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私は転生者だ。
生まれた時から前世の記憶があった。
生まれてから数えるほどしか会ったことのない父親が、後妻とその連れ子を連れて来たのは私が10歳になってすぐだ。
義姉になるべティーを紹介された瞬間、この世界が前世でやり込んだ乙女ゲームの世界だと気づいてしまった。
私はその乙女ゲームの登場人物で・・・・・・悪役令嬢であるリリーシア・ミラドール公爵令嬢だということも・・・・・・
乙女ゲームにはよくる攻略対象者の王子の婚約者が悪役令嬢という設定も同じだった・・・・・・
その乙女ゲームの内容は、攻略対象者とヒロインが学園で出会い、困難を乗り越え最後には結ばれるという鉄板のパッピーエンドものだ。
その困難に欠かせないのが悪役令嬢の私だ。
そして、その悪役令嬢は断罪され・・・・・・処刑されるのだ。
あの乙女ゲームではヒロインがどの攻略対象者と結ばれても何故か悪役令嬢のリリーシアは処刑されるのだ。
だからこそ、自分は無害な人間だと思われるように、父親に存在を無視されようが、義母と義姉のべティーから嫌味と暴力を振るわれようが、べティーに私物を盗られようが、生まれた時から世話をしてくれていた乳母のマリーと親しいメイドたちを解雇されても抵抗することも抗議することもしなかった。
それどころか、媚びを売るように常に笑顔を貼り付けていた。
私の婚約者であるギリアン第2王子殿下の前でもだ。
誰にも嫌われないように・・・・・・
誰も怒らせないように・・・・・・常に気を配っていた。
本来の乙女ゲームで悪役令嬢であるリリーシア・ミラドールのように権力を振りかざし我儘で傲慢にならないように・・・・・・
生きるために、馬鹿な私はそうする事しか思いつかなかったのだ。
父親が私に与えたものは公爵令嬢としての教養を身に付けさせるための教師と、身分に相応しい品格を維持するための十分なお金だけ。
もちろん厳しい王子妃教育も、寝る間も惜しんで予習復習を欠かさず、王妃様からも教師からも認めてもらえるよう努力した。実際認められていた。と、思う。
何年間も上辺だけは良き娘であり、成績優秀で礼儀作法もマナーも完璧ないい子を演じ続け、婚約者であるギリアン殿下ともお互いに愛や恋などという感情はなくともそれなりに信頼関係を築けていた。と、そう思っていた。
ヒロインのべティーが攻略対象者のギリアン殿下を選んだのなら、潔く身を引くつもりだった。
円満に婚約解消ができると・・・・・・そう信じていた。
でも、私は身に覚えのない濡れ衣を着せられて断罪された。
一度目の人生・・・・・・私は17歳で殺された。
義姉のべティーを虐めたという、たったそれだけの理由で処刑されたのだ。
私は一度だって義姉を虐めたりしていない。
物を取られても、ドレスを破かれても、叩かれても、お母様の形見を奪われても・・・・・・口答えも抵抗も反抗もしなかったのに・・・・・・
国王夫妻と王太子殿下が他国の王族の結婚式で国を留守にしている間とはいえ・・・・・・ああ、だからこそか・・・・・・だからこそべティーの証言だけで処刑が強行されたのか・・・・・・
でも、そんな些細な理由で人ひとりの命を簡単に奪うことに、異議を唱える者はいなかった。
そう、誰一人として私の無実を信じてくれる人は居なかった。
この国に私の身を案じてくれる人は誰も居なかったのだ・・・・・・父親ですら・・・・・・
ねえ? 信じられる?
義姉を虐めたという理由だけで処刑されるなんて・・・・・・
ねえ? こんな理由で命を奪われるなんて・・・・・・ありえる?
こんな国、滅んでしまえ!
・・・・・・でも、もういい。
王宮の外れにある処刑場にはパーティー会場から移動してきた学園の卒業生と生徒たちが集まっている。
私の死を今か今かと待ち望んでいるのが見て取れる。なんて残酷で醜いのだろう。
転生なんてするものじゃないわね・・・・・・
心はこの状況を諦めていても、それでも怖い・・・・・・死にたくない。
足掻いても無駄だって分かっている。
それでも・・・・・・お願い・・・・・・誰か助けて・・・・・・
シャッ・・・・・・ギロチンの刃が落ちてくる音が聞こえた瞬間、微かに『リリー!』とお母様が亡くなってから呼ばれることがなくなった私の愛称を誰かが叫んだ気がした。
最後に見たものはべティーの意地の悪いニヤついた顔と、私を冷酷な目で見下ろす元婚約者のギリアン殿下。
そして、それを遮る大きな手のひら・・・・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
目覚めた瞬間、二度目が始まったとすぐに確信した。
また同じ世界に戻ってくるなんて本当に乙女ゲームや小説のようだ。・・・・・・面倒臭い。はっきり言ってこれが本音。
お父様は私がどんなに努力しても認めてくれることはない。
お義母様は私が従順でも憎しみを向けてくるだけ。
べティーは、私のものは何だって欲しがり奪っていく。
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても許したのに・・・・・・
だったら・・・・・・もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もない。
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。




