手作りの、カカシ。
だけどカカシって、どうやって作るんだろ?
『……』
ボクは頭を捻った。
だってボク、『カカシ』なんて作った事がない。小鳥たちはボクの唯一のお友だち。その友だちを追い出すカカシなんて、作るわけがない。
『……』
そう思うと、なんだか少し、可哀想になってきた。
あの子もボクのお友だちになりたいって思って、この屋敷に通って来るのだろうか……?
そんな思いが、頭をよぎる。
だけどボクは、激しく頭を振った!
いやいやいやいや。それはない。それは絶対ない。
だってアイツは『人間』なんだ! 大好きな盛誉を死に追いやった、嫌な嫌な『人間』なんだぞ!
たとえ相手が友だちになりたいって言っても、こっちが嫌だ。
ボクは買ってきたばかりの布をぞんざいに手に取った。
もう、だいたいの計画は立てている。
要はボクに似たヤツ……カカシを作ればいいんだろ? だってカカシは人間にソックリだ。
嫌な奴にソックリだから、小鳥はカカシに近づかない。
怖い人間がいるんだぞ! っていって、人間はカカシを作って、小鳥を脅かしてるんだ。
畑に小鳥たちが近づけないように、近づきたくないように、怖い自分の姿に似せたカカシを作って置く。
だけどアイツは『人間』だ。
ボクはカカシを作る計画を練りはしたけれど、人間相手に同じ仲間の人間を作ってもどうしようもない。
だからボクは考えた!
考えに考えた!
そうだ!
ボクを作ればいいんだ!!
ボクみたいなデッカイ猫は存在しない。
四百年生きてきて、それは嫌というほど思い知らされた。
だからボクを作って、あの場所に置いておけば、アイツは怖がって近づかないと思うんだ!
だから、できるだけ うんとデッカイヤツを作ろう!
綿をたっぷり入れて大きく見せて、それから爪は|刺さるほどに鋭く。牙はギザギザに。
それからそれから、ギラギラ光る金色の目に、血のように真っ赤に開いた大きな口!
だけど間違えちゃいけない。これは猫だ!
あくまで『猫』!!
オオカミに見えないようにしなくっちゃ。
ボクのシッポは、オオカミのとは全然違う。細くて真っ直ぐで、ツヤツヤの自慢のボクのシッポ。
毛並みだってゴワゴワのオオカミと違う。フワフワ細くて柔らかな手触りのボクのシッポ。そこを絶対に間違えてはいけない。
だから布地を選ぶ時には苦労した。
……え? どうやって布を買ったかだって?
盗んだのかって?
失礼な! ボクは、そんなことしない!
ボクはね、人からは見えない。
正確には『認識されない』。
分かる?『認識』。
ボクは猫なんだけれど、ボクを見る人はボクは確かに見えてはいて、話も出来るんだけど、ボクが大きな猫だってことは分からない。
……どう見えてるか……なんて、ボクは分からないんだけど、どうやら あやふやな存在として、認識されているみたいなんだ。
『……』
よく、……分からないんだけどね、この力。
あるようで、ないような変な力。
だけど一人で生活するのには好都合。
人間たちはボクを勝手に『人』として認識してくれた。
だから生活に必要なお金を稼ぐことも出来たし、こうやって買い物も出来る。だからこれは、けして盗んだ物なんかではないないんだよ?
え?
……だったら人として暮らせって?
…………ううん。それは絶対に嫌だ。
ボクは、盛誉と玖月善女さまの命を奪った人間が許せない。
あの二人がいないのに、ニコニコ幸せそうに生きている、あの人間たちを見ていると、苦しくてたまらない。
悲しくて悲しくて、どうしようもなくなるんだ。
……だからボクは一人でいたい。
誰にも邪魔されず、
静かにここで暮らすんだ……!
ボクは出来上がったその『カカシ』を持ち上げてみた。
ボクと同じくらいデカい。
……うーん。ちょっと、カカシの方がボクより小さいかな?
でも、あの女の子はとても小さかったから、これでちょうどいいかも知れない。
ボクは満足気に うなづいた。
うなづいて、少しだけ、そっと目をつぶる。
……あぁ、でもどうしてだろう?
心が痛い。
心がものすごく痛いんだ。
なぜだかすごく、悲しくて寂しくてたまらない。
ボクは目を開け、出来上がったボクのカカシを見る。
カカシは、すごく怖い。
ギラギラとがった目に、大きな口。
うん。
……これだったら、上出来だ。
怖いんだったら上出来だ……。
『……』
大きくて怖くて、
それから すごく…………、
すごく、
悲しそうに見えた──。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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