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23歳

一度完結にして、終わった話なのですが、どうしても続きを書きたくて。

あれから時がたち、23歳になったリリーローズさんはどこかへ移動中です。

成長し、立場が変わりましたので一人称が『わたくし』になっています。



馬車が王都を守る、大きな門を抜けました。

門の外は木造の、背の低い建物が並んでいます。やがてそれらは露店商になり、今度は草原になりました。


「都の外に行くのは久しぶりだろう」


王子の声に、わたくしはチラリとだけ彼に視線を向けました。


「そうね」


この国の第一王子ダリウス。誰もが憧れる、優秀で美しく、お優しい王子様。不愉快なことに、わたくしの夫、そして天敵でもあります。


わたくしがこの男に出会ったのは12の時でございました。そのとき、努力と根性により全ての魔法を使いこなすわたくしは、この男の存在に恐怖いたしました。

だって、わたくしの魔法と、彼は決定的に波長が合わないのです。わたくしの行使できる全ての魔法が、このダリウスという男に近寄られただけで、消滅してしまうのです。


腕力でも権力でも敵うわけがなく、犬のように飼い殺しにされてしまうことが決定した瞬間でした。


ダリウスとわたくしは、よりにもよって13で婚約。14で婚姻。ちなみに、この国に婚姻可能年齢というものは存在致しません。早ければ産まれた瞬間に婚姻を結べます。けれど、慣例として、学校を卒業する、18歳以降に婚姻を結ぶというのが常識です、つまりこの男は変態の非常識ということです。


いくら魔法の行使が難しかろうと、魔法と魔術の全てを封じられた訳ではありません。わたくしは王宮にわたくし専用の離れを要求いたしました。

そこに、奴隷を20人雇い入れ、魔法薬と魔術具の研究に打ち込むことに致しました。本日はその成果、日焼け止め効果のある窓ガラスを使用した馬車での移動となっております。だって、彼との移動では日焼け止め効果のある結界を張れないのですから、しかたのないことでしょう。


窓の外には畑が広がっています。近くの町が近づいたのでしょう。家族なのだろう四人組が何かの畑仕事をしている様子が見えました。


「のうのうと」


服装からして、それなりに裕福な農民なのだとわかります。裕福な農民は使用人や奴隷を雇い、畑仕事や家事を手伝わせるのです。

わたくしは心に生まれた毒を撒き散らしたい気分で一杯になりました。


「そうだね、良い風景だ」


にこやかな笑顔で微笑むダリウスを、わたくしは睨み付けました。


「この前、遠隔操作のできる爆発物を開発しましたの。ここからでも王宮に放ってみようかしら」


スタン、と音がします。頬に痛みを感じます。姿勢を変えれば、どうやらわたくしの頬はダーツの的になり損ねたようでした。わたくしは奥歯を噛み締めました。ダリウスがこのように至近距離にいる今、わたくしは回復魔法も行使できないのです。


「やらないよね?」


焼けるような視線に、わたくしはこの視線が本当に熱を持っていて、この身の内の憎しみをどうにかしてくれれば、と願ってしまいました。


「………傷を治してくれるのなら、城に帰るまでは我慢するわ」

「良い子だ」


わたくしが魔法を行使できなくなろうが、ダリウスはそうではないのです。魔力ではわたくしの遥か足元に及ばないくせに、わたくしはこの男に永遠に敵わないのです、腹立たしい。


わたくしの正面に座っていたダリウスはわたくしの隣に移動してきました。頬に唇を触れてから、回復効果の高いお薬を塗ってくれます。これは、回復魔法を使えなくても、魔力さえあれば使用できるお薬でわたくしが開発したものです。あのときは半年程、離れに籠って倒れるまで、研究に没頭したものです。


馬車は町に入り、王都程では無いけれど、賑やかな風景が広がっています。なんと呑気なことでしょう。わたくしが魔王にお願いすれば、こんな町のひとつやふたつ、ダリウスの妨害があっても簡単に壊せてしまえるのに。


「君は、幸せそうな風景を見ると、いつも辛そうにするんだ」


ポツリ、とダリウスがわたくしに呟きます。


「それと、貴族や王族も」

「ええ、わたくし、そういう人達がだいっきらいよ。こんな世界、滅ぼしてやりたい」


わたくしにはその能力があるのです。いつだってできてしまうのです、ダリウスさえいなければ。ダリウスの邪魔がなければ、とうにわたくしはこの国ばかりでなく、世界を滅ぼしていたことでしょう。


わたくしの母はとても美しい人でした。わたくしの母を殺し、回復能力を持つわたくしに地獄の苦しみを与えた者達が、この国の貴族です。


当然、当事者たちはとっくの昔に処分済みです。


「しないよ。僕がいる限り、君はそんなことをしない」


ダリウスはわたくしの肩を引き寄せ、わたくしを抱きしめようとしています。


………先日、隣国との国境より、開戦の知らせが入りました。当初小競り合いで済むかと思われた戦況は、偶然発生した魔物の大発生により泥沼化。わたくしに、その場の蹂躙が許可されたのです。


「戦場であれば、好きなだけ憎しみを発散させていいから………ね?」


わたくしはされるがまま、ダリウスの腕の中に収まりました。


腹立たしいことに、なんとも悔しいことに、12のときよりこの男に飼い慣らされてしまった23のわたくしは、この男の腕の中にいる時だけは、憎しみを忘れることができるようになってしまっているのです。


わたくしがどれだけ策を労しても、結局わたくしはこの男の命を奪えない。


わたくしがこの国を傾ける為、わたくしがどんなに努力しても、工夫を凝らしても、この男はさらに頑強に、健やかに国を伸ばしてしまうのです。これはもう、全てにおいて、わたくしとダリウスは絶望的に相性が悪いとしか思えません。


ダリウスの、温かく落ち着ける腕の中で、わたくしはため息をつきました。


わたくしは敗けたのです。諦めるしかありません。


実は、この男には他の女をあてがい、跡継ぎを用意させています。今まではその親子に多少の不遇を与えることで溜飲を下げていたのですが。それもそろそろ止める潮時でしょうか。


今回は、うまいこと戦争を起こすことに成功したものです。しばらくは………そうね、あのいまいましい子供が学校に入れるくらいまでは、この戦争と、国境近くの町のいくつかを蹂躙するだけで、我慢してやりましょう。


………まぁ、不老長寿の妙薬の開発に着手して、ダリウスがいなくなってしまった世界なら、滅ぼしてやろうかなと今は思わなくもない。








というわけで、ダリウスさんの腹黒()力が勝ちました。


これ以上の続きが書きたくなったときは、別作品として置くつもりです。


リリーローズさんの主にやったと思われること

・衣装や装飾品、その他あれこれと使い込み

→ダリウスの誘導により、新しい流行の創出、そして経済の活性化、他国への輸出


・ダリウスの暗殺未遂

→軍や騎士等の強化


・国王派などへの政治基盤への攻撃

→膿を出し、『強い王権』に


・市民への流言飛語、『強い王権への不信感』を植えようとする

→経済の活性化による好景気、美しい王子夫婦などで支持率アップ


リリーローズさんは『魅了』持ちみたいなものなので、支持者はとても多いのですが、それでもなぜかダリウスには絶対的に負けるのです。


唯一、ダリウスが負けたのが、薬混入の酒を飲んでしまい、リリーローズ以外の女性と関係を持ってしまったことで、そのたった一回により、ダリウスはより毒物を警戒するようになりましたし、めでたく後継者となる男子が産まれています。リリーローズ13歳の時の事件です。


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