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黒翼の英雄〜羽撃け名もなき空へ 〜  作者: ぺぺ


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プロローグ

---天空記一〇四八二年。


アストマリア世界は、表向きにはかつてない安定と繁栄の時代を迎えていたが、その平穏の裏側では誰も気付かぬまま巨大な歯車がゆっくりと回り始めていた。

豊潤な資源と広大な平原、そして一万年を超える歴史を持つ中央大陸アルセリアを完全に支配するノルヴァイン帝国と、東部大陸ヴァルディア全土を統一し世界最大の経済圏を築き上げたヴェルテクス連邦との間では、二十年に及ぶ長い冷戦が続いていた。

両国の対立は単なる国家間の利害衝突ではなく、歴史、価値観、そして世界そのものの在り方を巡る根深い対立であり、両国の間に存在する溝は年月を経ても埋まることはなかった。

ヴェルテクス連邦は現在こそ自由と民主主義を掲げる超大国として世界各国から支持を集めていたが、その繁栄の礎には決して語られることのない血塗られた歴史が存在していた。

かつてヴァルディア大陸には多くの国家が存在しており、その中には古くからノルヴァイン帝国と友好関係を築き、軍事や経済、文化の面で深く結び付いていた国家も少なくなかった。

しかし、ヴェルテクス連邦は独立と統一の名の下に大陸全土へ進出し、抵抗する諸国に対して容赦のない戦争を繰り広げ、多くの国々を滅ぼしながらヴァルディア大陸を一つの旗の下へ統合していった。

帝国と長い友好関係を築いていた同盟国の多くはその戦火によって消滅し、ある国は武力によって併合され、ある国は歴史そのものを失い、そしてまたある国は地図上から完全に姿を消していった。

当時、ノルヴァイン帝国は同盟国を救うため大規模な遠征軍を派遣し、その圧倒的な軍事力によって各地で連邦軍を圧倒し、一時は戦局を覆すほどの戦果を挙げていた。

しかし、広大な海を越えて展開した遠征軍は長大な補給線の維持という深刻な問題に直面し、継戦能力の限界に達したことで、優勢を保ちながらも撤退を余儀なくされた。

派遣された帝国軍は多大な損害を被り、数え切れない将兵たちが異国の空と大地で命を落とした。

帝国にとってヴァルディアの喪失と同盟国の滅亡、そして救うことのできなかった戦友たちの死は決して消えることのない傷跡となり、それが後の二十年にも及ぶ冷戦の始まりとなった。

以来、両国は国境線を越えて直接衝突することこそなかったものの、外交、経済、情報、諜報、軍事演習などあらゆる分野で激しい対立を繰り返し、一触即発の緊張状態が続いていた。

そしてその長い対立の中で、ノルヴァイン帝国は徐々に国際社会から孤立していった。

外交は必要最小限に制限され、貿易も戦略的に管理されるようになり、帝国はまるで世界から切り離された巨大な要塞国家のような姿へと変貌していった。

しかし、世界各国による孤立化政策や経済制裁は、帝国に決定的な打撃を与えることはできなかった。

アルセリア大陸には石油、石炭、天然ガス、レアメタル、貴金属など膨大な資源が眠っており、帝国はそれらを完全に掌握していた。

さらに高度な技術力と長い歴史の中で培われた産業基盤によって、帝国は外部との交流を失ってもなお自給自足を維持することが可能であり、他国からの圧力を受けても揺らぐことのない強固な国家体制を築いていた。

そして何よりも、世界最強と称される巨大な軍事力は今なお健在であり続けていた。

世界最古の空軍として知られるノルヴァイン帝国空軍は、現在の航空戦術の基礎を築いた存在として各国から畏怖されており、その名は今なお伝説として語り継がれていた。

膨大な兵力を誇る陸軍、世界最大級の有人艦隊を擁する海軍、そして空を支配する空軍は、いずれも圧倒的な実力を保持しており、誰一人として帝国への直接侵攻を現実的な選択肢として考えることはできなかった。

一方のヴェルテクス連邦は、世界史上かつてない繁栄の絶頂に立っていた。

統一されたヴァルディア大陸は世界最大の市場を形成し、多国籍企業群は世界経済を支配し、航空宇宙技術や情報技術は他国を大きく引き離していた。

さらに連邦は巨大な軌道エレベーターを建設し、宇宙空間に展開した太陽光発電衛星群から莫大なエネルギーを地上へ供給することに成功していた。

軌道エレベーターによって生み出される膨大な電力はヴァルディア全土へ送電され、連邦経済のさらなる発展を支える原動力となっていた。

かつて資源を巡って争い続けてきた人類は、新たなエネルギーによって繁栄の時代を迎え、多くの人々は永遠に続く平和が訪れたと信じ始めていた。

自由と民主主義を掲げるヴェルテクス連邦は数多くの国家と同盟を結び、安全保障、金融、貿易、通信、宇宙開発などあらゆる分野で世界に絶大な影響力を及ぼしていた。

世界各国は連邦市場に依存し、連邦の金融政策一つで各国の経済が大きく左右されるほど、その存在は巨大なものとなっていた。

もはや世界はヴェルテクス連邦なしでは成り立たないとさえ言われ、多くの人々は連邦こそが世界秩序そのものであると考えるようになっていた。

そしてここ数年、世界情勢は比較的安定していた。

大規模な戦争は発生せず、経済は成長を続け、人々は久しぶりに訪れた平穏な日々を享受していた。

街には笑顔が溢れ、子供たちは未来を夢見て空を見上げ、誰もがこの平和が明日も続くものだと信じて疑わなかった。

だが、その平和は極めて脆い均衡の上に成り立つ仮初めのものでしかなかった。

戦争の影は、既に人々のすぐ足元まで静かに迫っていた。

後に「名もなき戦争」と呼ばれることになる世界大戦という地獄が、誰にも知られることなくゆっくりと姿を現し始めていたのである。

そして、既に異変はヴェルテクス連邦政府の内部で起きていた。

長年にわたる帝国との対立に終止符を打つべきだと主張する強硬派の将校たちが軍内部で勢力を拡大し始めていた。

さらに政府内では急進的な政治思想を持つ過激派議員たちが影響力を増し、国家運営の中枢へと浸透し始めていた。

彼らは口を揃えて同じ言葉を繰り返した。

「ノルヴァイン帝国を打倒しなければ真の平和は訪れない」

「世界から最後の障壁を取り除かなければならない」

「ヴェルテクス連邦こそが唯一の覇権国家となるべきである」

その思想は少しずつ政府内部へ広がり、やがて国家そのものを戦争へ向かわせる巨大な流れとなっていった。

誰も気付かなかった。

誰も止めることができなかった。

人々が平和を信じていたその時、世界は既に破滅への道を歩み始めていた。

そして、空は再び戦場となる。

歴史書に残ることのない英雄たちと、誰にも知られることなく散っていく無数の命によって紡がれる、名もなき戦争の時代が始まろうとしていた。



皆様、はじめましてぺぺと申します

初めての執筆、しかも初回のプロローグということで違和感があると思いますがどうか温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

主軸にしていく国はのノルヴァイン帝国です。

一応主人公は結構経ってからノルヴァイン帝国のパイロットとして登場する予定です。

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