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黒翼の英雄〜羽撃け名もなき空へ 〜  作者: ぺぺ


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32/43

次なる目的地へ

「じゃあよろしく頼む」

男は軽く手を上げた。

「行くぞ、アレン」

「ありがとうございました」

アレンは深く頭を下げる。

少将はしばらくその姿を見つめていた。

そして、不意に口を開く。

「君は彼を見つけて、何を聞くんだい」

部屋の空気が静かに張り詰めた。

「私は……」

「私は、ある人たちの最後を聞きたいんです」

 少将の目がわずかに細くなる。

「それは……」

だがアレンは静かに首を振った。

「すみません」

「それはちょっと...」

短い沈黙。

少将は追及しなかった。

「……そうか」

「ともあれ、頑張れよ」

「はい」

男が扉を開ける。

「海軍省まで結構距離あるんだよなぁ」

途端に空気が少し軽くなる。

「そんなに離れてるんですか……」

「四時間ぐらいだろ」

「それは遠いですね」

「帝国は広いからな」

男は面倒臭そうに頭を掻いた。

「しょうがねぇ、行くか」

二人は廊下へ出る。

陸軍省の廊下には古い戦争画や勲章が並び、行き交う軍人たちが男を見るたび、わずかに姿勢を正していた。

若い士官の一人など、明らかに息を呑んでいる。

「あれ……まさか」

「おい見るな、失礼だぞ」

男は気にも留めず歩いていく。

アレンはその背中を見る。

白翼。

本人は否定しても、この国の英雄なのだと実感する。

外へ出ると、冬の風が吹き抜けた。

灰色の空の下、巨大な帝都が広がっている。

道路を軍用車が行き交い、遠くでは飛行船の影がゆっくり空を横切っていた。

男は煙草へ火を点ける。

「疲れてないか?」

「大丈夫です」

「そうか」

紫煙が風に流れていく。

「けどまぁ、海軍の連中は陸軍より面倒なの多いぞ」

「そうなんですか?」

「プライド高いからなぁ」

「お前も変なこと言うなよ?」

「気を付けます……」

男は苦笑した。

「安心しろ。どうせ向こうもお前見たら興味持つ」

「アイツを追って世界中回ってる変人なんて珍しいからな」

「それ褒めてます?」

「半分ぐらいは」

二人は車へ乗り込む。

エンジンが低く唸った。 

帝都の街並みがゆっくり流れ始める。

窓の外では帝国旗が風に揺れていた。

その赤と黒の色を見つめながら、アレンは静かに思う。

自分は今、本当に後戻りのできない場所まで来ているのだと。

黒翼を追う旅は、ただの調査ではなくなっていた。

それは、この帝国が抱え続けた傷跡を辿る旅だった。

────────────────────────────────────────────────

「クッソ、渋滞にハマった……」

男がハンドルへ突っ伏すように額を当てた。

海軍省へ続く高速道路は、見渡す限り輸送トラックで埋まっていた。

巨大なコンテナ車両、燃料輸送車、軍用ジープ、海軍の紋章を付けた補給車列。

灰色の車体が延々と連なり、冬空の下で鈍く光っている。

「すごい渋滞ですね……」

アレンは窓の外を見ながら呟いた。

遠くでは軍港の巨大クレーンが見えている。

煙突から黒煙を上げる艦艇群の影も見えた。

「主力艦隊の入港日に重なったのか……」

男は深いため息を吐く。

「こりゃ、いつ抜けられるかわからねぇぞ」

周囲ではクラクションが鳴り響き、運転手たちの怒鳴り声が飛び交っていた。

だが車列はまったく動かない。

「どうすっかなぁ……はぁ~」

「これ絶対四時間以上かかりますね」

「だろうな」

男は煙草を取り出したが――周囲を見て諦めた。

「最悪だ」

そう言いながらシートへ深く座り直す。

しばらく無言が続いた。

エンジン音、クラクション、遠くの汽笛。

その騒がしさの中で、男はふと横目でアレンを見た。

「時間もあるし、続きを話してくれないか」

「……続きを?」

「あの後だよ」

「お前は、八芒星を見つけた後どうしたんだ」

アレンの指先がわずかに動く。

窓の外では、灰色の空を海鳥が横切っていった。

「私は……」

その言葉と同時に。

記憶の底から、あの冬の匂いが蘇る。

雪混じりの風。

酒場の灯り。

父のギター。

そして――。

八芒星の部隊章を付けた男たちの笑い声。

アレンは静かに目を伏せた。

車内の空気が少しだけ重くなる。

男は急かさずに、ただ黙って待っていた。

まるで、自分もまた過去を聞く覚悟を決めているように。

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