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第21話 そんなことを言っても、滾ってなければ俺は並以下の剣なんだよ

 レイシャルラがトルドールの屋敷の玄関に向かい、ドアをノックした直後にティエナも動き出す。


「レイシャルラさんって、想像以上に真面目な性格をしているみたいね。私にしていたみたいに、あの人にも接していたのだとしたら、捨てられて当然だわ」


「だからといって下ネタ大好きなエロ女に、私を見てとばかりに裸になられてもあまり滾らないしな。恥ずかしがる女を卑猥にからかって、エロい部分を引き出す作業もまた自身を燃え上がらせる原料になるのさ」


「なんだか渋い声を出してるけど、言ってる内容は最低ね」


「褒めるなよ。照れるだろ」


「じゃあ、忍び込むわよ」


 怒るどころか途中で聞くのをやめ、ティエナはトルドールの屋敷の裏口を見る。かつての住人なので、一般人では知りようもない場所まで知っていた。


「レイシャルラが調査してる間に、聞き込みをするんじゃなかったのか?」


「したところで、誰も知ってるわけないでしょ。悪魔召還なんて企てておきながら、管理が甘かったらそれはそれで問題よ」


 地下室の惨状を目にして、弟が行方不明なわりには意外と冷静に物事を考えている。


「やはり、着替えるためといって俺をレイシャルラに預けて戻った自室で、ひとしきり号泣したのが功を奏したみたいだな」


 一瞬にして、ティエナが顔面を真っ赤にする。


「ど、どうしてそれを知ってるのよ?」


「戻ってくる時間が遅かったからな。俺だけじゃなくて、他の奴らにもバレバレだったと思うぞ」


「ああ、そうなの。でもね、こういう場合は黙ってる方が紳士的だと思うわよ」


「何だ、お前。俺に紳士な役割を期待してるのか」


「……いいえ。無理に決まってるものね」


 ふうと息を吐いたティエナは、改めて追い出されたという家を見る。


「わかってると思うが、懐かしんでる暇はないぞ。本当に侵入するつもりならな」


「もちろんよ。レイシャルラさんが、トルドールを引き付けてくれている間が勝負ね」


 調査という名目で屋敷に来たレイシャルラを、トルドールがひとりにするはずがない。もしかしなくともついてまわり、あれこれと屋敷に関する説明などをするに決まっている。


 その間にティエナは裏口から侵入し、トルドールと悪魔召還を結びつける何かがないか探すつもりだった。


「場所の目処はついてるのか?」


「この家にも地下があるの。王位継承権第一位の者が代々住む屋敷だけに、侵入者用の対策が施されているの。以前、お父様に教えてもらったわ」


「どうやってそこに行くんだ?」


 トルドールの屋敷は、ダイン家の屋敷同様に二階建てだ。しかし敷地面積は圧倒的にこちらが上で、ダイン家が丸ごと三つは入りそうだった。


 外装も豪華で基本は石造りなのだが、壁や柱には天使をかたどったような少女が彫られている。門も非常に立派で、高さは二メートル近くある。


 ティエナの話では表門を過ぎれば中庭。裏門を通れば裏庭があるらしい。裏口とはいえ、もうひとつのきちんとした出入口なのである。扉にはしっかりと鍵がかけられ、裏庭を使用人たちがせっせと手入れしている。


「お前、元はここの住人だったんだろ。知り合いに頼んで入れてもらったらどうだ」


 我ながら妙案と思ったのだが、すぐにティエナに却下される。


「使用人たちは家で雇っているのではなく、国が雇っているの。それも何代も続けて担当してくれている者ばかりで、忠誠心は確かよ。それに応じてくれる者がいたとして、バレたらあとでトルドールに酷い目にあわされるわ」


「ならどうするんだ」


「アンタの出番でしょ。強化した身体能力を駆使して、二階から侵入するの。洞窟では、二メートル以上はあった天井に届きそうなくらい飛べたんだもの。頑張ればバルコニーにいけるでしょ」


 ずいぶんと楽観的な作戦である。バルコニーまでジャンプできても、そこからどうするのか。


 そう尋ねたマーラに、笑顔でティエナは答える。壊せばいいと。


「思い出の詰まってる家じゃなかったのか」


「今はもう憎いトルドールの家よ。汚された思い出ごと綺麗にしてやるわ。それにアンタの切れ味なら、音もなく窓を斬れるでしょ。バルコニーのある部屋は、以前は私の私室だったの」


 該当の部屋を見上げ、ティエナが不快そうに眉間へ縦じわを刻んだ。


「ろくに荷物を整理する暇もなく追い出されたおかげで、私物も色々と残っているはず。侵入したら窓を斬ったとわからないように工作するわ。少しの間で十分。屋敷へ侵入後に発見されれば、騒ぎに乗じて脱出するチャンスができるしね」


