!」

 トルバノーネ最高司令官は無我夢中といった様子でナツメを抱きしめる。

(トルバノーネ最高司令官)「ありがとよ。本当に、ありがとう」

(ナツメ)「と、トルバノーネさん?」

(トルバノーネ最高司令官)「俺は、お前に会わなかったら、お前を見殺しにしていた。あのくそどもの好きなようにさせていた。他の奴らも。お前は俺たちに誇りを思い出させてくれた」

 トルバノーネさんが僕の顎を持って美しい唇を僕に近づける。

 ダメだ! でも僕は振り払うことなど出来ない。

 こんなに真剣に思ってくれる行為を振り払うなど、僕にはもったいなくて出来ない。

(エーテル国軍白兵戦部隊隊長バーリ)「お前ら! 料理が出来たぜ! すぐに飲もうや!」

(トルバノーネ最高司令官)「バーリ! 邪魔するんじゃねえ!」

 トルバノーネさんとバーリさんが言い合う姿を見て、僕はホッとして、そして残念に思った。

(エーテル国軍炊事係隊長ベール)「ナツメも起きましたね! さあ飯ですよ飯! 腹いっぱい食べましょう!」

(ナツメ)「ハイ!」

 僕は急いでベッドから飛び降りる!

(トルバノーネ最高司令官)「ナツメ! 俺はお前が好きだ! こんな俺たちでも好きになってくれるんだからな!」

 僕はその言葉を聞いて、本当に、涙が出た。

(ナツメ)「僕も! 皆大好きです!」

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