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おじいちゃん(3/10)

完成

 ナツメがおじいちゃんと出会ってから3日、朝早くから起きて朝飯を頑張って作る。

 そして後ろでおじいちゃんが急かす。

(おじいちゃん)「ナツメよ、飯はまだか?」

(ナツメ)「おじいちゃん、昨日食べたでしょ?」

(おじいちゃん)「毎日食わさんかこの馬鹿たれ!」

 コツンコツンコツンと杖で頭を突かれる。

(ナツメ)「今作ってるでしょ!」

(おじいちゃん)「遅い遅い遅いサボるなサボるな!」

(ナツメ)「作ってまだ5分も経ってないんだよ! そんなに早く食べたかったら町に行って定食屋にでも行ったら!」

(おじいちゃん)「屁理屈言うな馬鹿たれ! ワシが起きるまでに朝飯を作らんお前が悪い!」

 コツンコツンコツン! うっとおしいなこのくそ爺!

(ナツメ)「日も出ないうちから火を起こしてるよ! 昨日は夕食作りと片付けと洗濯と掃除で夜遅くまで起きてから寝不足だよ! それでも頑張ってんだよ! なのに何で叩くんだよ!」

(おじいちゃん)「やかましい! サボるのが悪い!」

(ナツメ)「うるさいよ! 大体なんで僕がパンなんか作るの! すいとんとかスープで十分でしょ!」

(おじいちゃん)「ワシはパンが食いたいんじゃ! さっさと作れ!」

(ナツメ)「僕はパンなんて作ったこと無い! こんな料理本見てもすぐに作れないよ!」

(おじいちゃん)「物覚えの悪い奴じゃ! 頭を叩いてやるから早く覚えろ!」

 コツコツコツコツコツコツコツ! もう我慢の限界だ!

(ナツメ)「もうやだ! パンなんて作らない! すいとん! それで十分!」

(おじいちゃん)「こら! パンを作れ!」

(ナツメ)「今の僕にはこれが限界! 食べたかったら自分で作れ!」

(おじいちゃん)「この恩知らず!」

(ナツメ)「この分からず屋! もう逃げてやる!」

(おじいちゃん)「うっ!」

 突然おじいちゃんが胸を押さえながらしゃがみ込む。

(おじいちゃん)「うぅ……苦しい……パンが食えないから苦しい……死にそうじゃ。誰かがパンを作ってくれれば治るのに。例えばワシに助けられたことを忘れた恩知らずが」

(ナツメ)「その手何度目? たった3日しか経ってないけど10回は使ったよね?」

(おじいちゃん)「おぉ! ダメじゃ! もうダメじゃ! 立っていられん! 哀れなる老人、65年の月日をむなしく過ごす。アーメン」

(ナツメ)「勝手にすごしてろ!」

(おじいちゃん)「偉大なる神よ! この恩知らずとワシを許したまえ!」

 おじいちゃんが胸にぶら下げる十字架のネックレスを握り締める。

(おじいちゃん)「アーメンアーメンおおアーメン」

 そしてゆっくりとむき出しの地面に寝転ぶ。

(ナツメ)「掃除したけどここの床はむき出しの土だよ? 汚れちゃうから早く起きなって」

(おじいちゃん)「神よ、このような汚らしい場所で死ぬワシを許したまえ、掃除もできぬ恩知らずを許したまえ」

(ナツメ)「やってるよ! でもそこだと綺麗に仕切れないでしょ! さっさと立って! また体洗わなくちゃならないんだから!」

(おじいちゃん)「神よ! 恩知らずを許したまえ!」

(ナツメ)「分かったよ! 作るよ! でも夕飯だよ! 今作るのは本当に無理! それにおいしくできるかも分からないからね!」

(おじいちゃん)「全く! 文句の多いガキじゃ!」

 すくっと何事も無かったかのように立ち上がる! 切れるぞ!