 よく練られていると褒めてやりたいところだが、それでもかなりの部分を運に頼っている。成功よりも、失敗の可能性が高く思えるほどに。


「大丈夫よ。途中でバレて捕まりそうになったら、力ずくで逃げるもの。両親の名誉は、今回の件でトルドールの狙い通りに跡形もなくなるだろうし、失うものはないわ。ダイン家にいなかった以上、ディグルもこの家に捕らわれてる可能性が高いし、助けてさっさと王都を出るわよ。もちろん、その前にムカつく男のニヤケ顔に一発入れていくけどね」


「物騒な女だな」


「きっと、マーラと一緒に行動しているせいね。責任取ってもらうわよ。トルドールに見つかった場合も、最後までね」


 軽いウインクと一緒にお願いされたら、とてもじゃないが断れない。心も熱くなるが、滾るのとは少し違う。


 いつまでも身体能力が高まらないのを実感中のティエナの機嫌が、徐々に悪くなってくる。


「ねえ」


「どうした」


「さっさと滾らせなさいよ」


「街中で卑猥な。痴女か、お前は」


「からかいはいらないのよ。お父様が再び罠にはめられたのか、ディグルは無事なのかを早く確認したいんだけど?」


 上から見下ろす睨みつけに低いトーンの声が加われば、恐ろしさも倍増する。


 恐怖で力を発揮できるのなら有効な手法だが、生憎とマーラには通じない。


「そんなことを言っても、滾ってなければ俺は並以下の剣なんだよ。ティエナだってわかってるだろ」


「知ってるから、肌が露わになってる服を着てあげてるんじゃない。王都の人にもじろじろ見られて、意外と恥ずかしいんだからね!」


 すらりと伸び、触り心地が良さそうな二の腕に、ホットパンツから抜群のラインを描いて大地を踏みしめる両足。


 ニーソックスで大半が隠れていても、むっちりとしたマーラ好みの太腿はしっかりお目見えしている。普通ならムラムラっと滾るところなのだが、何故かその兆候はない。興奮しているにも関わらずだ。


「すまん」


 マーラは率直に謝罪した。


「何が?」


「なんか、慣れたっぽい」


「はあ!?」


 やっぱり怒られた。滾らせなければ能力を発揮できないと言われたので頑張ってみた結果、慣れたと言われる。逆の立場だったなら、確実にマーラも不愉快になったはずだ。


「こう、せめて肉感的な何かというか、ボディタッチというか、ぽにぽにむにむにを味わわせろ」


「却下。さっさと滾らせなさい。ぶつわよ」


 こうしている間にも、表門で迎え入れられたレイシャルラは、トルドールと屋敷内を見て回っている。急がなければ、何もしないうちに時間切れとなる。


「滾らせろと言われて、簡単に滾れるなら苦労はないんだよ。やりたいことがあるなら協力しろ」


「くうう、まったく手にかかる魔剣ね。わかったよ!」


 顔を真っ赤にしたティエナはノースリーブの丸襟を指で軽く引っ張り、胸元をマーラに覗き込ませた。女の秘密の詰まった闇が太陽に照らされ、健康的な胸元が光って見える。その輝きは、実りの秋に燦然と存在感を発揮する黄金の稲穂のごときだった。


 高まるボルテージに引っ張られ、実際は流れていないのだが、体内の血液が逆流しそうなほど熱くなる。


「うおお、来たっ! 燃え上がれ、俺のリビドー!」


「ちょ、ちょっと大きな声を出さないでよ。私が変な人に思われるでしょ!」


「……そんなことを言われると、萎えるぞ」


「わ、わかったわよ。もう好きにして。うう、色々な意味で恥ずかしい……」


 素で恥ずかしがる顔も、マーラにとっては己を昂らせる極上のスパイスとなる。加速する滾り度により、ティエナの身体能力も着実に強化されていく。


 何度かマーラの影響下でパワーアップしているのもあり、今ならどのくらい動けるのかを、なんとなくティエナはわかっているみたいだった。


「凄いな、ティエナ。強化レベルが自分で判断できるようになったのか」


 マーラは素直に感心する。


「大体だけどね。体の熱量によって変わるみたいだから」


「体の熱量? つまり今のティエナは全身が火照ってるのか……ふ、ふおお――っ!」


「え、ええっ!? 一体どこで滾ってるのよ。アンタのスイッチがまったくわからないんだけど!」


 エロとはデリケートで扱いが難しいものなのだ。そう言ったところで理解してもらえそうもないので、言葉を喋るよりもせっかく見せてもらえている双丘を凝視する。


 そこでマーラは目撃する。深く切れ込んだ谷間に、じっとりと汗が浮かんでいるのを。


 女の火照る肌に浮かぶ透明な雫。これで興奮しなければ一体何で滾れというのか。今がまさに最高潮まで達する時である。


「う、うわ。まだ滾ってんの? な、なんか体が熱くなってきちゃった」


 惚けたように呟くのは反則だ。妄想と暴走が止まらないマーラはひたすら滾り続け、ティエナの肉体はいまだかつてないほど強化される。

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