空の化け物
カイは次々と無人機を撃墜していく。
先ほどまでアレクセイとの決着に注がれていた衝動を、そのまま戦場へ叩きつけるように。
未だ収まることのない高揚を、敵という存在へぶつけるように。
スロットルは限界。
黒い機体は空域を縦横無尽に駆け抜ける。
HUDに映る赤い識別マーカーが、一つ、また一つと消えていく。
照準。
発射。
撃墜。
その一連の流れに、一切の無駄は存在しなかった。
無人機が反応するより早く機銃弾が機体を貫き、回避へ移る前にミサイルが命中する。
機体は火球となって四散し、燃え尽きた破片が冬の空から降り注いだ。
「速すぎる……!」
連邦軍パイロットの悲鳴が無線へ流れる。
「どこから現れた!」
「レーダーが追いつかない!」
「黒翼だ! 黒翼が来たぞ!」
混乱は瞬く間に前線全域へ広がっていった。
帝国軍将兵は誰もが息を呑んで空を見上げる。
黒い翼が飛ぶ。
ただ、それだけで敵編隊が崩壊していく。
その姿は英雄という言葉だけでは到底言い表せなかった。
夕闇を裂きながら飛ぶ漆黒の機体は、まるで冥府から死を運ぶ翼そのものだった。
カイは戦場すべてを支配していた。
陸も。
海も。
空も。
そこに境界は存在しない。
敵が現れれば墜とす。
ただ、それだけだった。
圧倒的な技量。
圧倒的な速度。
そして圧倒的な暴力。
恐怖そのものを兵器へ変えたような存在だった。
連邦軍では「黒翼接近」の報告だけで隊形が乱れ、無人機の管制官たちでさえ次々と交信を失っていく。
戦場は、黒い翼の通った跡から静かになっていった。
燃え落ちる無人機だけが、その軌跡を物語っていた。
その日、多くの帝国軍パイロットは後年こう語った。
「あの日、空には確かに英雄がいた。」
「だが同時に、あれは空そのものでもあった。」
「空そのものが、黒い翼の姿を借りて飛んでいたのだ。」
一方で、生き残った連邦軍将兵は震える声で証言した。
「あの日、我々は決して目覚めさせてはならない化け物を呼び覚ましてしまった。」
「天空の王との決闘を無人機で遮った瞬間から、黒翼は変わった。」
「あれは復讐でも怒りでもない。」
「もっと原始的で、もっと恐ろしい何かだった。」
そして、東部戦線では後にこんな噂が語られるようになる。
「蒼穹の女神アステリアがお怒りになられたのだ。」
「あの決闘を邪魔したことで。」