(ナツメ)「やっぱりなんとも無いじゃん!」

(おじいちゃん)「やかましい! 神様が治してくれただけじゃ! それよりも、ほれ、いつものこーひーを出せ。それを飲んで一眠りする」

(ナツメ)「あのねおじいちゃん? 僕は豆引きの名人でもカフェの店主でも無いんだよ? インスタント入れるのはいいけどインスタントコーヒー無いの! また僕が重労働するの!」

(おじいちゃん)「やかましい奴じゃ! さっさと入れろ!」

(ナツメ)「分かりました! 入れますよ! いつもみたいに入れますよ! ……絶対に唾入れてやる!」

(おじいちゃん)「お前の雑念が聞こえるの!」

(ナツメ)「分かりました! ごめんなさい! だからじっとしてて!」

 おじいちゃんがずずっと一生懸命豆を擦って造ったコーヒーを一口。

(おじいちゃん)「不味いな! お前の舌腐ってるのか!」

 この爺! 調子に乗りやがって! 絶対藁人形に五寸釘打ち込んで呪ってやる!

(ナツメ)「だったら飲まなきゃいいでしょ!」

(おじいちゃん)「材料を無駄にしてよく無駄口が叩けるな!」

 おじいちゃんはぐぐっと熱いコーヒーを一気飲みするとあくびをする。

(おじいちゃん)「ワシは寝る。それまでに飯を作っておけ」

 そして椅子に座りながら目を瞑った。

(ナツメ)「ようやく静かになった」

 この3日間この調子だ。とりあえず助けてもらったことと食事や寝床に衣服を与えてくれたことには感謝する。だけどそれでも文句は言いたくなる!

(ナツメ)「だいたい無茶振りが多すぎなんだよ!」

 この3日間、家事をするのが精一杯で何も考えられなかった。それくらい大変だった。

 というかおじいちゃんがうざすぎた。

 あれが食べたいこれが食べたい。これは食べたくないあれは食べたくない。

 それどころか洗濯が遅い乾いていない汚れている。汚れたんじゃなくてさっきまであんたが着てた服だろ!

 それに掃除が行き届いていない埃がある草むしりが済んでいない。草むしりは自分がやるって言っただろ!

 もうやだやだ! さっさとご飯作って寝よ。何せ昨日から夜通し起きっ放しなんだ。この3日間ほとんど寝てない。おかげで寝不足! いい夢も見れやしない!

 夢? 何の夢を見る?

(おじいちゃん)「邪念じゃ! 活!」

 コツンと頭を叩かれる!

(ナツメ)「さっさと寝てよ!」

(おじいちゃん)「やかましい! それより朝飯はできたんだろうな?」

(ナツメ)「できました! すいとんです! 野菜もお肉も何も入ってないただのすいとんです!」

(おじいちゃん)「野菜くらい入れんかこのばか者!」

(ナツメ)「どこから野菜持ってくるの!」

(おじいちゃん)「畑から持ってこんか!」

(ナツメ)「そんなの知りませんー!」

 舌を出してやる!

(おじいちゃん)「全く、お前は何も分かっとらん! いいか! 飯を食ったら畑の場所を教える! 今日は手本を見せるが明日からは自分でやれよ!」

(ナツメ)「何今度は畑の世話! どれだけ仕事を押し付けるの!」

(おじいちゃん)「押し付ける? まだお前にはやることが山ほどあるぞ! 押し付け足りんほどじゃ!」

(ナツメ)「ああもう! 何で僕はこんなところに居るんだよ!」

(おじいちゃん)「そんなことワシが知るか! それはそうと今日近くの村に買い物に行くから畑の手入れを終えたら付き添え。荷物もちじゃ」

(ナツメ)「まだあるの! 僕を殺す気なの!」

(おじいちゃん)「泣き言言うな! それよりも!」

 おじいちゃんはずずずっと汁を吸ってすいとんを一口噛み切る。無茶無茶と咀嚼すると一言。

(おじいちゃん)「不味いの!」

 空中につるしたろか!

