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第20話 性的なもので頼む

「反逆者らしい無様な最期でしたな。妻を生贄にして召還したレッサーデーモンの魂に肉体を奪われた挙句、実の娘に殺されるとは。フフフ。悲劇として公開すれば、多少は人気が出るかもしれませんな」


「トルドール!」


 今にも掴みかかろうとするティエナをレイシャルラが押さえる。


 マーラの滾り度が減少している状態では、神聖騎士として鍛えているレイシャルラにはさすがに敵わない。


 だがトルドールへの暴行を未然に防いだレイシャルラもまた、先ほどの発言を快くは思っていなかった。


「何も知らされていなかったのであれば、彼女に罪はありません。挑発するような言動は控えていただけますか?」


「これはこれは、神聖騎士様はお優しいですな。しかしながら、これは我が国の問題。いかに同盟関係であろうとも、必要以上の口出しは褒められませんな。フフフ。とはいえ、私はまだ次期国王であって、国王ではない。この程度でやめておきましょう」


 次期国王という発言が効いているのか、注意したはずのレイシャルラが「ありがとうございます」と頭を下げた。


 おかげでトルドールは上機嫌だ。レイシャルラに取り押さえられたティエナを見下ろし、くしゃりを顔を歪める。


「フフフ。両親を失った貴女に居場所はもうありません。おとなしく私に屈服しなさい。そうすれば、少しでも優しくしてくれそうな貴族のもとに嫁がせてあげますよ」


「トルドール様、そのくらいでおやめください。ティエナさんは教会でお預かりします。悪魔召還を果たした人物の関係者である以上、自由にしておくことはできません。他にも情報を知っている可能性もありますし、その場合は殿方にはお見せできない方法でお話をしてもらうことになるでしょうから、同行もご遠慮願います」


 身震いするティエナを楽しむように眺め、気色の悪い笑い声を撒き散らす。トルドールという男の最悪さはマーラをも上回る。


「ではお任せすることにしましょう。しかし、最終的にはこちらにティエナの身柄を引き渡してもらいますよ」


 有無を言わせぬ口調だった。次期国王というのもあってか、レイシャルラは素直に頷いた。


 満足したように目を細めると、トルドールは最後にティエナを一瞥して、もう用はないとばかりに背を向けた。


 小さくなっていく背中を、呪い殺さんばかりにティエナは睨みつける。


「あのトルドールって奴の屋敷はどこにあるんだ? 王城の中か?」


 足音すら聞こえなくなったところで、マーラがティエナに聞いた。


「トルドールの屋敷なら王城の近くよ。王城に住むのは現国王とその家族。あとは護衛の兵士たちね。王城に近い屋敷ほど次期国王に近い、いわば権力の証みたいなものね」


「ということは……」


「そうよ。今現在トルドールが住居としているのは、以前まで私たちが住んでいた屋敷。この国の王位継承権を得た者としてわかってはいるけど、思い出の詰まった家を好き勝手にされるのは面白くないわ。ところで、どうしてあんな奴の住所なんて気にするのよ」


 怪訝そうにするティエナに、ため息をつきつつマーラは「お前はアホか」と言った。


 トルドールとのやりとりもあってイラついているティエナは、すぐに何よと目を吊り上げる。


「どう考えても、あの男は怪しいだろ。俺に自己紹介した時点でな。意思を持つ魔剣だとでも知ってない限り、あんな真似はしないだろ」


「レイシャルラさんが教えたんじゃないの?」


 レイシャルラが首を左右に振る前に、マーラは違うとティエナの言葉を否定した。


「ティエナが俺の所有者になってるのを、この場に到着するまでレイシャルラは知らなかった。なのに捨ててきた魔剣の話などするわけがない」


「じゃあ、トルドールは最初からアンタの存在を知ってたってこと? どうしてよ」


「わからないから怪しいんだろ。それに魔法陣を調べてたレイシャルラよりも先に、トルドールはティエナの両親がいなくなった原因を説明した。悪魔召還の知識がないのなら、神聖騎士よりも先にレッサーデーモンに乗っ取られたなんて回答は出てこない」


 ティエナの方を向いたレイシャルラが頷く。


「そこのいかがわしい魔剣の言う通りです。これだけの書物を集めていながら、私の知っている悪魔召還の魔法陣と細部が違っていたのも気になります。詳しく調査しようにも、血で一部が消されてしまっていますしね」


「で、でも、私を教会へ連れていくんでしょ。拷問する気なのね」


「うむ。性的なもので頼む」


 反射的に願望を口にしてしまったせいで、ティエナとレイシャルラ、とどめにミューリールにもジト目を向けられてしまう。


「じょ、冗談だ……二割くらいは」


「八割も本気なの? まあ、今さらアンタのスケベぶりには驚かないけど」


「さすが俺の所有者だ。じゃあ、早速出発するぞ」


「どこに?」ティエナが聞いてくる。


「トルドールの屋敷に決まってるだろ。レイシャルラもそのつもりだったから、拷問をにおわせるような発言までして立ち去らせたんだろうしな」


 そうなのかと視線を向けるティエナに、レイシャルラは軽く微笑む。異性よりも同性から人気の出そうなタイプだけに、そうした動作がひとつひとつ絵になる。


「状況証拠だけで判断すれば、悪魔を召還した犯人はティエナさんのお父様になります。しかしながら王家を追われた理由や、先ほどのトルドール様の発言等を考慮すれば、誰かにそそのかされた可能性を否定できません。聖国の、そして教会の人間である私たちには真実を調べる責任と義務があります」


「ふわあ。レイシャルラさんって真面目な人なのね」


「ああ。凛とした真面目なレイシャルラが時折見せる女の顔と体。それがたまらなく俺の興奮を誘うんだ」


「アンタ、真剣に何を言ってんのよ」


「……最近はこういう発言にも、あまり恥ずかしがったりしなくなってきたな」


「それだけアンタに慣れてきたってことよ。感謝しなさい。私以外にいないわよ。所有者になってくれる若い女性は」


 ニヤリとするティエナに、マーラは「フン」と返す。決して嫌な感じはしなかった。


「あとはディグルだな」


「そうよ、ディグルだわ!」


 たった今、思い出しましたとばかりにティエナは慌てた声を上げた。


「おいおい。大切な弟の存在を忘れてたんじゃないだろうな」


「弟?」


 何故か不思議そうにしたレイシャルラをひとまず無視して、マーラはティエナとの会話を継続する。


「別に忘れていたわけじゃないわ。でも変なのよね。あんなに大切な弟なのに、時折どうでもいいと思うことがあるの」


「深層心理ではディグルを嫌ってたりしてな」


「笑えない冗談は嫌い。一度家の中を調べて、トルドールの屋敷へ行きましょう」


 すぐに追いかけるよりは、少し時間を置いた方がトルドールも油断しているかもしれない。提案自体にはマーラも賛成だった。ティエナの不思議な感情はともかく、ディグルの無事を確認したい思いがある。


「ディグルさんというのは、ティエナさんの実弟なのですか?」


「そうよ。とても大切な弟なの」


「……わかりました。では私も一緒に探しましょう」


 レイシャルラのみならずミューリールも捜索に協力してくれたが、ディグルどころか手がかりすら発見できずに終わった。


 ティエナの自宅地下を保管するために、ミューリールがひとりで残った。マーラとティエナ、それにレイシャルラの三人は並んで街中を歩いている。目的地はトルドールの屋敷だ。


「正面から堂々と行ったって、相手にしてもらえないだろ」


「だからといって、忍び込むような真似は許容できません。協力をお願いすべきです」


 屋敷を出た当初から、マーラとレイシャルラの意見は対立していた。トルドールが怪しいと聞いたティエナは、マーラの味方だ。


「別行動にすればいいじゃない。次期国王を狙う人間にとって、スキャンダルは致命的。教会の関係者でもあるレイシャルラさんに頼まれれば、どうぞ屋敷の隅々まで調べてくださいと言うと思うわよ」


「私が調査をしている間、ティエナさんはどのように行動なさるおつもりなのですか?」


「知人を訪ねて、聞き込みをするわ。有益な情報が得られるかもしれないし」


「わかりました。そこのいかがわしい魔剣の口車には、決して乗せられないでください。今、着ている服のように」


 レイシャルラが、ティエナの服装を眺めてため息をつく。


 破いたドレスは嫌だからと、ティエナは自室で着替えていた。


 動き易そうなノースリーブのシャツに、ホットパンツ。ニーソックスにブーツという恰好だ。


 両手には父親が愛用していたというガントレット。胴体には何も装備していない。鎧を着こんだりすれば、筋力のないティエナではマーラの力が失われると動けなくなってしまう。何よりスキルの加護を得るためには、エロエネルギーを供給し続けなければならない。


 理解した上であえて露出度の高い服を選び、着こなしている。それがレイシャルラは気に入らないみたいだが、マーラの力を必要としているティエナには他に選択肢がなかった。


「着いたわよ。あそこがトルドールの屋敷」


 トルドールは自ら教会に出向いて、ティエナのダイン家の調査を依頼しただけに、レイシャルラもここに来るのは初めてみたいだった。


 話していた通り、ここからは別行動になる。最後にもう一度だけティエナを見たレイシャルラが大きく息を吐いたが、マーラは何も言わなかった。

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