(おじいちゃん)「味がせん! どんな舌をしている? 今まで糞でも食ってきたのか!」

(ナツメ)「調味料も何も無いのに味付けなんてできるか!」

(おじいちゃん)「新鮮な小麦粉を使ってその言い草か! 思い出したが脱穀の仕方も教えるから今日中に覚えろよ?」

(ナツメ)「うるせー! 文句言うなら食うな!」

(おじいちゃん)「食い物を粗末にするな! この馬鹿たれが!」

(ナツメ)「ああもうやだ!」

(おじいちゃん)「それはそうとお前にこれをやる。小遣いじゃ」

 おじいちゃんに銀貨を1枚渡される。

 綺麗な銀貨だと思って手に取ると頭痛がした。

(ナツメ)「これってすごく高価な銀貨じゃない?」

(おじいちゃん)「高価じゃない! はした金だ。日本円にすると300円くらいじゃ」

(ナツメ)「なんだよそれ。300円でどうするの? 牛丼も食えないよ?」

(おじいちゃん)「やかましい! ただ飯食わせてもらってさらに金までもらえるんじゃ! 文句言うな! というかさっさと飯食え! そろそろ畑の手入れをしないと村に行く時間がなくなる!」

(ナツメ)「何でこんなに忙しないんだよ!」

 作ったすいとんをかっ込む。不味い! 何の味もしない! 豆腐を生で食べたほうが絶対に美味しい!

(おじいちゃん)「さあ全部食ったからさっさと畑に行くぞ!」

(ナツメ)「コツコツ頭を叩かないでよ! まだ残ってるんだよ! 早いよ!」

(おじいちゃん)「なら早く食え!」

(ナツメ)「ああああもうここやだ!」

 おじいちゃんと暮らして3日目、何があったのか考える暇も無く体を動かす。

(おじいちゃん)「早くせい! あとこの銀貨は預かっておくぞ」

(ナツメ)「何で僕にくれたお金を取るの!」

(おじいちゃん)「お前は邪念にまみれている! 金を受ける前に反省しろ!」

(ナツメ)「何だよそれ! 詐欺じゃん!」

 しかし忙しくても眠るときだけ自由になれる。

 ところがそうも行かなかった。

 僕はおじいちゃんに助けられてからここに居候している。そして眠るときに必ず悪夢を見る。内容は忘れるが、ただただ悲しい悪夢だった。

 眠ったときに必ず見る悪夢はなんだろうか? まるで僕がいじめられていたような?

(おじいちゃん)「雑念じゃ!」

 コツンと頭を小突かれる。

(ナツメ)「朝飯食べるから邪魔しないで!」

 全く、迷惑な爺さんだ。

 ただ、行く当てもないし、頑張ろう。さすがにニートは無理

(ナツメ)「それにしても、僕はここに来る前に何をしていたんだ?」

(おじいちゃん)「雑念じゃ!」

 ぐいっと杖のもち手でぐりぐりとほっぺたをグリグリする。

(ナツメ)「分かったよ! すぐに食べればいいんでしょ!」

 だが心の奥で引っかかる。

 僕は誰だ? 何でこんなところに居るんだ?

(おじいちゃん)「雑念じゃ!」

 コツンと頭を小突かれる! 何十回目?

(おじいちゃん)「お前が記憶を失ったのは、その記憶に価値が無かっただけじゃ。何度も言っておるだろ」

(ナツメ)「そうなのかな?」

 大事なことを忘れている気がする。

 コツン! おじいちゃんに頭を小突かれる。

(おじいちゃん)「さっさと畑に行くぞ」

(ナツメ)「もういちいち叩かないでよ」

(おじいちゃん)「忘れた過去に囚われるのがいけない。邪念じゃ」

 とにかく、僕はなんだかんだと生活できていた。

 この偏屈爺さんの態度がもっと良かったら幸せだったけど、飢え死にしないし寝床もある。

 それにこの爺さんと居るのも意外と悪くない。

 ここ3日間暮らして思ったことだ。

 何が悪くないのか分からない。

 でも、一緒に居てくれると温かい気持ちになれた。

 一人ぼっちで居ると感じる悪寒を感じなかった。

 だから、おじいちゃんともうしばらく一緒に居よう。

 

(おじいちゃん)「何をぼんやりしてるんじゃ?」

(ナツメ)「別に」

 そんなことを思いながらおじいちゃんの後を付いていって畑に向かう。

 日差しが気持ちよかった。


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